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関東地方は、週明けから梅雨入りする見込みだという予報通り、この日は朝から雨が降ったり止んだりしていた。
倉見は定時で会社を出ると、待ち合わせ場所である新宿駅で電車を降りた。
平日の帰宅時間は人が多い。
待ち合わせとして指定した場所も、同じように人待ち顔で佇む人が大勢いる。
(気づくかな……)
倉見がスマホを手に辺りを見回していると、「倉見さん」と背後から声をかけられて振り向いた。
「お疲れ様です」
目の前に、スーツを着た背の高い男が立っている。
一瞬誰だか分からなくて倉見は驚いたように目を見張った。
「綾瀬さん?」
茶色かった髪を黒に戻し、着慣れないスーツに身を包んだ綾瀬は、少し照れたように笑った。
「誰かと思いました」
倉見も笑うと、少し眩しそうに綾瀬を見た。
「研修中はスーツ着用って言われて……髪も茶髪はダメだって――だから、仕方なく」
思いっきり不本意であることを訴えつつも、「でも今日は同じサラリーマン同士ですね」と嬉しそうに肩を並べる。
荷物が入ったリュックを右肩にかけ、ネクタイを少し緩めた首元が妙に色っぽい。
上背もあるし見た目も申し分ない。どんな服装も様になる男だな……と、倉見は少し羨ましくなった。
「まずは食事でもどうですか?その後、知ってる店があるんで、そこで少し飲みましょう」
綾瀬はそう言うと、慣れたように倉見をリードする。
隣を歩く背の高い綾瀬に守られるように、倉見は人波の中を歩いた。
時折、すれ違う人が自分達の方を見る。モデルのような見栄えの綾瀬が一緒だ。気持ちは分かるが、隣を歩いている倉見としては肩身が狭い。
「さっきの子、倉見さん見てた」
「え?違うよ、綾瀬さんを見てた」
「俺じゃないよ」
綾瀬はそう言うと嬉しそうに言った。
「今日の倉見さん、なんかいつもと違う。髪型かなぁ?」
綾瀬はそう言うと、歩きながらジロジロと顔を覗き込んできた。
「スーツの色とネクタイもバッチリ決まってるし、何かスポーツやってました?」
「え?あぁ……陸上を」
「陸上部?」
「高校と大学で。短距離を」
「へぇ、アスリートだぁ」と綾瀬は笑った。
「だから締まったいい体してるんだ」
「でも辞めて何年も経つよ」
倉見は苦笑した。
「でも鍛えてるでしょう?」
「たまにジムには行くけど……」
「やっぱりねぇ」
綾瀬はそう言いながら、ぐるっと倉見の背後を回り頷いた。
「締まったいいケツしてる」
「おい、どこ見てんだよ」
思わず砕けた口調で笑う倉見に、綾瀬も声を上げて無邪気に笑った。
よくある大衆的な店で食事を済ませると、2人はそのまま別の店に移動した。
周辺には飲み屋がたくさんある。いわゆる歓楽街だ。
その一角にあるバーへ2人は入った。
「知り合いがやってる店なんだ」
綾瀬はそう言うと、カウンターの向こうにいるバーテンに軽く手を振ってみせた。
「あら、いらっしゃい」
バーテンの男はそう言うと、驚いた顔をして笑った。
「なにその恰好!?誰かと思った」
「仕事なの!今日、エージさんは?」
「他店舗のヘルプに行っちゃったよ」
そうか、残念……と綾瀬は呟いて倉見をテーブル席の方へ誘った。
「エージさんに会わせたかったんだけどな」
「エージさんって?」
綾瀬は倉見の目を見ると、「ただのイケオジ」と言ってニッと笑った。
倉見は定時で会社を出ると、待ち合わせ場所である新宿駅で電車を降りた。
平日の帰宅時間は人が多い。
待ち合わせとして指定した場所も、同じように人待ち顔で佇む人が大勢いる。
(気づくかな……)
倉見がスマホを手に辺りを見回していると、「倉見さん」と背後から声をかけられて振り向いた。
「お疲れ様です」
目の前に、スーツを着た背の高い男が立っている。
一瞬誰だか分からなくて倉見は驚いたように目を見張った。
「綾瀬さん?」
茶色かった髪を黒に戻し、着慣れないスーツに身を包んだ綾瀬は、少し照れたように笑った。
「誰かと思いました」
倉見も笑うと、少し眩しそうに綾瀬を見た。
「研修中はスーツ着用って言われて……髪も茶髪はダメだって――だから、仕方なく」
思いっきり不本意であることを訴えつつも、「でも今日は同じサラリーマン同士ですね」と嬉しそうに肩を並べる。
荷物が入ったリュックを右肩にかけ、ネクタイを少し緩めた首元が妙に色っぽい。
上背もあるし見た目も申し分ない。どんな服装も様になる男だな……と、倉見は少し羨ましくなった。
「まずは食事でもどうですか?その後、知ってる店があるんで、そこで少し飲みましょう」
綾瀬はそう言うと、慣れたように倉見をリードする。
隣を歩く背の高い綾瀬に守られるように、倉見は人波の中を歩いた。
時折、すれ違う人が自分達の方を見る。モデルのような見栄えの綾瀬が一緒だ。気持ちは分かるが、隣を歩いている倉見としては肩身が狭い。
「さっきの子、倉見さん見てた」
「え?違うよ、綾瀬さんを見てた」
「俺じゃないよ」
綾瀬はそう言うと嬉しそうに言った。
「今日の倉見さん、なんかいつもと違う。髪型かなぁ?」
綾瀬はそう言うと、歩きながらジロジロと顔を覗き込んできた。
「スーツの色とネクタイもバッチリ決まってるし、何かスポーツやってました?」
「え?あぁ……陸上を」
「陸上部?」
「高校と大学で。短距離を」
「へぇ、アスリートだぁ」と綾瀬は笑った。
「だから締まったいい体してるんだ」
「でも辞めて何年も経つよ」
倉見は苦笑した。
「でも鍛えてるでしょう?」
「たまにジムには行くけど……」
「やっぱりねぇ」
綾瀬はそう言いながら、ぐるっと倉見の背後を回り頷いた。
「締まったいいケツしてる」
「おい、どこ見てんだよ」
思わず砕けた口調で笑う倉見に、綾瀬も声を上げて無邪気に笑った。
よくある大衆的な店で食事を済ませると、2人はそのまま別の店に移動した。
周辺には飲み屋がたくさんある。いわゆる歓楽街だ。
その一角にあるバーへ2人は入った。
「知り合いがやってる店なんだ」
綾瀬はそう言うと、カウンターの向こうにいるバーテンに軽く手を振ってみせた。
「あら、いらっしゃい」
バーテンの男はそう言うと、驚いた顔をして笑った。
「なにその恰好!?誰かと思った」
「仕事なの!今日、エージさんは?」
「他店舗のヘルプに行っちゃったよ」
そうか、残念……と綾瀬は呟いて倉見をテーブル席の方へ誘った。
「エージさんに会わせたかったんだけどな」
「エージさんって?」
綾瀬は倉見の目を見ると、「ただのイケオジ」と言ってニッと笑った。
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