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17歳と18歳

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ずっと気になっていた。

斗樹が雲雀のことを女の子と間違えて告白をしたことで、傷つけているかもしれないと。
やっぱり、雲雀は気にしていた。
どうして早く謝らなかったんだろうと、今さらにひどい後悔が襲ってくる。
雲雀にずっと悲しい思いをさせていたなんて。
斗樹は伸ばしていた足を折って、ベッドで正座したので、雲雀は目を見開いた。

「ヒバリくん…ごめんなさい…」
「トキくん?」
「俺…、ずっとヒバリくんに謝らなきゃって思ってたのに…」
「なにを?」
「…女の子、って思ってたから…ヒバリくん嫌だったんだね…嫌な思いさせてごめんね…もっと早く謝ればよかった…でも、女の子って思ってたの最初だけだから、ホントだよ?」

斗樹が必死に言う姿を、雲雀は目を細めて見下ろしていた。もうさっきまでのように怖い顔はしていない。いつもの優しい表情の雲雀だ。
「…いいよ、そんなの…。トキくんが、そう思ってくれているなら、僕も意地悪だったね…ごめんね、トキくん」
「…っ、ううんっ、いいんだ」
雲雀にいいよと言ってもらえて、ほっとした。
斗樹のなかで固まっていたものがすうっと溶けていくのを感じて、全身の力が抜けた。ずっと気になっていたのに言い出せなかったことだ。ほんとうによかった。


「ねえ、トキくん…」
雲雀が斗樹を呼ぶ声は、斗樹の耳には少し硬く感じた。
「なに」
「トキくんは僕が男でもいいの?」
「いいよ」
「僕のこと好きって本当?」
「うん」
「そう、よかった」
そう言った雲雀の声はほっとしたようで。
「ヒバリくん…いいの?」
不思議だ。
雲雀が、女の子と間違われるのが嫌なのは、性の否定と感じて、正しく認識してほしかったから。
でも逆に、斗樹の告白を聞いたあとでの『よかった』は、よくわからない。
男性の雲雀が、同じ男性である斗樹に告白されていいの?
いくら幼なじみだからって嫌じゃないの?
幼なじみだからこそ、今までそんな目で見てたのかって、怒られるって思ってたのに。
でも、今の雲雀から、斗樹に対して嫌悪感とか、告白されても困るといった雰囲気は感じられない。むしろ…。
斗樹の中で、期待の芽がむくむくと伸びてくる。
知らず喉が鳴る。
「ヒバリくん…俺のこと気持ち悪くないって言ってくれた」
「うん」
雲雀を見上げると、じいっと斗樹を見下ろす目。さっきまであんなに怖いと思っていたのに。今はもう怖くない。むしろ…。
「ヒバリくんも俺のこと…?」
期待を込めた目を向ける。
なのに。
「どっちだと思う?」
「ひどいよ、ヒバリくん」
そんなことを言って、斗樹をからかう。
やっぱり雲雀は、会えなかった5年間のうちに性格が変わったと思う。意地悪になった。やっぱりまた振られるのかと思って、しゅんとしているところに。
「好き」
「!」
「好きだよ、トキくん」
「…っ!」
「僕はずっと、トキくんだけだったよ」
雲雀にからかいの雰囲気はもうなかった。真摯にも感じる目から熱を感じて、斗樹の心臓はピクピク動いてだんだん大きな音を立ててきた。
斗樹の一番聞きたかった言葉だけど…、雲雀に同じ思いを返してもらえるとは思っていなかった。信じたい、けど…。
「ホ…ホント?」
「そうだよ、それなのにトキくんは、昔のことを思い出してるのか僕のこと女の子みたいだって言うしね…」
「あ…」
「あ、ちがうよ、トキくん。これはトキくんを責めているわけじゃなくて」
「…うん」
雲雀はそう言っても、やっぱり斗樹は気になった。斗樹の大好きな雲雀だ。斗樹のことで嫌な思いはしてほしくない。これだけは振られていたとしても変わらないことだった。
でも、雲雀は斗樹のことを好きだと言ってくれた。
「…トキくんが、今の僕のことを好きだって言ってくれるから、もういいよ」

「ヒバリくん…」
ベッドが軋ませて、雲雀が斗樹の隣に座る。
「トキくん」
雲雀の腕が背中に回って、優しく引き寄せられ、同時に斗樹も非の背中に腕を回した。
温かい、生きている人の体温。雲雀の熱がじんわりと伝わってくる。懐かしさと、嬉しいけれどまだ実感の伴わないふわふわした感情を持て余し、斗樹は感極まって泣きたいような、叫びたいような気分に襲われた。
そんな気持ちを誤魔化すように、斗樹は雲雀にきつく抱きついた。
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