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土曜日。
倉見は珍しく昼まで寝ていた。
どうせ予定は何もない。たまにはこんな日があってもいい……と、半ば開き直るように、寝返りを打っていたが……
気温が上がってきたせいか、室内の暑さに耐えきれず起き上がると、エアコンをつけた。
「……」
しばらくぼんやりと虚空を見つめる。そしてふと、気づいて机の上のハンカチに目をやった。
手に取って眺める。
アイロンでもかけたのか。キレイに洗って畳んである。意外に几帳面な男なんだな……と思って、倉見は笑った。
ちょっと近くまで来たから……と言っていたが、本当だろうか。
わざわざ返しに来てくれたのでは?
あらかじめ連絡をくれていたら、ちゃんと説明したのに――
(驚いた顔してたな……)
千秋を彼女だと勘違いしたようだったが――にしても、あんな風に立ち去ることはないだろう。
きちんと説明したいが、改めて話をするのもなんだかおかしな気がする。
(これじゃまるで、浮気現場を見られた彼氏みたいじゃないか)
思わず苦笑したが、今の倉見の心境はまさにそれだった。どう言い訳しようかと、必死に考えている。
倉見はスマホを手に取って、綾瀬にメッセージを送ろうとした。が――
(なんて書けばいい?あの人は彼女じゃないよって書く?)
でもそれじゃ本当に綾瀬に対して変な言い訳しているみたいだ。
別に自分が女と一緒にいようがいまいが、彼になんの関係がある?
綾瀬と自分が恋人同士ならともかく――
「……」
そこまで考えて、倉見はため息をついた。
自分が、綾瀬の事を意識しているのは何となく自覚している。彼がゲイだと知ってからは、特に。
だからきっと、過剰に反応しているだけだ。普通なら何でもない態度や言葉なのに、もしかしたら自分に気があるのでは?と疑っているだけ。
(彼にだって好みはあるだろう。勝手に意識されたら彼だって迷惑なはず)
倉見はスマホを置いて、もう一度布団に倒れ込んだ。
そして天井を見上げながら、じゃあ――と思う。
なんでキスなんてしたんだ?
酔った勢いでキス?
好きでもない相手に、そんなことする?
俺だったら……多少でも気があるからキスが出来る。その気がなければしない。
もちろん自分は女にだが――
それとも、単にからかわれただけだろうか?
「あぁ……分かんない……」
倉見は声に出して悶えた。
「俺、なにで悩んでんの……?」
頭を引っかき回しながら、うーん……と唸る。
もう一度聞いてみる?俺の事好きなの?って――でも茶化されて終わったし、あれは本気じゃない言い方だったし……
『じゃあ、お前自身はどうなんだよ?』
「―――!?」
不意に、もう一人の自分に問いかけられて、倉見は起き上がった。
(俺?)
胸を押さえてハッとする。
ハンカチを手に取って、それを開く。目の前にかざして倉見はじっと見つめた。
自分と会うための口実を返されてしまった……
まるで、もう二度と会わないと言われてしまったような気がして――なぜだか胸が痛む。
36年生きてきたが、こんなことは初めてだった。初めて経験する感情の津波だった。
乗り越え方なんて分かるものか。
でも、「連絡します」と言ってくれた、あの時の綾瀬の言葉が、今もまだ小さな灯火となって胸に残っている。
不思議と温かく、優しい光だ――
「……」
倉見は目を閉じると、唇にそっと指を押し当てた。
自分が何を求めているのか――それを確認するために……
倉見は想像の中でもう一度、綾瀬とキスをした。
倉見は珍しく昼まで寝ていた。
どうせ予定は何もない。たまにはこんな日があってもいい……と、半ば開き直るように、寝返りを打っていたが……
気温が上がってきたせいか、室内の暑さに耐えきれず起き上がると、エアコンをつけた。
「……」
しばらくぼんやりと虚空を見つめる。そしてふと、気づいて机の上のハンカチに目をやった。
手に取って眺める。
アイロンでもかけたのか。キレイに洗って畳んである。意外に几帳面な男なんだな……と思って、倉見は笑った。
ちょっと近くまで来たから……と言っていたが、本当だろうか。
わざわざ返しに来てくれたのでは?
あらかじめ連絡をくれていたら、ちゃんと説明したのに――
(驚いた顔してたな……)
千秋を彼女だと勘違いしたようだったが――にしても、あんな風に立ち去ることはないだろう。
きちんと説明したいが、改めて話をするのもなんだかおかしな気がする。
(これじゃまるで、浮気現場を見られた彼氏みたいじゃないか)
思わず苦笑したが、今の倉見の心境はまさにそれだった。どう言い訳しようかと、必死に考えている。
倉見はスマホを手に取って、綾瀬にメッセージを送ろうとした。が――
(なんて書けばいい?あの人は彼女じゃないよって書く?)
でもそれじゃ本当に綾瀬に対して変な言い訳しているみたいだ。
別に自分が女と一緒にいようがいまいが、彼になんの関係がある?
綾瀬と自分が恋人同士ならともかく――
「……」
そこまで考えて、倉見はため息をついた。
自分が、綾瀬の事を意識しているのは何となく自覚している。彼がゲイだと知ってからは、特に。
だからきっと、過剰に反応しているだけだ。普通なら何でもない態度や言葉なのに、もしかしたら自分に気があるのでは?と疑っているだけ。
(彼にだって好みはあるだろう。勝手に意識されたら彼だって迷惑なはず)
倉見はスマホを置いて、もう一度布団に倒れ込んだ。
そして天井を見上げながら、じゃあ――と思う。
なんでキスなんてしたんだ?
酔った勢いでキス?
好きでもない相手に、そんなことする?
俺だったら……多少でも気があるからキスが出来る。その気がなければしない。
もちろん自分は女にだが――
それとも、単にからかわれただけだろうか?
「あぁ……分かんない……」
倉見は声に出して悶えた。
「俺、なにで悩んでんの……?」
頭を引っかき回しながら、うーん……と唸る。
もう一度聞いてみる?俺の事好きなの?って――でも茶化されて終わったし、あれは本気じゃない言い方だったし……
『じゃあ、お前自身はどうなんだよ?』
「―――!?」
不意に、もう一人の自分に問いかけられて、倉見は起き上がった。
(俺?)
胸を押さえてハッとする。
ハンカチを手に取って、それを開く。目の前にかざして倉見はじっと見つめた。
自分と会うための口実を返されてしまった……
まるで、もう二度と会わないと言われてしまったような気がして――なぜだか胸が痛む。
36年生きてきたが、こんなことは初めてだった。初めて経験する感情の津波だった。
乗り越え方なんて分かるものか。
でも、「連絡します」と言ってくれた、あの時の綾瀬の言葉が、今もまだ小さな灯火となって胸に残っている。
不思議と温かく、優しい光だ――
「……」
倉見は目を閉じると、唇にそっと指を押し当てた。
自分が何を求めているのか――それを確認するために……
倉見は想像の中でもう一度、綾瀬とキスをした。
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