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ハッピーエンドのその先は
変化を受け入れるには 1
しおりを挟む空港で荷物を受け取る。ホテルのチェックインまではまだ時間があるので、先に昼食をとることになった。
顕と吉継がレンタカーを手配している。
飛行機で約3時間。飛行機を降りた瞬間から、海風を感じ、朋志は静かに興奮していた。
朝早くから空港に集まり、自己紹介をしたが、緊張してちゃんとできたかどうかはわからない。
朋志は、ひそかに顕のパートナーがどんな人なんだろうと気にしていた。
肆矢桜巳。
自分にはなれなかった立場にいる人。
今は、棗がいてくれるので、気になるといってもほとんどが好奇心だが、以前なら激しく嫉妬していただろうと思うと、複雑な気持ちもある。
当の桜己は、明るく、朋志にも気さくに話しかけてくれ、勝手に感じていたわだかまりもなくなった。
桜己は、男性にも女性にも見える中世的な外見をしており、笑顔を向けられるとなんだか得した気分になれた。
「丸目さん?」
「はい」
「俺も朋志って呼んでもいい? 俺のこと、桜己って呼んでもいいよ」
「はい、桜己くん」
「あとでゆっくり話そうな」
もう一人、蘭吉継。
すごく背が高くて、身長は高めだと思っていた朋志も見上げるほどだった。
優しそうな雰囲気で、「はじめまして」とはにかんで挨拶する姿はどこか儚げに感じる。
守ってあげたくなる雰囲気の不思議な人で、朋志はすぐに吉継のことが好きになった。
吉継も朋志のことが気に入ってくれたのか握手を求めてくれたが、手を握ろうとするタイミングで、「吉継、行くぞ」と聡実が呼んだので、吉継ははっとして朋志に「ごめんなさい」と申し訳なさそうにいって、呼ばれた方へ行ってしまった。
聡実は、吉継を見上げてなにか言っている。
ちらりと朋志の方を見たが、すぐに興味を無くしたみたいだった。
厚木聡実。
--- 蘭さんと話をしたかったけど…
グレアは感じ無かったが、それでも、しっかりDomの圧を感じた朋志は、ため息を付くしかなかった。
同じSubの朋志にも牽制するほどの人だ。
蘭さんにとって害がないと認めてもらうまでは近づけない気がする。
--- この旅行中にはむりかも…
「朋志さん、疲れていませんか」
「平気です」
昼食を食べ、チェックインを済ませる。
案内された部屋は、窓が大きくガラス張りになっていて、オーシャンビューが望める部屋だった。
「すごい」と荷物の整理もそこそこに、窓に張り付く朋志に棗が声をかけた。
「朋志さん」
”Kneel”と言われると、急に心臓がどきどきして、頭もどこかふわふわしてくる。
ゆっくりと、ソファに座った棗の膝の上に座る。向かい合って抱きしめてもらう。褒めてもらうと、ほうっとため息がでて、思ったより気を張っていたことに気づいた。
「すみません、なんだかはしゃいでしまっていました」
「はしゃぐのは全く問題ありませんが、大丈夫ですか」
「え」
「許斐さん以外、初対面だったでしょう。みんなダイナミクス性を持っていましたし。気疲れしていませんか」
「はい…」
棗の肩に腕を回して体を預けると、「苦しいです」と言いながら押しのけることなく、背中を撫でてくれる。
「どんな人たちだろうって思っていて、会ってみたら、もっと話をしてみたくなりました」
「そうですか」
「でも、厚木さんは、俺が蘭さんに近づくのも嫌かもと思いました。悪いことをしてしまいました…」
「気にしなくて大丈夫ですよ」
「?」
「Domの性質がつい出ただけでしょう。嫉妬です。嫌なら連れてこないですよ。朋志さんが気にすることはありません」
「ええ…?」
「ふふ、聡実の嫉妬を笑っている場合ではないですが…」
「棗さん」
朋志の頬に手が添えられて、目を合わせられる。
「僕もこの旅行、朋志さんと許斐さんが会うのを見るのがしんどくなってしまうのではないかと思っていました」
「え」
--- 俺、一緒に来てよかったのかな?
以前、顕と会うのが嫌だと言われたことはあるが、今もだろうか。
今更ながら、どうしよう…と焦っていると。
「違います。僕の勝手な嫉妬です」
棗の目は凪いでいて、なにか含みがあるとは思えないが、朋志は、自分のDomが弱っている姿は見たくないので、どうにかしてこの気持ちが伝わらないかと思った。
「俺、パートナーだった時の顕さんのことは好きです。多分、いまも」
「ええ」
「でも、顕さんに新しいパートナーができてよかったと思っています。桜己くんと会って、よりそうやって思えました」
「そうですか」
棗は、ちゃんと話を聞いてくれている。
まだたりない。ちゃんとわかってほしかった。
棗の頭を、胸にしっかりと抱きしめる。
「棗さん、わかっていますか。俺は自分で決めた人から以外のコマンドは受け入れられません。俺、今は顕さんのコマンドも受け入れられないと思いますよ」
「朋志さん」
「…棗さんだけです」
はやく棗好みのSubにしてほしい。
ただそれだけを思って、棗の髪を撫で続けた。
「ありがとうございます」
「棗さん」
「僕もわかっています」
「本当ですか」
「ええ、ただ、僕の嫉妬心はちょっと根深いだけです」
「そんなの…」
「朋志さんが、時々こうやって抱きしめてくれたら大丈夫です」
「ええ?…、棗さんにならしますけど…」
「では僕が不安定になったときは、”Hug”と言います。朋志さんが僕を抱きしめて慰めてください。二つ目のルールにしましょう」
--- SubがDomの要求に応えられるなんて、本望だけど…
傷心のDomを癒せるなんて、ちょっといいかも…。
「棗さんって変なDomですね」
でも、嫌じゃない。
旅行から戻ったら、ノートに書き足さないと。
二行目。
”Hug”でDomを慰める。
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