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sorarion914

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#21

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「一緒にいた彼も……その?」
「いいえ。彼はまったくの……いわゆるノンケってやつ。だから余計、自分のエゴで引き止めるわけにはいかないなって」
「そうか……」
 グラスの氷をカラカラと指で回しながら、綾瀬は独り言のように呟く。
「俺以上に彼を必要としていて、待ってる家族がいるって思ったら――無理言えなかった……」
 倉見は頷いた。
「それで潔く身を引いたんだ」
「でもすっごく後悔してる」
 ガックリと項垂れる綾瀬を見て、倉見は笑った。
「綾瀬さんはカッコいいから男にも女にもモテるでしょう」
「倉見さんだって、モテるでしょう!?いや絶対モテる!!」
「何トークで盛り上がってるの?」
 カウンターから、バーテンの男が2人の顔を見比べながらそう聞いてきた。
「ねぇテツさん、倉見さん絶対モテますよね!?」
 テツさんと呼ばれたバーテンは、頷きながら倉見の顔を見ると、「爽やかなイケメン君ね。僕はタイプだよ」とウインクして笑う。
 倉見は思わず息を飲んだ。
「エージさんに会わせたかったなぁ……」
 だいぶ酔いが回っているらしい綾瀬を見て、倉見は腕時計を見ると「そろそろ出ましょう。明日も仕事でしょう?」と言った。
「あぁ――そうだった……研修のレポート書かなきゃぁ……」
 項垂れる綾瀬に倉見は笑うと、「そんな宿題出されたんなら、早く帰らないと」と言って帰宅を促す。
「電車なくなっちゃうよ?」
「トイレ行きたい……」
 唐突に言う綾瀬に、倉見はヤレヤレと立ち上がると、腕をとって立ち上がらせた。ふらつく綾瀬を心配して、トイレまで連れていく。
「大丈夫?ちゃんと歩ける?」
「うん……」
 店の奥にあるトイレのドアを開け、綾瀬を中に入れる――と。
 不意に腕を掴まれて倉見はトイレの中へ引っ張り込まれた。
「――ッ!?」
 綾瀬は倉見の腕を掴むと、抱き寄せながらドアを閉めた。そしてキスをする。
 倉見の体が一瞬硬直した。
 それでも構わず、綾瀬はきつく抱きしめた。
 服の上から、互いの息遣いを感じる。鼓動。体温。匂い。そして倉見からは微かな戸惑い――
 唇を離す瞬間、綾瀬は殴られるかと思ったが、倉見は何もしてこなかった。
 目が合い、じっと見つめ合う。
 自分を見下ろす綾瀬を、倉見は黙って見上げたまま――2度目のキスも拒むことはなかった。

 この日。
 互いにどうやって家路についたのか、まるで記憶になかった。
 ただ一つ、忘れていたことを思い出す。


 そうだ。
 ハンカチの事――忘れてた。
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