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小話系
同担拒否 6
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今日はもう厚木が会社に戻らなくていいというので、車は厚木邸の駐車場に停めた。玄関に入ると山科が出迎えのために出てきていた。
厚木が事前に連絡しておいたのか、山科は吉継を見ても驚かなかった。「おかえりなさいませ」と厚木に頭を下げたあと、吉継の方を見てにっこり笑う。
「蘭さん、お久しぶりです。どうぞお入りになってください」
「山科さん、こんばんは。おじゃまします」
いつもなら山科に会えば、表情は乏しくても嬉しさを隠そうともしない吉継だが、今は元気がない。下を向いてスリッパを履いている。山科が厚木の方を見ても、厚木は肩を竦めるだけだ。
「聡実さん、夕食はどうされますか」
「少しいただこう」
「はい」
山科に久しぶりに会えて、嬉しいと感じているのに、今ひとつテンションが上がらず、山科の手料理を目の前にしても食欲が湧かない。吉継の複雑な心中を知らない山科は、心配しておでこに手を当ててみた。
「熱はないですね」
「大丈夫です」
自分の不甲斐なさを痛感して落ち込んでいるだけなので、病気ではない。遅い思春期が来ただけである。
しかし、それを言うには、吉継のなけなしのプライドが邪魔をする。
山科がまたも厚木を見る。『聡実さんのせいですか?』と雇い主に胡乱な目を向けている。垣間見えたモンペの本性を、厚木はしれっと受け流した。
吉継はまだ、心ここにあらずといった様子で、箸に手もつけない。
そんな吉継の姿を厚木はどう解釈したのか、吉継の腕を引いて立ち上がらせる。そのまま引きずられるようにして歩かせられる。
「あ、厚木さん?」
「山科、食事はあとでもらう」
「はい」
「厚木さん、どこ行きますか」
「…」
廊下を歩きながら尋ねるが、返事はない。
ポイッと放られた部屋は、厚木の書斎。
力の強い厚木に放られた吉継は、おぼつかない足取りでソファに座り、見上げると厚木が怪訝そうな顔をしてこちらを見下ろしていた。
「厚木さん…?」
「アイツに何がされたのか?」
さっきまで清水くんと親密に話をしていたのに、もう『アイツ』呼ばわりだ。
「されてません」
「…パートナーにと迫られていただろう」
「でも、断りました」
清水くんのDom性に、吉継のSub性が刺激されたが、理性は働いた。
それよりも、一瞬でも厚木を清水くんに取られるかも知れないと思ったことに動揺している。
「ああ、知っている…」
厚木がおかしなことを言っても、吉継は気づかない。足の間になにか固いものが押し付けられていて、見ると、厚木の膝が当たっていた。さらに膝を入れてくる。
「あっ!」
顎を取られて、厚木の方を向かされる。
「アイツとプレイをしたかったのか?」
「え…あ、…っ、い、痛いです」
骨ばった膝を押しのけようとするが、動かない。しかし、厚木がそれ以上膝を押し進めてくることはなかった。
厚木の強い視線が吉継を急かしてくる。吉継に命令するときと同じで有無を言わせない。腰の後ろからゾクゾクとするものが湧き上がってきた。
「吉継」
「あ、…俺は…プレイは厚木さんだけです…」
「プレイは?」
「はい、…俺は清水くんがDomだとわかりませんでした。でもDomだと思った途端…」
「命令されたくなったのか?」
「でも、厚木さんとしかしたくないです」
「ふん」
「い、痛いっ…厚木さん…」
また厚木が膝に体重をかけてくるが、これ以上後ろには逃げられない。
痛いと抗議する口を塞がれ、ぬるりと熱い舌が絡んできて、なにも言えなくなる。頭と足の間に、全く違う熱を灯され、厚木が離れていっても、吉継はソファに沈んだまま動けなかった。
隣に座った厚木はどこか不機嫌そうで、怒っているのかも知れないと思うが、吉継に心当たりはない。
吉継がいつも”厚木だけ”と言っても、すぐに”同じ気持ちだ”と返してくれないことが今日に限って気になってしまう。
「あ…」
痺れる舌で、なにか言おうとして、もたついた。
「あ、厚木さんはどうですか」
俺だけですか?と聞きたいのに、かぜか言葉にならなかった。けれど、厚木になら言いたいことはだいたい伝わる。
「さあな」
「ひどいです」
「ひどくない」
厚木はいつも言ってくれない。
吉継は、厚木が清水くんと並んで親密に話をしているところを見て、もやもやとしたものを感じた。清水くん以外にも、厚木のことを『格好いい』と思っている人がいたらどうなる?吉継は厚木が格好良くても悪くてもどうでもいいのに。その人がSubだったら…?
今まで『厚木だけ』と言うだけで満足していたのに、よくわからない気持ちに振り回されている。その思考の中心には厚木がいるのに、厚木にだけは知られたくない。
「厚木さん」
「…」
呼んでも、ちらっとこちらを見るだけ。
ひどい。
「厚木さんの命令が欲しいです」
「吉継」
首の根から引き寄せられ、厚木の下腹に頬を押し付けられる。そこはすでに吉継の頬を押し返すほどで。
「わがままなSubだ、お前は」
厚木に言われるなんて。
でも、もう吉継は、次に続く言葉にしか興味がなかった。
次の週、練習に清水くんは来なかった。
「清水くん、いませんでした」
バレーの練習帰りはいつもより遅い時間になるが、厚木は相変わらず社長室にいた。今夜は珍しく笠井もいる。吉継が来たので、お茶の準備をするために部屋を出ていった。
「そうか」
厚木は今日もそっけない。
吉継は、先週のことがあって、清水くんに、両親には相談できたのか、病院に行けたのか、いろいろ気になっていた。今日、話が聞けたらいいなと思っていたのだ。練習は自由参加だが、休みだと心配になる。
笠井が盆にお茶を乗せて戻ってきた。そこでやっと吉継は清水くんのことが聞けた。知ってるなら最初から教えて欲しい。
「昨日、清水くんのお母さんが来られていましたよ」
「えっ」
「社長が名刺を渡していましたから、病院を紹介してくれたお礼にこちらへ」
「…」
「ダイナミクスについてあまりご存知なかったようで、感謝なさっていました」
「そうですか」
よかった。両親がいてくれたら清水くんも安心だ。ダイナミクスを安定させて、清水くんにもパートナーが見つかればいい。ほっとして厚木に言った。
「厚木さん、清水くんよかったです」
「そうだな」
「社長も優しいですね、悩みを聞いて病院も紹介してあげるなんて」
笠井も笑顔だ。吉継もそうだなと思った。しかし、厚木は。
「そんなつもりはない」
「邪魔な芽を摘んだだけだ」
厚木が事前に連絡しておいたのか、山科は吉継を見ても驚かなかった。「おかえりなさいませ」と厚木に頭を下げたあと、吉継の方を見てにっこり笑う。
「蘭さん、お久しぶりです。どうぞお入りになってください」
「山科さん、こんばんは。おじゃまします」
いつもなら山科に会えば、表情は乏しくても嬉しさを隠そうともしない吉継だが、今は元気がない。下を向いてスリッパを履いている。山科が厚木の方を見ても、厚木は肩を竦めるだけだ。
「聡実さん、夕食はどうされますか」
「少しいただこう」
「はい」
山科に久しぶりに会えて、嬉しいと感じているのに、今ひとつテンションが上がらず、山科の手料理を目の前にしても食欲が湧かない。吉継の複雑な心中を知らない山科は、心配しておでこに手を当ててみた。
「熱はないですね」
「大丈夫です」
自分の不甲斐なさを痛感して落ち込んでいるだけなので、病気ではない。遅い思春期が来ただけである。
しかし、それを言うには、吉継のなけなしのプライドが邪魔をする。
山科がまたも厚木を見る。『聡実さんのせいですか?』と雇い主に胡乱な目を向けている。垣間見えたモンペの本性を、厚木はしれっと受け流した。
吉継はまだ、心ここにあらずといった様子で、箸に手もつけない。
そんな吉継の姿を厚木はどう解釈したのか、吉継の腕を引いて立ち上がらせる。そのまま引きずられるようにして歩かせられる。
「あ、厚木さん?」
「山科、食事はあとでもらう」
「はい」
「厚木さん、どこ行きますか」
「…」
廊下を歩きながら尋ねるが、返事はない。
ポイッと放られた部屋は、厚木の書斎。
力の強い厚木に放られた吉継は、おぼつかない足取りでソファに座り、見上げると厚木が怪訝そうな顔をしてこちらを見下ろしていた。
「厚木さん…?」
「アイツに何がされたのか?」
さっきまで清水くんと親密に話をしていたのに、もう『アイツ』呼ばわりだ。
「されてません」
「…パートナーにと迫られていただろう」
「でも、断りました」
清水くんのDom性に、吉継のSub性が刺激されたが、理性は働いた。
それよりも、一瞬でも厚木を清水くんに取られるかも知れないと思ったことに動揺している。
「ああ、知っている…」
厚木がおかしなことを言っても、吉継は気づかない。足の間になにか固いものが押し付けられていて、見ると、厚木の膝が当たっていた。さらに膝を入れてくる。
「あっ!」
顎を取られて、厚木の方を向かされる。
「アイツとプレイをしたかったのか?」
「え…あ、…っ、い、痛いです」
骨ばった膝を押しのけようとするが、動かない。しかし、厚木がそれ以上膝を押し進めてくることはなかった。
厚木の強い視線が吉継を急かしてくる。吉継に命令するときと同じで有無を言わせない。腰の後ろからゾクゾクとするものが湧き上がってきた。
「吉継」
「あ、…俺は…プレイは厚木さんだけです…」
「プレイは?」
「はい、…俺は清水くんがDomだとわかりませんでした。でもDomだと思った途端…」
「命令されたくなったのか?」
「でも、厚木さんとしかしたくないです」
「ふん」
「い、痛いっ…厚木さん…」
また厚木が膝に体重をかけてくるが、これ以上後ろには逃げられない。
痛いと抗議する口を塞がれ、ぬるりと熱い舌が絡んできて、なにも言えなくなる。頭と足の間に、全く違う熱を灯され、厚木が離れていっても、吉継はソファに沈んだまま動けなかった。
隣に座った厚木はどこか不機嫌そうで、怒っているのかも知れないと思うが、吉継に心当たりはない。
吉継がいつも”厚木だけ”と言っても、すぐに”同じ気持ちだ”と返してくれないことが今日に限って気になってしまう。
「あ…」
痺れる舌で、なにか言おうとして、もたついた。
「あ、厚木さんはどうですか」
俺だけですか?と聞きたいのに、かぜか言葉にならなかった。けれど、厚木になら言いたいことはだいたい伝わる。
「さあな」
「ひどいです」
「ひどくない」
厚木はいつも言ってくれない。
吉継は、厚木が清水くんと並んで親密に話をしているところを見て、もやもやとしたものを感じた。清水くん以外にも、厚木のことを『格好いい』と思っている人がいたらどうなる?吉継は厚木が格好良くても悪くてもどうでもいいのに。その人がSubだったら…?
今まで『厚木だけ』と言うだけで満足していたのに、よくわからない気持ちに振り回されている。その思考の中心には厚木がいるのに、厚木にだけは知られたくない。
「厚木さん」
「…」
呼んでも、ちらっとこちらを見るだけ。
ひどい。
「厚木さんの命令が欲しいです」
「吉継」
首の根から引き寄せられ、厚木の下腹に頬を押し付けられる。そこはすでに吉継の頬を押し返すほどで。
「わがままなSubだ、お前は」
厚木に言われるなんて。
でも、もう吉継は、次に続く言葉にしか興味がなかった。
次の週、練習に清水くんは来なかった。
「清水くん、いませんでした」
バレーの練習帰りはいつもより遅い時間になるが、厚木は相変わらず社長室にいた。今夜は珍しく笠井もいる。吉継が来たので、お茶の準備をするために部屋を出ていった。
「そうか」
厚木は今日もそっけない。
吉継は、先週のことがあって、清水くんに、両親には相談できたのか、病院に行けたのか、いろいろ気になっていた。今日、話が聞けたらいいなと思っていたのだ。練習は自由参加だが、休みだと心配になる。
笠井が盆にお茶を乗せて戻ってきた。そこでやっと吉継は清水くんのことが聞けた。知ってるなら最初から教えて欲しい。
「昨日、清水くんのお母さんが来られていましたよ」
「えっ」
「社長が名刺を渡していましたから、病院を紹介してくれたお礼にこちらへ」
「…」
「ダイナミクスについてあまりご存知なかったようで、感謝なさっていました」
「そうですか」
よかった。両親がいてくれたら清水くんも安心だ。ダイナミクスを安定させて、清水くんにもパートナーが見つかればいい。ほっとして厚木に言った。
「厚木さん、清水くんよかったです」
「そうだな」
「社長も優しいですね、悩みを聞いて病院も紹介してあげるなんて」
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