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ハッピーエンドのその先は
困った愛情表現 2
しおりを挟む手を洗って、キッチンを覗くと、棗がカップを用意していた。
「棗さん」
「朋志さん、ちょうどよかった」
分包された紅茶の茶葉が何種類か入っている箱から好きなものを選んで欲しいとのことだった。
飲んだことがないフレーバーが何種類かあり、その中から選ぶ。
「わかりました」棗が封を切り分量を調節している。ほぅっとしながら横で見ていると。
髪の毛に柔らかいものが触れたかと思うと、さっきみたいな音がして、びっくりする。
「な、棗さん…」
「なんですか」
数日前に泊まったときも、さっきも。棗がおかしい。
「あの…、今のってキ、キ…」
「僕が、朋志さんにキスしましたよ」
「あ…ぅ…」
やっぱり。気のせいじゃなかった。
--- 俺、棗さんにキスされて…
なんとなくわかっていたが、言葉として認識すると、急に恥ずかしくなってきた。
棗は赤い顔であわあわしている朋志を、目を細めて愛おしげに見ていた。
「なんだか今日は特に朋志さんが可愛く感じます」
と言って、朋志の腰を抱き、今度は頬にキスをした。
「あっ」
「嫌でしたか」
「違います」
嫌じゃない。嫌じゃないのに、今のこの気持ちをどう伝えたらいいのか咄嗟には出てこない。
「…慣れるためだってわかっています」
それだけ言うのがやっとだ。
棗からの触れ合いに、いちいち過剰な反応をしてしまうことが気まずい。
棗にとっては普通のことなのに、朋志はなんだか変わっていくかもしれないことがこわくて…。
「困らせてしまいましたね。すみません」と言われ、腰の手が背中に回った。
違うのに、と言いたい思いで朋志は力いっぱい棗に抱きついた。
「棗さんが謝ることじゃないです」
朋志の経験値が低いだけだ。
棗によそ見してほしく無いのに、軽くキスをされただけで、照れたり焦ったり…。棗を満足させられないことをもどかしく思う。
朋志の思考のベースはいつもそこにある。朋志のためにいろいろしてくれている棗を満足させられていないと思っているのだ。
「俺がもっと棗さんのペースに合わせられたら良いのに…」
「…」
しばらくの間、朋志の背中を黙って撫でていた棗が口を開く。
「やっぱり、僕が悪いですね」
「え…」
「朋志さんがこう…、僕のことをそういう意味で意識してくれているのが嬉しくて浮かれてしまいました。それで、つい…」
いつもはっきりと話をする棗らしくなくて、不思議に思い、顔をあげる。
「?」
「…たたみかけるなら今かと思いまして…」
調子に乗ってしまってすみませんと苦々しく笑っている棗に心を動かされる。
朋志は、考えるより先に体が動いていた。棗の頬に唇をあてる。一瞬だったが。
「あっ」行動を起こしたのは朋志なのに、びっくりして声を出してしまった。
棗も驚いている。
朋志にもなにがどうとうまく説明ができないが、苦笑している棗に、なにかをしたくて、体が勝手に動いてしまったのだ。
「キっ…キス…とか、恥ずかしいですが、嫌じゃないです」
「…ええ、わかっています」
「いや、そうじゃなくて。俺も本当は棗さんとしたいです。ほんとです」
「ええ」
「嫌じゃないですか」
「え」
「棗さんがしたいこと、全然できないから…」
「とんでもない」
「好きなときに、好きだと言わせてくれて感謝していますよ。恥ずかしがっているところも好きです」
頬にキスされて、笑ってる棗を見る。
見惚れるくらい好きな顔なのに、いつもと違うものを感じる。
少しして、からかわれたと気づいたので、なにか言い返したかったけど朋志にこれといった言葉の武器はない。
なにか気の利いたことを言おうとするのは諦める。
「…嫌じゃないならいいんです」
その後は少し苦くなった紅茶を二人で飲んだ。
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