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蜜月かもしれません
構ってちゃんの人たち 6
しおりを挟む棗さん…。
棗が怒っている。
朋志は、自分が怒られているわけでもないのに、こわくて仕方がなかった。
朋志のことで怒っていたから…。
理生を部屋に入れたのも、のこのこ棗の家についてきたのも朋志だ。
棗を直接怒らせたわけではなくても、朋志の判断がこの状況を招いてしまったと思ったら…。
ただでさえ、気弱になっているところに、グレアを浴びてしまった。
「もう大丈夫ですよ、恐かったですね」
低くて、穏やかな声。
年上の男性で、この人もSubだ。
よかった。
「あ、あの…、ここはDomの人たちばかりで…」
「ええ、そうですね。落ち着ける場所に移動しましょう。歩けますか」
「はい…」
――― 棗さん、俺は鍵を開けないほうがよかったのかな。
朋志は、棗の三つ上の兄だという理生を言われるまま部屋に招き入れた。
そこで棗のことをいろいろと聞いた。
もう一人、理久という兄がいる。
理久が長男、理生が次男、棗が末っ子になる。
理久が陶芸家で、理生は海外で理久の作品をブランドとして販売しているそうだ。
定期的に帰国して、理久の作品を仕入れているらしい。
「よろしくね。理生って呼んでいーよ」
「りお…さんは、棗さんのお兄さんですか。双子かと思いました」
「そぉ?よく言われるけど、俺の方が男前だと思うよ」
「ふふっ」
理生の顔は、棗とほとんど同じなのに、性格は全く似ていない。棗の知らない表情を見ているみたいで楽しい。
「ねえ、きみの名前は?」
「あっ、ごめんなさい。俺は、丸目朋志です。よろしくおねがいします」
「朋志…トモくんね、オッケー」
「トモくん…」
本当に棗とは似ていない。でも、嫌な感じはしない。
「トモくんはいつから理人のパートナーなの」
いつからだろう。記念日もないくらい曖昧なタイミングだった。
「半年…くらいです」
「へぇ、でも理人のプレイはつまんないでしょ」
「えっ!」
棗のプレイが詰まらないなんて考えた事はない。
理生は棗のプレイのどの部分のことを言っているのか…。
「俺は、棗さんのプレイでダイナミクスが安定しました。つまらないなんて感じたことはありません。棗さんには感謝しています」
「…ふぅん、甘くて優しいだけのプレイしかしないから、みんなすぐ飽きちゃうんだけどな」
それは以前、棗からも聞いたことがあった。棗のコンプレックスのひとつだ。
「でも俺は、棗さん以外のプレイは受け入れられないです…」
朋志は、棗の”甘くて優しいプレイ”がいい。棗だけだ。
「へえー理人のヤツ、ちゃんと見つけちゃったのね”自分だけ”のやつ」
嬉しい。それは朋志も一緒だった。
「理人に飽きたらいつでも俺のところに来ても良いからね」
「えっ、棗さんに飽きる日なんて来る気がしませんけど…」
「うえぇ、マジレスいらねぇ」
それから、どうして理生が棗のマンションに来たのかも教えてもらった。
棗の家は、家族全員がDomなこと。
唯一、一人だけSubがいる。彼は両親のパートナーだが、家族として暮らしている。
棗は、特殊な家族構成をあまり知られたくないと考えているようだが、理生や理久は、棗のパートナーなら歓迎したいと思っている。
普段、田舎に住んでいて他のSubと関わることのない両親のパートナー…恵吾という…とも話し相手になって欲しいと言われて、朋志は、それならと理生と一緒に来たのだ。
朋志は、理生の言い分には賛成だった。
棗が気にしていることについては、まるで気にならない。
朋志が悩んでいたら、棗はいつも朋志を肯定してくれる。これでいいんだと朋志に自信をくれる。
朋志は、棗をまるごと受け入れたかった。
なのに。朋志は甘く考えていた。
棗の家族だから、全員Domでも大丈夫。
まさか、Dom同士の牽制や喧嘩があんなに強烈な世界だとは思っていなかった。
Domの発する敵意丸出しのグレアが、…直接向けられたわけでもないのに…、あんなに恐ろしいものだったなんて。
棗さんに謝りたい。
きっと朋志の軽率な行動があの場面を招いたのだ。
棗をこわがって拒否してしまうなんて…。
せっかくパートナーだと認めてくれて、ずっと一緒いたいと言ってくれたのに…。
棗たちがいる部屋から離れると、段々落ち着いてきた。客間のソファに座る。
「…俺、棗さんに謝らないと」
「謝るようなことがあったのですか」
恵吾が聞き返す。恵吾は、年上でSubで、穏やかな雰囲気に、気が緩んだ。吐き出したい思いもあった。
「俺が勝手なことしたから…棗さんを怒らせて…、パートナーじゃなくなったらどうしよう…」
恵吾が少し考え、朋志の隣に座った。
「僕は、棗家の人たちと長らく一緒にいますが…、棗家の人はみんな、クールダウンが早いと言うか、怒っても長続きしません」
「…」
「そして、決して相手だけを責める人たちではありません。僕にはなにがあったのかはわかりませんが、ゆっくり話し合えば悪いことにはならないと思いますよ」
「そうでしょうか」
「ええ、きっと」
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