7 / 40
#7
しおりを挟む
ぼんやりと、綾瀬は布団の中でまどろんでいた。
休みの日なのに、スマホのアラームを解除するのを忘れていて、いつも通りの時間に目覚めてしまった。
せっかく惰眠を貪るチャンスを……
ふいにしてしまったことに腹が立って、綾瀬は寝返りを打った。
一度目が覚めてしまうと、とりとめもないことが頭に浮かんで、眠気がどんどん遠のいていく。
「……」
それでも、少し前までなら、このまどろむ時間も幸せだと感じていた。
でも今は――
寝ている自分の隣に手を伸ばすが、誰もいない。
このスペースは、こんなに広かっただろうか?
冷たいシーツの感触に綾瀬はため息をつくと、たまらず身を起こした。
枕元に置かれていたクマのぬいぐるみが目に留まる。それに向かって綾瀬は「おはよう」と言った。
もちろん、返事が返ってくるわけでもなく、余計な虚しさを感じて綾瀬はベッドから出ると、テーブルの上にあったタバコを掴んで一本くわえた。
「――」
火をつけようとして手を止める。
倉見に、自分は吸わないのかと問われた時、思わず頷いてしまった。
(なんであの時、自分は吸わないみたいな態度をとったんだろう……)
咥えタバコのまま、しばらくじっと思案していたが。
綾瀬はライターとタバコをテーブルに放ると、窓の外を見た。僅かに開いた窓の隙間から、朝の冷えた空気が流れ込んでくる。やわらかい陽ざしが目にまぶしかった。
寂しいな……
強がってはみたものの、想像以上に感じる孤独感に早くも打ちのめされそうだ。
ふと、ベッドの上に脱ぎ捨てた作業着のズボンに気づいて、そのポケットから綾瀬は一枚の名刺を取り出した。
倉見諒太。
営業マンらしい、爽やかな笑顔と穏やかな話し方をする男だった。
短髪の黒髪をスッキリと整え、姿勢も良く、スーツの着こなし方も年相応で清潔感があった。
引き締まった体形からは、何かスポーツをやっていたのだろうと推測できる。
背は自分の方が高いが、立場と歳は彼の方が上だ。
(素敵な人だったな…)
幾度か来社していて、社長と話しているのは知っていたが、あんな風に話しかけたのは昨日が初めてだった。
「……」
車内でのやり取りを反芻していると、なぜだか心が和らいでくる。さっきまでは寂しくて泣きそうだったのに――
(近日中に来るって言ってた。また会えるかな?)
あれは自分に対しての約束ではないが、会えると思うと胸が弾む。
携帯番号が記載された倉見の名刺が、まるで約束手形のような気がして、綾瀬は目を閉じると名刺を胸に抱いたままベッドに寝そべった。
休みの日なのに、スマホのアラームを解除するのを忘れていて、いつも通りの時間に目覚めてしまった。
せっかく惰眠を貪るチャンスを……
ふいにしてしまったことに腹が立って、綾瀬は寝返りを打った。
一度目が覚めてしまうと、とりとめもないことが頭に浮かんで、眠気がどんどん遠のいていく。
「……」
それでも、少し前までなら、このまどろむ時間も幸せだと感じていた。
でも今は――
寝ている自分の隣に手を伸ばすが、誰もいない。
このスペースは、こんなに広かっただろうか?
冷たいシーツの感触に綾瀬はため息をつくと、たまらず身を起こした。
枕元に置かれていたクマのぬいぐるみが目に留まる。それに向かって綾瀬は「おはよう」と言った。
もちろん、返事が返ってくるわけでもなく、余計な虚しさを感じて綾瀬はベッドから出ると、テーブルの上にあったタバコを掴んで一本くわえた。
「――」
火をつけようとして手を止める。
倉見に、自分は吸わないのかと問われた時、思わず頷いてしまった。
(なんであの時、自分は吸わないみたいな態度をとったんだろう……)
咥えタバコのまま、しばらくじっと思案していたが。
綾瀬はライターとタバコをテーブルに放ると、窓の外を見た。僅かに開いた窓の隙間から、朝の冷えた空気が流れ込んでくる。やわらかい陽ざしが目にまぶしかった。
寂しいな……
強がってはみたものの、想像以上に感じる孤独感に早くも打ちのめされそうだ。
ふと、ベッドの上に脱ぎ捨てた作業着のズボンに気づいて、そのポケットから綾瀬は一枚の名刺を取り出した。
倉見諒太。
営業マンらしい、爽やかな笑顔と穏やかな話し方をする男だった。
短髪の黒髪をスッキリと整え、姿勢も良く、スーツの着こなし方も年相応で清潔感があった。
引き締まった体形からは、何かスポーツをやっていたのだろうと推測できる。
背は自分の方が高いが、立場と歳は彼の方が上だ。
(素敵な人だったな…)
幾度か来社していて、社長と話しているのは知っていたが、あんな風に話しかけたのは昨日が初めてだった。
「……」
車内でのやり取りを反芻していると、なぜだか心が和らいでくる。さっきまでは寂しくて泣きそうだったのに――
(近日中に来るって言ってた。また会えるかな?)
あれは自分に対しての約束ではないが、会えると思うと胸が弾む。
携帯番号が記載された倉見の名刺が、まるで約束手形のような気がして、綾瀬は目を閉じると名刺を胸に抱いたままベッドに寝そべった。
1
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!
時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」
すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。
王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。
発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。
国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。
後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。
――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか?
容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。
怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手?
今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。
急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…?
過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。
ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!?
負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。
-------------------------------------------------------------------
主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
運命なんて知らない[完結]
なかた
BL
Ω同士の双子のお話です。
双子という関係に悩みながら、それでも好きでいることを選んだ2人がどうなるか見届けて頂けると幸いです。
ずっと2人だった。
起きるところから寝るところまで、小学校から大学まで何をするのにも2人だった。好きなものや趣味は流石に同じではなかったけど、ずっと一緒にこれからも過ごしていくんだと当たり前のように思っていた。そう思い続けるほどに君の隣は心地よかったんだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる