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それから、これから。心の糸を編んでいく
食いだおれとバイキングと満漢全席と酒池肉林 1
しおりを挟む昼休み。
ーーー これは棗さんに追求されるなぁ…。
ビル内の共有スペースの椅子に座りながら、朋志は封筒から取り出した一枚の紙を開いてため息をついた。
先月、棗とした会話を思い出していた。
並んでテレビを観ていたのだ。
「金曜日は健康診断です。朝はいりません」
「わかりました、…あ」
「どうしました」
「俺も来週です」
奇遇ですね、なんて言って。
他愛ない話に、二人で笑い合っているうちに、棗の顔がだんだん真顔になっていった。あらぬ方向を見つめて。
「棗さん?」
声をかけてもすぐには返事が返ってこず、朋志は、変なこと言ったかなぁ?と首をひねっていた。
かと思えば、急に朋志の方を振り向いて。
「………朋志さん」
「は、はい」
ずいっと顔を寄せてくる。朋志は無意識にちょっとのけぞった。
棗は、顔が整いすぎているくらい整っている。
華やかで凄みのある顔だが、表情は優しく、性格も穏やかなので、顔だけに意識を向けているわけではない。むしろ朋志は、優しくて、無限に注いでくれる愛情のほうにときめいている。
いつもは柔らかく響くテノールが、ピンと弦を弾くような響きで朋志を呼ぶので。
ドキッとした。
この話の流れで、なにを言われるのか。朋志には全く想像できない。棗が意を決したように、キリッっと引き締まった顔で言うには。
「健康診断の結果って…、僕が見ても大丈夫ですか?」
「え…、は、はい…。だ大丈夫です…」
朋志は、棗のあまりにも真剣な様子に気圧されて、言葉が途切れがちになってしまった。同時に肩透かしをくらったようでもある。
ーーー そんなことでいいの?
雰囲気と言葉が合っていない。
朋志は、棗から「あ、結果が出たのですか?見せてください」と、話のついでに言われたとしても、気にせずに見せていただろう。
棗があんまり畏まって言うので、なにか別に意図があるのかな?と思っていたのだが…。
「ありがとうございます」
棗はあからさまに嬉しそうにしている。
わからない。
「あ、あの…」
「はい」
「俺…、そんな…見ても面白いところなんてないですよ?」
ただの健康診断だ。
血液検査の結果に怯えるにはまだ早い。
朋志は、ちょっと細身の、至って普通の成人男性だ。
どこにも棗が食いつく要素なんて…
「とんでもない」
「えっ」
棗に面白いって思われているのだろうか。
いやでも、棗に限って。
「朋志さん」
「ひゃい」
噛んでしまった。
「僕は、朋志さんの体の中も見たいって思っています…」
直球。
棗の目には、強い光が宿っている。
安定の変態具合に、朋志は。
「え…は、はい…結果が出たら言いますね」
「ありがとうございます。喉が乾きましたね。紅茶を淹れまてきますね」
「あ…ありがとうございます」
もはや棗は、鼻歌でも歌いだしそうな勢いで、紅茶を用意している。
「?」
朋志は、棗のことを『変態』だなんてカテゴリーには置いていない。なので、棗の変態性は明るみに出ることもないまま、ただ朋志という栄養だけは供給され続けているので、すくすくと成長している。
今までも、棗のことがわからない、ということはあった。
きっと今回も棗だけの世界で盛り上がっているなにかなのだろう。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「俺も、棗さんの結果を見ても良いですか?」
「もちろんです」
なぜか棗は、少し耳を赤くしていた。
照れる要素を一切感じられなかった朋志は、「?」頭にハテナ?を飛ばしながら、美味しい紅茶をいただいた。
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