20 / 40
#20
しおりを挟む
「結婚する予定だったんですか?」
綾瀬は驚いた顔をして聞いた。
「何事もなければ今月末にね」
倉見はそう言って苦笑いを浮かべると、バーボンのロックを一口飲んだ。
「でも、俺と付き合う前の男と寄りが戻ったらしくて……」
早苗から聞いた顛末も語って聞かせると、綾瀬は怒ったような顔をして言った。
「なにそれ!」
「ほんと、なにそれ?!だよな」
「許すんですか?そんなことされて」
「許すも何も……まともに会って話してくれないし――指輪突っ返されて破談になったから、もういいや!って」
「……」
綾瀬はじっと目の前に座る倉見の顔を見つめた。
「まぁ……そんな事があって、ちょっと――っていうか、かなり落ち込んでました」
情けない自分を誤魔化すように、倉見は一気にグラスの酒を煽った。
「そんなことがあったなんて、知らなかったです……」
倉見は肩をすくめると、「そういう綾瀬さんは?」と聞いた。
「彼女いるでしょう?モテそうだ」
綾瀬は微かに笑うと、「実は俺も……」と言った。
「最近別れたばっかりで」
「そうなんだ」
目を見張って自分を見る倉見に、綾瀬は照れたように頭をかいた。
「1年くらい同棲してて……でも別れちゃった」
「そうか……その人とは結婚まで考えてた?」
「それは――」
意味深な表情を浮かべると、「ちょっと難しいかな」と苦笑する。
「その人は実家が旅館でさ。一人っ子だったから後を継がなくちゃいけなくて。本人はずっと、そのつもりはないって言ってたけど……やっぱりね」
「……」
「俺と一緒にいるって言ってくれたけど……自分に繋ぎ止めておくのが申し訳なくて――で、カッコつけて『気にすんな!さっさと行け!』って言っちゃった」
そう言って笑う綾瀬に、倉見も小さく笑った。
「でも寂しくて、ちょっと後悔してる」
「分かるよ。寂しいって気持ち」
「1人寝がこんなに寂しいんだって気づいたよ。いつも隣にいた彼は、もういないんだなぁって――」
「―――……」
倉見はしばらく黙っていたが、不意に何かに気づいたように、え?という顔をした。
「彼?」
「――」
「――」
互いに、しばらく無言で見つめ合った。
「そこ……一旦、スルーしません?」
綾瀬はそう言ったが、倉見は「いやいやいや」と手を振って言った。
「無理だって。だって聞いちゃったもん。え?え?綾瀬さんって……その……」
綾瀬は仕方ない――と覚悟を決めると、「そ。俺ゲイなんです」と開き直った。
「あぁ……そうだったんだ……」
「やっぱり驚きますよね?」
「そりゃだって……そんな風には全然見えなかったから」
「あはは、まぁそうッスよね」
綾瀬は軽く唇を噛んで俯いた。倉見も黙って俯く。
綾瀬は空になった自分のグラスをカウンターの方に見せると、「同じのもう一杯ちょうだい」と言った。
そして同じように空になっている倉見のグラスを見て聞いた。
「倉見さんは?何か飲みます?」
「え?あ……じゃあ俺も同じヤツを」
彼にも同じものを――と頼んで、倉見に笑いかけた。
「まぁ……あんまり気にしないで。って言っても――もう遅いか」
そう言って明るく笑い飛ばす綾瀬に、倉見は「平気だよ」と笑った。
「俺、気にしないから」
「倉見さん……」
綾瀬は嬉しそうな笑みを浮かべた。
綾瀬は驚いた顔をして聞いた。
「何事もなければ今月末にね」
倉見はそう言って苦笑いを浮かべると、バーボンのロックを一口飲んだ。
「でも、俺と付き合う前の男と寄りが戻ったらしくて……」
早苗から聞いた顛末も語って聞かせると、綾瀬は怒ったような顔をして言った。
「なにそれ!」
「ほんと、なにそれ?!だよな」
「許すんですか?そんなことされて」
「許すも何も……まともに会って話してくれないし――指輪突っ返されて破談になったから、もういいや!って」
「……」
綾瀬はじっと目の前に座る倉見の顔を見つめた。
「まぁ……そんな事があって、ちょっと――っていうか、かなり落ち込んでました」
情けない自分を誤魔化すように、倉見は一気にグラスの酒を煽った。
「そんなことがあったなんて、知らなかったです……」
倉見は肩をすくめると、「そういう綾瀬さんは?」と聞いた。
「彼女いるでしょう?モテそうだ」
綾瀬は微かに笑うと、「実は俺も……」と言った。
「最近別れたばっかりで」
「そうなんだ」
目を見張って自分を見る倉見に、綾瀬は照れたように頭をかいた。
「1年くらい同棲してて……でも別れちゃった」
「そうか……その人とは結婚まで考えてた?」
「それは――」
意味深な表情を浮かべると、「ちょっと難しいかな」と苦笑する。
「その人は実家が旅館でさ。一人っ子だったから後を継がなくちゃいけなくて。本人はずっと、そのつもりはないって言ってたけど……やっぱりね」
「……」
「俺と一緒にいるって言ってくれたけど……自分に繋ぎ止めておくのが申し訳なくて――で、カッコつけて『気にすんな!さっさと行け!』って言っちゃった」
そう言って笑う綾瀬に、倉見も小さく笑った。
「でも寂しくて、ちょっと後悔してる」
「分かるよ。寂しいって気持ち」
「1人寝がこんなに寂しいんだって気づいたよ。いつも隣にいた彼は、もういないんだなぁって――」
「―――……」
倉見はしばらく黙っていたが、不意に何かに気づいたように、え?という顔をした。
「彼?」
「――」
「――」
互いに、しばらく無言で見つめ合った。
「そこ……一旦、スルーしません?」
綾瀬はそう言ったが、倉見は「いやいやいや」と手を振って言った。
「無理だって。だって聞いちゃったもん。え?え?綾瀬さんって……その……」
綾瀬は仕方ない――と覚悟を決めると、「そ。俺ゲイなんです」と開き直った。
「あぁ……そうだったんだ……」
「やっぱり驚きますよね?」
「そりゃだって……そんな風には全然見えなかったから」
「あはは、まぁそうッスよね」
綾瀬は軽く唇を噛んで俯いた。倉見も黙って俯く。
綾瀬は空になった自分のグラスをカウンターの方に見せると、「同じのもう一杯ちょうだい」と言った。
そして同じように空になっている倉見のグラスを見て聞いた。
「倉見さんは?何か飲みます?」
「え?あ……じゃあ俺も同じヤツを」
彼にも同じものを――と頼んで、倉見に笑いかけた。
「まぁ……あんまり気にしないで。って言っても――もう遅いか」
そう言って明るく笑い飛ばす綾瀬に、倉見は「平気だよ」と笑った。
「俺、気にしないから」
「倉見さん……」
綾瀬は嬉しそうな笑みを浮かべた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
解放
papiko
BL
過去にCommandされ、名前を忘れた白銀の髪を持つ青年。年齢も分からず、前のDomさえ分からない。瞳は暗く影が落ち、黒ずんで何も映さない。
偶々、甘やかしたいタイプのアルベルに拾われ名前を貰った白銀の青年、ロイハルト。
アルベルが何十という数のDomに頼み込んで、ロイハルトをDropから救い出そうとした。
――――そして、アルベル苦渋の決断の末、選ばれたアルベルの唯一無二の親友ヴァイス。
これは、白銀の青年が解放される話。
〘本編完結済み〙
※ダイナミクスの設定を理解してる上で進めています。一応、説明じみたものはあります。
※ダイナミクスのオリジナル要素あります。
※3Pのつもりですが全くやってません。
※番外編、書けたら書こうと思います。
【リクエストがあれば執筆します。】
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる