【R-18】トラウマ持ちのSubは縛られたい 〜Dom/Subユニバース

トラウマ持ちのSubが幸せになる方法

トラウマ持ちのSubが幸せになる方法 6

　棗は、同じ身長ほどの朋志を軽々と抱きかかえ、キッチンの折りたたみのスツールに朋志を座らせた。
　「ありがとうございます」
　「どういたしまして。ここで大丈夫ですか」
　「はい」
　棗はお湯を沸かして紅茶の準備を始めた。
　いつもは朋志もカップを出したりなど一緒にするのだが、今は動けないので見ているだけだ。
　紅茶缶が目の前に並ぶ。棗が紅茶缶の乗ったトレイを朋志に見せる。
　「どちらを淹れましょうか」
　「こっちがいいです」
　「ええ」
　朋志が選んだフルーツの香りがする紅茶の缶をあけて、棗がよどみなくポットに茶葉を入れる。棗が紅茶を淹れる姿はうっとりするほどさまになっていた。
　朋志はなにもすることがない。足元を見ると、左右足の親指はぴったりくっついて紐が巻かれている。
　緩く縛られているので、足も少しなら動かせるが、歩くことはできない。
　棗は、紅茶を淹れる間くらい一人で過ごせるだろうにと思ったに違いない。以前のプレイではできていた。
　もともと朋志は、コマンドに対して不安感が強いうえに、Domへの依存度も強い。
　ーーー 嬉しくて箍が外れたのかも…。
　朋志のSubとしての性質は自分のことなのでよく理解している。長い時間のプレイじゃなくてもいいので、短いスパンで何度もプレイがしたい。なので、朋志から棗に声をかけることが多かった。
　棗から誘ってくれて、そのうえ縛りたいと言ってくれた。
　嬉しくて、離れがたくなったのだ。
　Domの関心がこちらに向いているのだ、少しも離れたくないと思った。
　でも、棗はどうだろう。
　「棗さん…すみません」
　「はい？」
　棗がポットにカバーを被せて朋志の足元に跪き、朋志の目を覗き込んでくる。
　「どうかしましたか」
　「俺…こうして棗さんが縛ってくれているのに、一人で待てなくて…」
　「そんなことを気にしていたのですか」
　朋志にとっては重要だった。
　棗は朋志の手を取って温めるように包み込んだ。優しさと労りを湛えた目に見つめられ、弱音ごと包まれた気がして朋志は、知らず体に入っていた力を抜いた。
　「いいですよ」
　「えっ」
　「いいですよ、なにも出来なくても、しなくても」
　「そんなこと…」
　何をしても器用にはできない朋志をさり気なくカバーしてくれているとはわかっていたが、こうもはっきり言われると落ち込みそうだ。プレイ中は特にメンタルが無防備なのだ。
　「あなたは僕より年上で、考えのしっかりした大人です。ほとんどの事を一人でしてしまう。でも僕はあなたがいてくれるだけでいいので…いえ、僕がいないと何一つできないような人に…それがひどいことだとわかっていますが…」
　すみませんと謝る棗は、ちょっと困ったような顔をしていた。
　この表情は見たことがある。
　「あ…」
　棗がDomの独占欲を持て余しているときの…。
　そう気づくと、体が勝手に動いていた。
　目の前の頭を抱き寄せる。
　「朋志さん？」
　　ーーー 棗さんは情のこわい人だ…。
　でも、そのことに自分で気づいている。同時に朋志の負担にならないようにと考えてくれている。
　棗に縛られたところからじんと熱くなって、じんじんとしたものが体の中で上がっていく。いつもより早い朋志の胸の音は棗にも伝わっているだろう。
　ーーー 嫌じゃない。むしろ嬉しい…。
　時々しか顔を出さない、棗の持つDomの欲望を感じて、朋志の中のSubが歓喜していた。
　「だからこのコマンドですか」
　「…朋志さんに”お願い”をされたかったので」
　「嬉しいです。でも、”お願い”はちょっと恥ずかしいです…」
　「ええ、僕は恥ずかしがっている朋志さんも好きなので、たくさん見せてください」
　「…はい」
　朋志のDomがそう言うので、はいと言うしかなかった。