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sorarion914

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#16

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 映画館を出た後、2人は夜の街を目的もなくフラフラと歩いていた。
 時刻はすでに11時を過ぎている。
「さて、と……そろそろ帰らないと」
 腕時計に目をやり倉見が言った。
「そっか……もうこんな時間か」
 綾瀬もスマホの時計を見た。そして少し名残惜しそうな顔をして倉見を見る。
「倉見さんの家は、ここから近いんですか?」
「まぁ……そうだね。って言ってもバスには乗るけど」
「そうなんだ……」
「……」
 倉見も何となく後ろ髪引かれたが、「じゃあ……バス乗り場向こうだから行くよ。おやすみなさい」と言うと、そのまま背を向けた。
「倉見さん」
「?」
 振り向くと、綾瀬が手でハンカチをヒラヒラさせていた。
「これ、洗って返します」
「え?あ……」
 倉見はハンカチの事をすっかり忘れていて、慌てて言った。
「いいよ、わざわざそんな――」
「そうさせてよ」
 綾瀬はそう言うと、「次に会う口実になるからさ」と、いたずらっ子のようにはにかんだ。
「……」
「今度飲みに行きましょう。いい店知ってるんで」
 そう言って綾瀬はハンカチを振ると、「連絡します。おやすみなさい」と踵を返し、駅の方へと走っていった。
「……」
 人の間を、軽やかな足取りで駆け抜けていく綾瀬の後ろ姿を、倉見は黙って見つめていた。
 名状しがたい思いが、ふと心をよぎる。
 追いかけて、その腕を掴んで引き戻したい衝動に、一瞬駆られたが――でもその後なんて言う?
『もう少し一緒にいよう』
『飲みにでも行く?』
『それとも、俺の家に来ない?』
 最後の選択肢はどうかと思うが……と、倉見は思わず苦笑した。
 (きっと人恋しいだけだ……)
 誰かの温もりに触れていたいだけ。

 寂しいのかな――…

 帰路につきながら、倉見は思った。
 こんな時に寄り添ってくれる人がいなくなってしまったことが、今更ながら身に染みてくる。
 (寂しい……)
 別にその穴埋めを綾瀬に求めているわけではないが――
 あの人懐っこい笑顔と態度には不思議とあらがえない。
 連絡します、という綾瀬の言葉が、胸に小さな灯火ともしびとなって光る。
 次に会う口実を手に――走り去る綾瀬の後ろ姿をぼんやりと思い浮かべながら、その日倉見は眠りについた。
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