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sorarion914

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「破談になったのか……」
 同僚で、友人の八木にそう言われて、倉見は頷いた。
 仕事帰り、久々に飲もうという話になって社の近くにある行きつけの飲み屋に入る。
 店内は混んでいたが、常連のよしみで店長が用意してくれた座敷の一角で、倉見は今日の出来事を話して聞かせた。
「もうさ……頭ん中グチャグチャ……」
 まぁまぁ…と慰めながら、八木はグラスにビールを注いでやった。
「招待状出す前で良かったじゃないか。式場キャンセルくらいで済んだのが不幸中の幸いだよ」
「まぁね。でも部長に仲人なこうど頼んじゃったし……何て言えばいいんだよ」
「明日、正直に言えよ。破談になりました。申し訳ありませんって」
 はぁ……とため息をついて項垂れる倉見を見て、八木は気の毒そうな顔をした。
「ま。こういう大事なことを親の口から言わせるような女性だったって、分かってよかったじゃないか」
「それは――」
 そうだけど…と呟いて、未練がましくスマホを見る。彼女から何か言ってくるんじゃないかと期待して待っているのだが、未だに一言の挨拶もない。
 自分が送ったメッセージに対しても既読がついていなかった。
 2年付き合って、ようやく決意したプロポーズ。本心だと確信した返事だったのに。
 そんなに突然、嫌になったのだろうか?
 (式場を見に行った時は、あんなにテンションが高かったのに……)
「女って分からないな……」
「……」
 八木は黙って空になった自分のグラスにビールを注ぐと、「すいません、もう一本」とカウンターに向かって言った。
「まぁ、こういう時は仕事に打ち込むに限るよ」
 新しくきたビールを倉見のグラスに注ぎながら、八木は言った。
「課長に昇進したことだしさ。今は仕事に邁進しろってことなんじゃないの?」
「そうかなぁ……」
 邁進するための原動力を失ってしまったような気もするが――
「幸せってなんだろう……」
「そんなもん、毎日飯食って酒飲めりゃ充分幸せだろう」
 そう言って笑う八木に、倉見も肩をすくめて笑った。
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