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17歳と18歳
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しおりを挟む新学期になり、雲雀とまた一緒に登校することになった。始業式は講堂で学長挨拶があり、生徒が一堂に会するため、最初はみんな秀麗眉目な雲雀をチラチラ見て意識していた。エスカレーター式の学校なので、中学生の雲雀を知っている生徒も多い。瞬く間に生徒たちの記憶も繋がり、始業式が終る頃には、”かっこよかった入江くんが帰ってきた”に、”帰国子女”という枕詞が加わり、以前にも増した雲雀のモテライフが始まった。当の雲雀は周りの秋波にあまり関心もなく、虫や鳥ばかり見ている。
斗樹は、新しい制服を着た雲雀を何日経っても見慣れることができずに、隙を見て雲雀をチラ見してしまっていた。
「ん?」
「なんでもない」
しかし、雲雀を見ているのは斗樹だけではない。校内だけではなく、道行く人までもが雲雀をもう一目見ようと振り向いていく。一緒に歩いている斗樹など1ミクロンも視界に入っていない。でも通行人の気持ちもわかる。昔から可愛くてかっこよかった雲雀だが、子どもから大人へと変わっていく絶妙な加減の色気が加わって、見る人を惹きつける魅力となっていた。
「今日は塾の日?」
「うん、そう」
「じゃ先に帰るね」
「うん」
春休みの宿題は、雲雀に教えてもらいながら仕上げたのたが、やはり雲雀の教えかたの方が塾講師よりも斗樹にとってはわかりやすかった。昔を思い出して、新学期からも宿題を見てくれたら…とつい思ってしまった斗樹だが、高三から受験勉強を始める雲雀に悪いと理性がちゃんと仕事をして思いとどまった。
(ヒバリくんはどこの大学に行きたいのかな)
「ヒバリくんは、もう志望校決めた?」
「ん?」
「インドとはカリキュラムが違うかなって…、塾に通ったりする?」
「うーん…そうだねぇ、僕は塾より一人で勉強するほうが性にあっているかなぁ、もともと父さんの任期が終わったらこっちに戻るつもりだったから、日本の勉強もしていたしね」
「へ…へえぇ…?」
斗樹とは、頭の出来が違いすぎて想像が及ばない話だった。
「気にしてくれてる?」
「えっ」
雲雀と目が合う。
「そりゃまあ気になるよ…」
(同じ大学に行けるとは思ってないけど、近くの大学とかさぁ…、でもそこまでしたらさすがに引くかな)
そんなことを考えていたら、急に腰を引き寄せられて雲雀の肩に顔を埋めることになった。
「危ない」
びっくりして、どうしたの?と聞く前に、脇を自転車が通り過ぎていった。
「っあ…?」
「大丈夫?急にごめんね、自転車が後ろから来ていたから」
「う、ううん、ぼーっとしてた。ありがと」
「いいえ」
(びっくりしたけど…、思ったよりがっしりしてたな…)
雲雀を近くに感じて、そんなことを考えてしまったので、心臓がうるさい。
「トキくん、鼻があたったのかな」
「え」
「ほら、赤くなってる」
長い指がちょんと斗樹の鼻をつつく。
「!」
斗樹がびっくりして慌てて鼻を押さえる。
(くっついたときにあたったのかな?でも痛くはないけど)
それよりもドキドキの主張が激しい。雲雀に聞こえていないか心配になるレベルだ。
「痛くないけど…」
「ふふ、トキくんかわい」
「!」
またからかわれた。
「ひどいよ、ヒバリくん」
「そうかな?本当のことを言ったたけだよ」
「…」
うつむいてしまった斗樹に、雲雀が頭を下げて覗き込んでくる。
「嫌だったら、やめるよ?」
嫌ではない。際どい言葉選びに、勝手にドキドキしているだけだ。雲雀への気持ちが見透かされているみたいで落ち着かない。
(違うな…、バレてるんだ…だからこんなことヒバリくんは…)
「…嫌…じゃないけど…」
「そう?」
「うん…」
「よかった」
嫌ではないが、理想と現実が一瞬にやってきたので、今度は心臓が痛かった。遊ばれても一緒にいられるならそれでも良いと思っていたけど、そうじゃないのかも知れない。やっぱり、好きな気持ちを好きな人にからかわれるのは切なかった。
(ヒバリくんのことが好きなのに…)
一緒にいたいのにいたくない。反対の気持ちが同時にやってきて、斗樹はどうしたらいいのかわからなかった。
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