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sorarion914

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「諒太」
 呼ばれて倉見は振り返った。
 会社の帰り。駅で不意に呼び止められて、倉見は驚いたように声を上げた。
「早苗?珍しい所で会うな」
 相手はかつての婚約者、香穂子かほこの同僚で、友人の時田早苗ときたさなえ
 同じ大学の同級生で、今は商社で働いている。バリバリのキャリアウーマンだ。
「客先回りの帰りよ。諒太は今帰り?」
 ああ……と頷いて、少し気まずくなり俯く。
 早苗はそれを察してしばらく黙っていたが、「時間、あるなら少し話さない?」と誘ってきた。
 倉見は少し迷ったが、未だに何の連絡も寄越さない香穂子の事が気になり、誘いに応じた。
 2人は駅構内のカフェに入ると、カウンター席に並んで座った。
「聞いたよ、結婚の事」
「――」
 早苗は、カフェラテを一口飲むと、「ごめんね」と謝った。
「早苗が謝ることないよ」
「でも紹介したの私だし」
 早苗はそう言うと、少し腹立たし気に眉を寄せて言った。
「あんな子だとは思わなかった。真面目で、すごくいい子だと思ってたのに。だから諒太に紹介したんだよ」
「いい子だったよ」
 倉見はそう答えて苦笑いした。ホットコーヒーに口をつけ、駅構内を行きかう人に目をやる。
 早苗はじっと黙ったまま、何かを考えているようだったが、カップの縁を指でなぞりながら「香穂子のこと、何か聞いてる?」と聞いてきた。
「破談の理由?」
「うん……」
 倉見は首を振った。
「電話してもメール送っても、一切無視――」
「そっか……」
 どうしよう…と早苗は悩んだ後、「こんなこと、私の口から言っていいかどうか分からないけど」と、前置きしたうえで言った。
「彼女ね。諒太と付き合う前の男と、よりを戻したらしいの」
「え?」
 倉見は驚いて早苗を見た。早苗はため息をつくと、「ほんと、タチ悪いよね。その男って同じ社内にいる奴でさ」と言いながらカフェオレをがぶ飲みする。
「諒太と付き合ってる間に、より戻してたみたい」
「え、待って――じゃあ俺、二股かけられてたの?」
「私もつい最近知ったのよ。諒太と結婚が決まって、その彼とは完全に分かれるつもりだったらしいけど……」
 そういった後、早苗はすごく言いにくそうな顔をした。
「ここまで言ったんなら言ってよ」
 倉見は懇願した。早苗はじっと倉見を見た。
「ショック受けない?」
「なに?なんか……怖いな」
「……」
 倉見の目を、早苗はじっと見つめていたが、「やっぱやめよう」と顔をそむけた。
「なんだよ!気になるじゃん」
「本人の口から聞いた方がいいよ」
「その本人と連絡がつかないんだって。なんだよ、言えって」
「でも……」
 早苗は迷った。倉見が縋りつくような目で懇願してくる。
「……」
 それを聞くまでは諦めないぞ、という気迫のようなものを感じて、早苗はフゥッと大きなため息をつくと、仕方なく言った。
「子供ができたんだって」

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