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17歳と18歳
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三学三学期になっても、部活には戻らなかった。
怪我については、顧問の先生や担任の先生には治療の経過を報告していた。
顧問の先生にはしっかり怪我が完治してから、いつでも帰ってきたらいいと言われている。もう怪我は良くなっている。言葉通り部に戻るべきか、公認の退部なのか、どっちつかずの気持ちはあったが、勉強が少しずつわかるようになったので、こっちを優先した。
「おおお…っ」
その甲斐あってか、学年末の試験ではかなり良くなっていた。学年順位でいうと真ん中の少しだけ下。快挙だった。
「森永うるせぇ」
「ごめん。でも見て宇野」
「…、めちゃめちゃ上がってるじゃねーか」
「だろ?すごくね?」
「すごいけどな、よく見たらまだ伸びしろの方が広い…」
「言ってろ」
サッカー部の友だちとは疎遠ぎみながら、塾に通うようになったことが目に見えない自信に繋がり、クラスの友だちとはまた仲良くなっていた。宇野は中学の時からの友だちなので、高校に入ってから斗樹の転落を見ている。中学では、秀才には遠く及ばないまでも、サッカーをしながらそこそこの成績は保っていたのだ。
「そういうおまえは何番だよ」
「ん」
「げぇっ」
3本の指に入っている。嫌味なやつ。
「ベンキョー見てやろうか?」
「いらねぇ」
宇野はこんなに頭が良くても教える方には才能がない。教えられ慣れている受け身のプロである斗樹の感想だ。
(やっぱりヒバリくんなんだよなぁ…)
オートクチュールのように斗樹だけにフィットした教え方に慣らされているので、審査基準は厳しめだと思う。
そして。
好きな人まで雲雀という、斗樹の人生は雲雀だらけ。
顔は女のコみたいに見えても、雲雀は男だ。お泊りのときには一緒にお風呂に入ったこともある。それでも好きになった。それも、LikeではなくLoveのほう…。斗樹からすれば、好きにさせられた、というくらいの気持ちだ。
いつでも優しくて、斗樹のことを考えてくれている雲雀の魅力に抗えるわけもなく。そのうえ、顔も好みだ。他に目移りさせない吸引力がある。
彼女ができても、結局変わらなかった。
彼女ができたら、その子に夢中になれると思っていた。彼女たちはみんな可愛くていい子だった。斗樹が不誠実だっただけだ。
雲雀しか好きになれないことがわかっただけ。
性癖も曲げられたうえに、告白も結婚も断られている。
残りの人生が奈落すぎると泣きたくなるが、それでも雲雀に会いたい。会いたいのだ。
雲雀が日本に帰ってくる。隣の家に。
またお隣り同士仲良くしてくれることを期待しているが、音信不通の期間もあって、雲雀に嫌われていないだろうか。謝ったら許してくれるだろうか。
会いたいのに、心の準備ができていないまま時間が過ぎていった。入江一家は明日、帰国する。
斗樹が終業式から戻ると、玄関には知らない女性ものと男性ものの靴が一足ずつ。
リビングからは、雪衣ともう一人、女性の話し声が聞こえる。
胸が急に飛び跳ねて、痛いくらいだった。
(ヒバリくん!)
慌てて靴を脱いで、スライディングする勢いでリビングへ入っていく。
「ヒバリくん…! 帰って来てたのっ?」
「もぉ斗樹ったら、騒がしい」
雪衣が話を中断させて、ただいまも言わず大声を出した斗樹を叱る。
いつも斗樹たちがご飯を食べるテーブルに、雪衣と、向かいには記憶とほとんど変わらない姿をの瑠李が座っていた。その横には雲雀が。
「あら斗樹くん、相変わらず元気そうねぇ」
「元気を通り越して失礼よ、挨拶してちょうだい」
「あ…おばさん久しぶりです」
瑠李にお辞儀をして、いまさらながらの挨拶だったが、瑠李は気にせず目を細めていた。
「またお隣さん同士、雲雀のことをよろしくね」
「はい」
「トキくん、久しぶりだね」
「ヒバリくん…」
雲雀はずいぶん変わっていた。
結局、心の準備も整わず。想像よりも大人っぽくなっていた雲雀を直視できず。斗樹は。
「二人ともごゆっくり!」
それだけをなんとか言って、自分の部屋に逃げ込んだ。
怪我については、顧問の先生や担任の先生には治療の経過を報告していた。
顧問の先生にはしっかり怪我が完治してから、いつでも帰ってきたらいいと言われている。もう怪我は良くなっている。言葉通り部に戻るべきか、公認の退部なのか、どっちつかずの気持ちはあったが、勉強が少しずつわかるようになったので、こっちを優先した。
「おおお…っ」
その甲斐あってか、学年末の試験ではかなり良くなっていた。学年順位でいうと真ん中の少しだけ下。快挙だった。
「森永うるせぇ」
「ごめん。でも見て宇野」
「…、めちゃめちゃ上がってるじゃねーか」
「だろ?すごくね?」
「すごいけどな、よく見たらまだ伸びしろの方が広い…」
「言ってろ」
サッカー部の友だちとは疎遠ぎみながら、塾に通うようになったことが目に見えない自信に繋がり、クラスの友だちとはまた仲良くなっていた。宇野は中学の時からの友だちなので、高校に入ってから斗樹の転落を見ている。中学では、秀才には遠く及ばないまでも、サッカーをしながらそこそこの成績は保っていたのだ。
「そういうおまえは何番だよ」
「ん」
「げぇっ」
3本の指に入っている。嫌味なやつ。
「ベンキョー見てやろうか?」
「いらねぇ」
宇野はこんなに頭が良くても教える方には才能がない。教えられ慣れている受け身のプロである斗樹の感想だ。
(やっぱりヒバリくんなんだよなぁ…)
オートクチュールのように斗樹だけにフィットした教え方に慣らされているので、審査基準は厳しめだと思う。
そして。
好きな人まで雲雀という、斗樹の人生は雲雀だらけ。
顔は女のコみたいに見えても、雲雀は男だ。お泊りのときには一緒にお風呂に入ったこともある。それでも好きになった。それも、LikeではなくLoveのほう…。斗樹からすれば、好きにさせられた、というくらいの気持ちだ。
いつでも優しくて、斗樹のことを考えてくれている雲雀の魅力に抗えるわけもなく。そのうえ、顔も好みだ。他に目移りさせない吸引力がある。
彼女ができても、結局変わらなかった。
彼女ができたら、その子に夢中になれると思っていた。彼女たちはみんな可愛くていい子だった。斗樹が不誠実だっただけだ。
雲雀しか好きになれないことがわかっただけ。
性癖も曲げられたうえに、告白も結婚も断られている。
残りの人生が奈落すぎると泣きたくなるが、それでも雲雀に会いたい。会いたいのだ。
雲雀が日本に帰ってくる。隣の家に。
またお隣り同士仲良くしてくれることを期待しているが、音信不通の期間もあって、雲雀に嫌われていないだろうか。謝ったら許してくれるだろうか。
会いたいのに、心の準備ができていないまま時間が過ぎていった。入江一家は明日、帰国する。
斗樹が終業式から戻ると、玄関には知らない女性ものと男性ものの靴が一足ずつ。
リビングからは、雪衣ともう一人、女性の話し声が聞こえる。
胸が急に飛び跳ねて、痛いくらいだった。
(ヒバリくん!)
慌てて靴を脱いで、スライディングする勢いでリビングへ入っていく。
「ヒバリくん…! 帰って来てたのっ?」
「もぉ斗樹ったら、騒がしい」
雪衣が話を中断させて、ただいまも言わず大声を出した斗樹を叱る。
いつも斗樹たちがご飯を食べるテーブルに、雪衣と、向かいには記憶とほとんど変わらない姿をの瑠李が座っていた。その横には雲雀が。
「あら斗樹くん、相変わらず元気そうねぇ」
「元気を通り越して失礼よ、挨拶してちょうだい」
「あ…おばさん久しぶりです」
瑠李にお辞儀をして、いまさらながらの挨拶だったが、瑠李は気にせず目を細めていた。
「またお隣さん同士、雲雀のことをよろしくね」
「はい」
「トキくん、久しぶりだね」
「ヒバリくん…」
雲雀はずいぶん変わっていた。
結局、心の準備も整わず。想像よりも大人っぽくなっていた雲雀を直視できず。斗樹は。
「二人ともごゆっくり!」
それだけをなんとか言って、自分の部屋に逃げ込んだ。
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