2 / 40
#2
しおりを挟む
「破談になったのか……」
同僚で、友人の八木にそう言われて、倉見は頷いた。
仕事帰り、久々に飲もうという話になって社の近くにある行きつけの飲み屋に入る。
店内は混んでいたが、常連のよしみで店長が用意してくれた座敷の一角で、倉見は今日の出来事を話して聞かせた。
「もうさ……頭ん中グチャグチャ……」
まぁまぁ…と慰めながら、八木はグラスにビールを注いでやった。
「招待状出す前で良かったじゃないか。式場キャンセルくらいで済んだのが不幸中の幸いだよ」
「まぁね。でも部長に仲人頼んじゃったし……何て言えばいいんだよ」
「明日、正直に言えよ。破談になりました。申し訳ありませんって」
はぁ……とため息をついて項垂れる倉見を見て、八木は気の毒そうな顔をした。
「ま。こういう大事なことを親の口から言わせるような女性だったって、分かってよかったじゃないか」
「それは――」
そうだけど…と呟いて、未練がましくスマホを見る。彼女から何か言ってくるんじゃないかと期待して待っているのだが、未だに一言の挨拶もない。
自分が送ったメッセージに対しても既読がついていなかった。
2年付き合って、ようやく決意したプロポーズ。本心だと確信した返事だったのに。
そんなに突然、嫌になったのだろうか?
(式場を見に行った時は、あんなにテンションが高かったのに……)
「女って分からないな……」
「……」
八木は黙って空になった自分のグラスにビールを注ぐと、「すいません、もう一本」とカウンターに向かって言った。
「まぁ、こういう時は仕事に打ち込むに限るよ」
新しくきたビールを倉見のグラスに注ぎながら、八木は言った。
「課長に昇進したことだしさ。今は仕事に邁進しろってことなんじゃないの?」
「そうかなぁ……」
邁進するための原動力を失ってしまったような気もするが――
「幸せってなんだろう……」
「そんなもん、毎日飯食って酒飲めりゃ充分幸せだろう」
そう言って笑う八木に、倉見も肩をすくめて笑った。
同僚で、友人の八木にそう言われて、倉見は頷いた。
仕事帰り、久々に飲もうという話になって社の近くにある行きつけの飲み屋に入る。
店内は混んでいたが、常連のよしみで店長が用意してくれた座敷の一角で、倉見は今日の出来事を話して聞かせた。
「もうさ……頭ん中グチャグチャ……」
まぁまぁ…と慰めながら、八木はグラスにビールを注いでやった。
「招待状出す前で良かったじゃないか。式場キャンセルくらいで済んだのが不幸中の幸いだよ」
「まぁね。でも部長に仲人頼んじゃったし……何て言えばいいんだよ」
「明日、正直に言えよ。破談になりました。申し訳ありませんって」
はぁ……とため息をついて項垂れる倉見を見て、八木は気の毒そうな顔をした。
「ま。こういう大事なことを親の口から言わせるような女性だったって、分かってよかったじゃないか」
「それは――」
そうだけど…と呟いて、未練がましくスマホを見る。彼女から何か言ってくるんじゃないかと期待して待っているのだが、未だに一言の挨拶もない。
自分が送ったメッセージに対しても既読がついていなかった。
2年付き合って、ようやく決意したプロポーズ。本心だと確信した返事だったのに。
そんなに突然、嫌になったのだろうか?
(式場を見に行った時は、あんなにテンションが高かったのに……)
「女って分からないな……」
「……」
八木は黙って空になった自分のグラスにビールを注ぐと、「すいません、もう一本」とカウンターに向かって言った。
「まぁ、こういう時は仕事に打ち込むに限るよ」
新しくきたビールを倉見のグラスに注ぎながら、八木は言った。
「課長に昇進したことだしさ。今は仕事に邁進しろってことなんじゃないの?」
「そうかなぁ……」
邁進するための原動力を失ってしまったような気もするが――
「幸せってなんだろう……」
「そんなもん、毎日飯食って酒飲めりゃ充分幸せだろう」
そう言って笑う八木に、倉見も肩をすくめて笑った。
1
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
My heart in your hand.
津秋
BL
冷静で公平と評される風紀委員長の三年生と、排他的で顔も性格もキツめな一年生がゆっくり距離を縮めて、お互いが特別な人になっていく話。自サイトからの転載です。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
漢方薬局「泡影堂」調剤録
珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。
キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。
高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。
メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【続編】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる