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早苗から、衝撃の破談理由を聞かされた数日後。
香穂子の両親が倉見の実家へやってきた。
そして香穂子本人は不在のまま、そろって頭を下げた。
倉見は事前に理由を話していたので、母は穏やかに対応していたが、父は終始苦い顔をしていた。
相手方の両親が去ったあと、「身内にならずに済んでよかった」と、父は呟くと、テレビをつけ、そのまま無言で背を向けた。
そんな父を見て、母は言った。
「ひとまずこれで良しとしましょう。もう蒸し返すのは止めて。ね?」
そして倉見の方を見る。
「もう彼女の事は水に流しましょう。それより、仕事の方はどうなの?忙しいんでしょう?」
食事はちゃんとしてるの?
毎日帰りは遅いの?
――と。母親らしい気遣いで息子の身を案じている。
倉見は「心配いらないよ」と笑って見せて、テーブルに置かれた婚約指輪を手に取った。
戻ってきてしまったこの指輪は、さすがに使い回しはできないだろうな…と思い苦笑する。
今日は泊っていったら?と言われたが、倉見は「夕飯だけ食べて帰るよ」と答えた。
「そう」
母はそれだけ言うと、もう何も言わず。ただ好物のオムライスを作って夕食に並べた。
父も何も言わず。
倉見は久々に母の手料理を味わうと、そのまま実家を後にした。
変な慰めを言わない両親の優しさが逆に辛かった。
「倉見、今週の金曜日ヒマ?」
休憩室で缶コーヒーを飲んでいると、八木がそう言いながら入ってきた。
同期だが、八木とは部署が違う。デスクワークが主な仕事の八木は、パンツにボタンダウンのシャツというカジュアルな服装でいつもフラッと倉見の元を訪れる。
この日も、なんだかニヤニヤとしながら近づいてきた。
「なんで?」
「人数が足りないんだ~」
その台詞にピンときた倉見は苦笑した。
「俺、まだそういう気分には……」
「何言ってんだよ。そんなこと言ってたら、あっという間に40過ぎるぞ」
そしてスマホの画面を見せながら言う。
「看護師。20代。どうよ、このセッティング」
「どこでこういうの見つけてくるんだよ」
「知り合いの子だよ。そのお友達と4対4。なぁ、来いよ」
えぇ?と倉見は困惑した。正直、今は合コンをするような気分ではない。
「こんないい条件なかなかないぞ。気晴らしのつもりでもいいから来いよ」
八木なりに元気づけようとしているのだろう。それが分かるので無下に断るわけにもいかず、倉見はしばらく考えると、「分かったよ……」と頷いた。
「そうこなくっちゃ!」
八木は嬉しそうに肩を叩くと、「んじゃ、金曜な」と笑顔を見せて休憩室を出て行った。
倉見はヤレヤレというように苦笑した。
結婚が破談になって早々、若い女の子と合コンって――
(俺も人のこと言えないじゃないか…)
後ろめたい気分があることも否めないが、気乗りしない理由は果たしてそれだけかな?
何かが心の奥に引っかかっているような気がして、倉見はしばらくじっと考えていたが。
結局それが何なのか分からないまま――首を振ると、倉見は休憩室を出た。
香穂子の両親が倉見の実家へやってきた。
そして香穂子本人は不在のまま、そろって頭を下げた。
倉見は事前に理由を話していたので、母は穏やかに対応していたが、父は終始苦い顔をしていた。
相手方の両親が去ったあと、「身内にならずに済んでよかった」と、父は呟くと、テレビをつけ、そのまま無言で背を向けた。
そんな父を見て、母は言った。
「ひとまずこれで良しとしましょう。もう蒸し返すのは止めて。ね?」
そして倉見の方を見る。
「もう彼女の事は水に流しましょう。それより、仕事の方はどうなの?忙しいんでしょう?」
食事はちゃんとしてるの?
毎日帰りは遅いの?
――と。母親らしい気遣いで息子の身を案じている。
倉見は「心配いらないよ」と笑って見せて、テーブルに置かれた婚約指輪を手に取った。
戻ってきてしまったこの指輪は、さすがに使い回しはできないだろうな…と思い苦笑する。
今日は泊っていったら?と言われたが、倉見は「夕飯だけ食べて帰るよ」と答えた。
「そう」
母はそれだけ言うと、もう何も言わず。ただ好物のオムライスを作って夕食に並べた。
父も何も言わず。
倉見は久々に母の手料理を味わうと、そのまま実家を後にした。
変な慰めを言わない両親の優しさが逆に辛かった。
「倉見、今週の金曜日ヒマ?」
休憩室で缶コーヒーを飲んでいると、八木がそう言いながら入ってきた。
同期だが、八木とは部署が違う。デスクワークが主な仕事の八木は、パンツにボタンダウンのシャツというカジュアルな服装でいつもフラッと倉見の元を訪れる。
この日も、なんだかニヤニヤとしながら近づいてきた。
「なんで?」
「人数が足りないんだ~」
その台詞にピンときた倉見は苦笑した。
「俺、まだそういう気分には……」
「何言ってんだよ。そんなこと言ってたら、あっという間に40過ぎるぞ」
そしてスマホの画面を見せながら言う。
「看護師。20代。どうよ、このセッティング」
「どこでこういうの見つけてくるんだよ」
「知り合いの子だよ。そのお友達と4対4。なぁ、来いよ」
えぇ?と倉見は困惑した。正直、今は合コンをするような気分ではない。
「こんないい条件なかなかないぞ。気晴らしのつもりでもいいから来いよ」
八木なりに元気づけようとしているのだろう。それが分かるので無下に断るわけにもいかず、倉見はしばらく考えると、「分かったよ……」と頷いた。
「そうこなくっちゃ!」
八木は嬉しそうに肩を叩くと、「んじゃ、金曜な」と笑顔を見せて休憩室を出て行った。
倉見はヤレヤレというように苦笑した。
結婚が破談になって早々、若い女の子と合コンって――
(俺も人のこと言えないじゃないか…)
後ろめたい気分があることも否めないが、気乗りしない理由は果たしてそれだけかな?
何かが心の奥に引っかかっているような気がして、倉見はしばらくじっと考えていたが。
結局それが何なのか分からないまま――首を振ると、倉見は休憩室を出た。
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