「ごめんね、トキくん」 〜 幼なじみBL好きが100万回読んだことがある展開

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17歳と18歳

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「嫌ってなに?」
雲雀の声は今までにないくらい低くて、怖かった。表情がわかりにくいから余計に。斗樹は内心ビビりまくっていた。いつだって雲雀に嫌われることが一番怖い。
「僕がいつそんなこと言った?…どうしてトキくんはそう思ったの?」
「う…」
う…雲雀に問い詰められ、世界一の下僕としてのプライドが発動しそうだ。
「トキくん…言って」
「う…っ」
うぅ…。もう言ってしまおうか。でも、胸の内を素直に言って、『僕もトキくんのことは好きだけど…そこまではねぇ…?』なんて言われたらもうハラキリしか残された道がない。
「や、やだ」
「言えって!」
「!」
普段は飄々としている雲雀が大きな声を出したので斗樹はびっくりしてしまった。本気で怒らせてしまった。びびって動けずに固まった斗樹に気づいた雲雀は、気まずそうに「ごめん…」と謝った。
「トキくんは僕の下僕でしょ…、お願い…」
「ヒバリくん…」
雲雀がいつもと違って全然余裕がない。
普段は声を荒げるなんてことはしない雲雀だ。それは、斗樹のせいなのだろうか。斗樹がもう会わないって言ったから。体を起こして雲雀に向き合う。いつも天使みたいだけど格好良くて、何でもできて飄々としている雲雀。そんな雲雀が、ちょっと気弱になっている。囀ることをやめてしまった雲雀のように見える。そんな想像に、なんだかとても悪いことをしているような気分になった。斗樹が世界で一番好きな雲雀。大好きな雲雀にそんな顔をさせたら駄目だ。
「ヒバリくん、好き」
「うん、知ってる…」
「違うよ」
「え」
雲雀が知っているのは、今の斗樹じゃない。
「小さい時はヒバリくんが、女の子じゃなくって…け、結婚できなくて、ショックだったけど…それは小さい時の話で…」
次に斗樹がなにを言うのかわからず、雲雀は斗樹の言葉を待っていた。
「俺は、今のヒバリくんが好きなんだ」
「トキくん…」
言ってしまった。
雲雀も驚いている。
そりゃあそうだ。
まさか男で、幼なじみで、雲雀が男だって知ってショックを受けていた斗樹が、告白してくるとは思っていなかっただろう。
もう詰んだ。短い人生だった。明日からどうしよう。
でもいい。いいんだ。
振られるのには慣れている。
できることなら慣れたくはなかったが…。
「ごめん、ヒバリくん」
斗樹の気持ちなんて、とっくに知っている雲雀だ。言葉もないといったふうに顔を強張らせている雲雀に、言葉よりも雄弁な答えを受け取ったに等しい。
「うそ…」
「うん、さすがに気持ち悪いよね…、ごめんねヒバリく…」
「トキくんは全然気持ち悪くない」
「ヒバリくん…」
はっきりと雲雀が否定してくれて、それだけで斗樹の心は軽くなった。やっぱり雲雀は優しい。
「僕は、トキくんのことをなにも知らなかったんだね…」
「そんなことないよ」
斗樹の気持ちを聞いても、気持ち悪がられないだけで充分だ。
「ごめんね、トキくん」
「…っううん! いいよそんなの。俺はヒバリくんに気持ち悪いって言われなかっただけで嬉しい」
「トキくん、そうじゃなくて」
「ヒバリくん…?」
雲雀が斗樹の肩に手を置く。告白のあとで、斗樹に触れる雲雀に、言葉だけでなく本当に気持ち悪くないんだと思って安心した。
「僕は…ずっとトキくんが僕のこと女の子ならいいのにって思っているんだとばかり…、そう思っていたから…」
「ヒバリくん…」
それは振られてしばらくは本当に思っていたことだ。一時期までは事実なのだ。あからさまに雲雀のまえでがっかりしていた。
でも、雲雀がそんなことを思っていたなんて知らなかった。だから斗樹に意地悪なことしていたんだろうか。
(やっぱり、女の子と間違われて嫌な思いをさせてたんだ…)
雀の真剣な顔を見ながら、そんなことを考えていた。
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