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「結婚する予定だったんですか?」
綾瀬は驚いた顔をして聞いた。
「何事もなければ今月末にね」
倉見はそう言って苦笑いを浮かべると、バーボンのロックを一口飲んだ。
「でも、俺と付き合う前の男と寄りが戻ったらしくて……」
早苗から聞いた顛末も語って聞かせると、綾瀬は怒ったような顔をして言った。
「なにそれ!」
「ほんと、なにそれ?!だよな」
「許すんですか?そんなことされて」
「許すも何も……まともに会って話してくれないし――指輪突っ返されて破談になったから、もういいや!って」
「……」
綾瀬はじっと目の前に座る倉見の顔を見つめた。
「まぁ……そんな事があって、ちょっと――っていうか、かなり落ち込んでました」
情けない自分を誤魔化すように、倉見は一気にグラスの酒を煽った。
「そんなことがあったなんて、知らなかったです……」
倉見は肩をすくめると、「そういう綾瀬さんは?」と聞いた。
「彼女いるでしょう?モテそうだ」
綾瀬は微かに笑うと、「実は俺も……」と言った。
「最近別れたばっかりで」
「そうなんだ」
目を見張って自分を見る倉見に、綾瀬は照れたように頭をかいた。
「1年くらい同棲してて……でも別れちゃった」
「そうか……その人とは結婚まで考えてた?」
「それは――」
意味深な表情を浮かべると、「ちょっと難しいかな」と苦笑する。
「その人は実家が旅館でさ。一人っ子だったから後を継がなくちゃいけなくて。本人はずっと、そのつもりはないって言ってたけど……やっぱりね」
「……」
「俺と一緒にいるって言ってくれたけど……自分に繋ぎ止めておくのが申し訳なくて――で、カッコつけて『気にすんな!さっさと行け!』って言っちゃった」
そう言って笑う綾瀬に、倉見も小さく笑った。
「でも寂しくて、ちょっと後悔してる」
「分かるよ。寂しいって気持ち」
「1人寝がこんなに寂しいんだって気づいたよ。いつも隣にいた彼は、もういないんだなぁって――」
「―――……」
倉見はしばらく黙っていたが、不意に何かに気づいたように、え?という顔をした。
「彼?」
「――」
「――」
互いに、しばらく無言で見つめ合った。
「そこ……一旦、スルーしません?」
綾瀬はそう言ったが、倉見は「いやいやいや」と手を振って言った。
「無理だって。だって聞いちゃったもん。え?え?綾瀬さんって……その……」
綾瀬は仕方ない――と覚悟を決めると、「そ。俺ゲイなんです」と開き直った。
「あぁ……そうだったんだ……」
「やっぱり驚きますよね?」
「そりゃだって……そんな風には全然見えなかったから」
「あはは、まぁそうッスよね」
綾瀬は軽く唇を噛んで俯いた。倉見も黙って俯く。
綾瀬は空になった自分のグラスをカウンターの方に見せると、「同じのもう一杯ちょうだい」と言った。
そして同じように空になっている倉見のグラスを見て聞いた。
「倉見さんは?何か飲みます?」
「え?あ……じゃあ俺も同じヤツを」
彼にも同じものを――と頼んで、倉見に笑いかけた。
「まぁ……あんまり気にしないで。って言っても――もう遅いか」
そう言って明るく笑い飛ばす綾瀬に、倉見は「平気だよ」と笑った。
「俺、気にしないから」
「倉見さん……」
綾瀬は嬉しそうな笑みを浮かべた。
綾瀬は驚いた顔をして聞いた。
「何事もなければ今月末にね」
倉見はそう言って苦笑いを浮かべると、バーボンのロックを一口飲んだ。
「でも、俺と付き合う前の男と寄りが戻ったらしくて……」
早苗から聞いた顛末も語って聞かせると、綾瀬は怒ったような顔をして言った。
「なにそれ!」
「ほんと、なにそれ?!だよな」
「許すんですか?そんなことされて」
「許すも何も……まともに会って話してくれないし――指輪突っ返されて破談になったから、もういいや!って」
「……」
綾瀬はじっと目の前に座る倉見の顔を見つめた。
「まぁ……そんな事があって、ちょっと――っていうか、かなり落ち込んでました」
情けない自分を誤魔化すように、倉見は一気にグラスの酒を煽った。
「そんなことがあったなんて、知らなかったです……」
倉見は肩をすくめると、「そういう綾瀬さんは?」と聞いた。
「彼女いるでしょう?モテそうだ」
綾瀬は微かに笑うと、「実は俺も……」と言った。
「最近別れたばっかりで」
「そうなんだ」
目を見張って自分を見る倉見に、綾瀬は照れたように頭をかいた。
「1年くらい同棲してて……でも別れちゃった」
「そうか……その人とは結婚まで考えてた?」
「それは――」
意味深な表情を浮かべると、「ちょっと難しいかな」と苦笑する。
「その人は実家が旅館でさ。一人っ子だったから後を継がなくちゃいけなくて。本人はずっと、そのつもりはないって言ってたけど……やっぱりね」
「……」
「俺と一緒にいるって言ってくれたけど……自分に繋ぎ止めておくのが申し訳なくて――で、カッコつけて『気にすんな!さっさと行け!』って言っちゃった」
そう言って笑う綾瀬に、倉見も小さく笑った。
「でも寂しくて、ちょっと後悔してる」
「分かるよ。寂しいって気持ち」
「1人寝がこんなに寂しいんだって気づいたよ。いつも隣にいた彼は、もういないんだなぁって――」
「―――……」
倉見はしばらく黙っていたが、不意に何かに気づいたように、え?という顔をした。
「彼?」
「――」
「――」
互いに、しばらく無言で見つめ合った。
「そこ……一旦、スルーしません?」
綾瀬はそう言ったが、倉見は「いやいやいや」と手を振って言った。
「無理だって。だって聞いちゃったもん。え?え?綾瀬さんって……その……」
綾瀬は仕方ない――と覚悟を決めると、「そ。俺ゲイなんです」と開き直った。
「あぁ……そうだったんだ……」
「やっぱり驚きますよね?」
「そりゃだって……そんな風には全然見えなかったから」
「あはは、まぁそうッスよね」
綾瀬は軽く唇を噛んで俯いた。倉見も黙って俯く。
綾瀬は空になった自分のグラスをカウンターの方に見せると、「同じのもう一杯ちょうだい」と言った。
そして同じように空になっている倉見のグラスを見て聞いた。
「倉見さんは?何か飲みます?」
「え?あ……じゃあ俺も同じヤツを」
彼にも同じものを――と頼んで、倉見に笑いかけた。
「まぁ……あんまり気にしないで。って言っても――もう遅いか」
そう言って明るく笑い飛ばす綾瀬に、倉見は「平気だよ」と笑った。
「俺、気にしないから」
「倉見さん……」
綾瀬は嬉しそうな笑みを浮かべた。
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