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17歳と18歳 お付き合いのはじまり
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しおりを挟む土曜日。
斗樹は朝からそわそわしていた。いつもなら少し寝坊してしまう休日の朝も、この日は目覚ましの音よりも先に目が覚めた。
寝癖がついたまま、ぼーっと頭に浮かぶのは、雲雀の言葉だ。
「でーと……」
雲雀は、ゆっくりでもいいと言った。斗樹のペースに会わせてくれるみたいだ。今の状況は、『振られ慣れてるから』と言って、悲しい気持ちをなるべく見ないようにしてきた斗樹にとって、振り幅が大きくてついて行かない。
「どうしてヒバリくんは平気なんだろ……」
昆虫採集にはよく行く。野鳥観察にも。それがデートだと思ったことはない。でも、これから雲雀と行く博物館はデートだ。
デートってどんな顔して行くんだっけ?
洋服と一緒でデート用の顔とかがあれば良いのに。
「斗樹ーーー、お弁当できてるわよー!」
「はーい! すぐ行くーー!」
母親の声に、斗樹は慌てて起き上がる。パジャマのままキッチンに行くと机の上に風呂敷に包んだ弁当箱が二つ並んでいた。
「雲雀くんの分もあるわよ」
「ん、ありがと」
昼食は母が弁当を作ってくれることになった。天気予報では晴れだったことと、博物館の隣には大きな公園があって、弁当を広げるにはちょうど良い木陰もあるからだ。
冷蔵庫を開けてお茶をボトルに詰めながら、母親が作ってくれたお弁当をリュックにしまい込む。
斗樹が朝食を食べていると、ドアホンが鳴る。画面を見ると雲雀が写っている。
「雲雀くん、来たわよ」
「すぐいく!」
玄関先では、母と雲雀の話し声が聞こえる。休みの日にまで斗樹の面倒を見てもらって悪いわねぇなんて言っている。聞き漏れてくる声にいたたまれなくなる。果ては、志望校はどうとか将来はどうとかの話しになり、塾通いをしても成績がやっと人並みな斗樹の将来を案じる話しを雲雀にしはじめたので、慌てて残りを掻き込んだ。
「母さん! もういいから! ヒバリくんおまたせ!」
「あら、斗樹が遅いからじゃない。じゃあ雲雀くん、斗樹をよろしくね」
「はい、行ってきます」
駅までは徒歩だ。
「母さんが言ってることは気にしなくて良いからね、ヒバリくん」
「わかってるよ、ちょっと早く来ちゃった。ごめんね」
雲雀から素直に謝られると、それ以上は何も言えなくなる。
「ううん」
母と話す雲雀に今までに無い、複雑な思いがあった斗樹だ。
「おばさんと話すの、ちょっと緊張した」
「!」
「トキくんのお母さんのこと、まともに見られなかったよ」
雲雀も同じ思いだったのだ。
「ヒバリくんは全然そんな感じに見えなかったと思うけど……」
「そう? でも、トキくんはおばさんにばれちゃったら困るでしょ?」
するりと手の甲に雲雀の指先が伝う。
「! 困るけど……っ」
斗樹の母親だけではない。きっと雲雀の両親も、博物館のチラシをくれた父だって。”幼なじみ”だけじゃない、自分たちのことを認めてくれるかわからない。
「で、でも、ヒバリくんのことが嫌なんじゃないよ。なんて言われるかわからないから、ちょっと怖いよ……」
「そうだね、僕もトキくんとのこと二人には言いにくいな。悪いことしてるわけじゃないのにね」
「うん」
悪いことはしていない。
斗樹は雲雀のことが好きで、雲雀も斗樹のことを好きだと言ってくれた。
それだけのことなのに。
なのに進路よりも、将来にわたって重くのしかかってくる問題だと言うことは、二人ともよくわかっていた。
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ドキドキ初デート✨
トキ君今夜は眠れないね(≧▽≦)⊂((・▽・))⊃
ヒバリ君の不意打ちにいっぱいいっぱいのトキ君可愛いですね♪
更新楽しみにしています✨
感想ありがとうございます☺。
トキくんはドキドキのしすぎで、ちょっと寿命が縮んでると思います。寝てる場合ではありません😁👍。
また更新します〜✨。
はじめまして
この両片想いがモダモダして大好物です(≧▽≦)
イジワル雲雀君と純情系ワンコトキ君のカップル好きです✨
トキ君の雲雀君が好きなのをこれでもかと雲雀君に見透かされてイタズラされて…不憫だけど愛有りなのでなんか読んでても憎めないというか…
トキ君に対しても大概雲雀君も甘いですよね(^3^♪勉強見てあげたりとか色々…
これからの更新楽しみにしてます(*´ω`*)
や〜、可愛いですよね二人共( ꈍᴗꈍ)
はじめまして。
嬉しい感想ありがとうございます。
両想いが全然隠せてない二人です☺。
これからも更新していきます〜✌。