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小話系
待ってくれないクリスマス 2
しおりを挟む吉継は、髪が生乾きのままベッドから足がはみ出るのも気にせず、横になって清水くんの言葉をずっと考えていた。
クリスマスには、豪華なレストランと豪華なプレゼントらしい。
吉継は厚木から、日常的に結構高そうな食事を食べさせてもらっている。いらないと言うのに、予算の何倍もする車をもらったこともある。清水くんを駅まで送ったあの車だ。悔しいが乗り心地はいい。清水くんは、クリスマスは特別だと言っていた。特別は、これよりも上を目指さないといけないのだろうか。
ムリすぎる。
だいたい。
厚木にプレゼントなんているだろうか?
吉継は、そもそもを否定した。
富裕層だか超富裕層だか知らないが、お金で買えるものは、たいてい持っていそうな男だ。
物欲が強そうにも見えない。
肩たたき券やお掃除券を渡すような文化を解するとも思えない。
どうしよう。
困った。
清水くんが言った、『イチャイチャ』『ボーナスタイム』などの強ワードが頭から離れない。
巷に溢れるカップルや恋人同士、パートナに夫婦、清水くん達みたいなまだパートナーじゃなくても相手を特別に思っている人たち。彼らがどのようにしてクリスマスを過ごすのか、そもそもクリスマスじゃなくてもいい。他の人たちがどのように過ごして、仲を深めているのか。
吉継は、厚木に喜んで欲しいのに、いつもやり方がわからない。失敗ばかりしてしまう。
厚木は、吉継がなにをしても斜に構えているし、取り付く島もないこともある。とにかく偏屈だ。
たまには、ありがとうと言われてみたい。
イチャイチャがどんなものか知りたい。
生まれてこの方、誰かにプレゼントをするなんてイベントをしてこなったツケを、こんな形で払わされることになるとは。
なんにも浮かばないものを考えても仕方ない。下手な考え休むに似たり、だ。寝よう。
諦めて布団をかぶった瞬間、頭に浮かぶものがあった。
「……あっ」
あった。
下着だ。変態下着。
厚木は吉継が嫌そうに変態下着を穿く姿が好きなのだ。理解できない。
あれ以外で、吉継がすることを喜んでいる記憶がない。吉継は命令をくれたらいつだってご主人様に尽くす心意気があるのに。靴を舐め、忠誠を見せてもいい。なのに、下着は大抵命令じゃないことが多い。あれは厚木の趣味だ。
「だめです」
却下だ。
下着姿で「ありがとう」なんて言われて、嬉しいわけがない。
吉継にだけダメージがありすぎる。
下着だけはだめだ。
厚木とは、バレーの練習日以外はほとんど会ってるのに、最近、厚木の腹嗅ぎができていない。厚木が忙しいからだ。
厚木は、吉継のことをパートナーだと言いながら、仕事と結婚しているような男だ。出るところに出たら、二股で糾弾できるに違いない。
吉継は、とりとめの無いことをぐるぐる考えているうちに、ぐっすり眠ってしまった。
次の週。
バレーの練習日。年末年始は、市民体育館が休みになるので、十二月は、今日を含めて練習はあと二回だった。清水くんに相談できる回数があと二回しかないということだ。
この一週間、吉継は考えては力尽きて寝る、また休むに似た考えを巡らせることを繰り返し、一歩も先に進めなかったのだ。笠井に相談したら、秒で厚木に伝わるかもと心配して相談できなかった。山科にも。今の吉継には清水くんしかいない。
しかし、清水くんは、吉継の一週間の苦悩を「ふうん」で済ませて、こともなげに言った。
「蘭さんには、愛の告白があるでしょ?」
「あ、あ……?」
「そ、愛の告白ね。プレゼントなんて無くても、日頃の感謝の気持ちを伝えるだけでいいんだよ。蘭さんは、愛の告白とか厚木さんに言ったことある? 気持ちを伝えるって大事だよ。厚木さんも喜ぶんじゃないかなあ」
喜ぶ厚木なんて、嘘にしか聞こえないが、厚木をリスペクトしている清水くんの言葉だ。そうかという気持ちになってくる。
「し、清水くんも……」
「ん? なに?」
「清水くんも、春燈くんに愛の告白しますか?」
「俺は、するよ?」
「!」
「春燈くんのこと好きだもん、気持ちは伝えたいよ。プレゼントもあるんだ」
素直な清水くんの言葉に、何も言えなくなった吉継だ。
「蘭さんは、普段から厚木さんに、好きとか言ってる?」
「い、言ってません……」
「厚木さんのこと好きでしょ?」
「……はい……」
「じゃ決まり!」
「!」
「クリスマスのときくらい素直にならないと! 特別なクリスマスになるよ! じゃ送ってくれてありがと」
また来週、といって軽快に走る姿を見送る。
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厚木に?
いよいよ途方に暮れる吉継だった。
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