「ごめんね、トキくん」 〜 幼なじみBL好きが100万回読んだことがある展開

np03999

文字の大きさ
上 下
24 / 24
17歳と18歳 お付き合いのはじまり

3

しおりを挟む
 
 土曜日。
 斗樹は朝からそわそわしていた。いつもなら少し寝坊してしまう休日の朝も、この日は目覚ましの音よりも先に目が覚めた。
 寝癖がついたまま、ぼーっと頭に浮かぶのは、雲雀の言葉だ。
「でーと……」
 雲雀は、ゆっくりでもいいと言った。斗樹のペースに会わせてくれるみたいだ。今の状況は、『振られ慣れてるから』と言って、悲しい気持ちをなるべく見ないようにしてきた斗樹にとって、振り幅が大きくてついて行かない。
「どうしてヒバリくんは平気なんだろ……」
 昆虫採集にはよく行く。野鳥観察にも。それがデートだと思ったことはない。でも、これから雲雀と行く博物館はデートだ。
 デートってどんな顔して行くんだっけ?
 洋服と一緒でデート用の顔とかがあれば良いのに。

「斗樹ーーー、お弁当できてるわよー!」
「はーい! すぐ行くーー!」
 母親の声に、斗樹は慌てて起き上がる。パジャマのままキッチンに行くと机の上に風呂敷に包んだ弁当箱が二つ並んでいた。
「雲雀くんの分もあるわよ」
「ん、ありがと」
 昼食は母が弁当を作ってくれることになった。天気予報では晴れだったことと、博物館の隣には大きな公園があって、弁当を広げるにはちょうど良い木陰もあるからだ。
 冷蔵庫を開けてお茶をボトルに詰めながら、母親が作ってくれたお弁当をリュックにしまい込む。
 
 斗樹が朝食を食べていると、ドアホンが鳴る。画面を見ると雲雀が写っている。
「雲雀くん、来たわよ」
「すぐいく!」
 玄関先では、母と雲雀の話し声が聞こえる。休みの日にまで斗樹の面倒を見てもらって悪いわねぇなんて言っている。聞き漏れてくる声にいたたまれなくなる。果ては、志望校はどうとか将来はどうとかの話しになり、塾通いをしても成績がやっと人並みな斗樹の将来を案じる話しを雲雀にしはじめたので、慌てて残りを掻き込んだ。
「母さん! もういいから! ヒバリくんおまたせ!」
「あら、斗樹が遅いからじゃない。じゃあ雲雀くん、斗樹をよろしくね」
「はい、行ってきます」
 
 駅までは徒歩だ。
「母さんが言ってることは気にしなくて良いからね、ヒバリくん」
「わかってるよ、ちょっと早く来ちゃった。ごめんね」
 雲雀から素直に謝られると、それ以上は何も言えなくなる。
「ううん」
 母と話す雲雀に今までに無い、複雑な思いがあった斗樹だ。
「おばさんと話すの、ちょっと緊張した」
「!」
「トキくんのお母さんのこと、まともに見られなかったよ」
 雲雀も同じ思いだったのだ。
「ヒバリくんは全然そんな感じに見えなかったと思うけど……」
「そう? でも、トキくんはおばさんにばれちゃったら困るでしょ?」
 するりと手の甲に雲雀の指先が伝う。
「! 困るけど……っ」
 斗樹の母親だけではない。きっと雲雀の両親も、博物館のチラシをくれた父だって。”幼なじみ”だけじゃない、自分たちのことを認めてくれるかわからない。
「で、でも、ヒバリくんのことが嫌なんじゃないよ。なんて言われるかわからないから、ちょっと怖いよ……」
「そうだね、僕もトキくんとのこと二人には言いにくいな。悪いことしてるわけじゃないのにね」
「うん」
 悪いことはしていない。
 斗樹は雲雀のことが好きで、雲雀も斗樹のことを好きだと言ってくれた。
 それだけのことなのに。
 なのに進路よりも、将来にわたって重くのしかかってくる問題だと言うことは、二人ともよくわかっていた。

しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

さくら夏目
2024.10.31 さくら夏目

ドキドキ初デート✨

トキ君今夜は眠れないね(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)⊂⁠(⁠(⁠・⁠▽⁠・⁠)⁠)⁠⊃

ヒバリ君の不意打ちにいっぱいいっぱいのトキ君可愛いですね♪

更新楽しみにしています✨

np03999
2024.10.31 np03999

感想ありがとうございます☺。

トキくんはドキドキのしすぎで、ちょっと寿命が縮んでると思います。寝てる場合ではありません😁👍。

また更新します〜✨。

解除
さくら夏目
2024.08.18 さくら夏目

はじめまして

この両片想いがモダモダして大好物です(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)

イジワル雲雀君と純情系ワンコトキ君のカップル好きです✨

トキ君の雲雀君が好きなのをこれでもかと雲雀君に見透かされてイタズラされて…不憫だけど愛有りなのでなんか読んでても憎めないというか…

トキ君に対しても大概雲雀君も甘いですよね(⁠^⁠3⁠^⁠♪勉強見てあげたりとか色々…

これからの更新楽しみにしてます(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)

や〜、可愛いですよね二人共(⁠ ⁠ꈍ⁠ᴗ⁠ꈍ⁠)

np03999
2024.08.19 np03999

はじめまして。
嬉しい感想ありがとうございます。
両想いが全然隠せてない二人です☺。
これからも更新していきます〜✌。

解除

あなたにおすすめの小説

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。