神様はいない Dom/Subユニバース

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受け入れるもの、変わるもの

塞翁が馬 3

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 吉継比で派手なスーツを着せられて、お披露目会で提供される食事を夕食にすることになった。
 ホテル内の会場へ向かう廊下で、厚木が口を開く。
 「先に挨拶をしてもらうことになるが、あとは好きにしていい」
 「挨拶ですか。誰にどんな挨拶をすればいいですか」
 「いつもみたいにボーッと立っているだけでいい」
 ひどい言い草だと思ったが、舌が縺れそうな口上を述べたり、社交辞令を駆使した挨拶などできるわけもない。
 「はい」
 と答えるしかなかった。
 「難しく考えるな。相手はウチの祖母だ」
 「厚木さんのお婆さん…」
 「ああ、まぁお前の言葉でいうとちょっと派手だが、取って喰われたりはしない」
 「厚木さんはお婆さんに会いに来たんですか」
 「そうだ」
 「俺も挨拶するために来たんですか」
 「そうだ。嫌なら止めてもいいが」
 「嫌じゃないです。厚木さんと似てますか」
 「さあ、似ているんじゃないか」
 「俺も会ってみたいです」
 「そうか」
 「はい」

 

 会場は立食形式で、人も多く賑わっていた。
 厚木が参加者の誰かと短い挨拶を交わしながら、ゆっくり歩いていくのについていく。英語で聞き取れないが、みんな友好的な雰囲気だ。そういえばお披露目だと言っていた。何をお披露目してるんだ?
 吉継にも声をかけてくれる人がいるが、何を言っているのかわからない。
 「厚木さん、わかりません」
 「ただの挨拶だ、愛想でも振りまいておけ」
 愛想などあるわけがないのに、無茶振りすぎる。ボーッと立っているだけでいいはずだったのに…。頭をペコリと下げ、求められたら握手をする。厚木はそんな吉継をちらりと見ては、ニヤついていた。ムッとするが、嫌味は言われなかったのでこれでいいことにする。
 
 「あっ、聡実ちゃん!」
 今度は長身でえらく顔の整った若い男性が厚木に気づいて話しかける。
 日本語だ。
 「遅いよ!主役なのに…」
 厚木の影から盛大にはみ出している吉継に、えらく顔の整った男性がウィンクをして挨拶をする。
 「!」
 日本語に安心したのもつかの間、その気障な行動に一瞬で住む世界が違うと線を引いた吉継である。ここはボストン、油断は禁物だ。
 「こいつの準備が長くてな」
 厚木は好きなことを言っている。
 そして、気障な男の隣に女性が立っていた。グレーの髪をボフカットでまとめて流している。タイトなワンピースが似合う、若すぎず年配過ぎない年齢不詳の女性だ。そして全体的に派手だ。キラキラしている。
 意思の強そうな目が吉継を見て、にっこりと笑う。
 それになぜかドキリとする。
 「千聡さん、連れてきましたよ」
 厚木が言う。
 「ありがとう、聡実さん」
 「いいえ」
 「…」
 厚木がいつもの高慢な態度ではなく、粛々とした態度で女性に話しかけている。この人が厚木の祖母なのだろうか。それにしては若い気がするが…と頭に「?」を飛ばしていると、女性が吉継に歩みよってくる。
 「わ」
 「聡実の祖母で千聡です。よろしくおねがいします」
 「あ…、蘭吉継です…よろしくおねがいします」
 慌てて頭を下げる吉継だ。
 「今夜は聡実のために来てくれてありがとう」
 「い…、いえ…」
 「ね、聡実ってわがままでしょう」
 「う…」
 その通りなのだが、さすがの吉継も同意してはいけないことくらいわかる。だが上手い言葉もない。目が泳いだ。厚木が肩を竦めている。失敗しているということだ。気障な男も笑いを堪えているような顔をしている。
 千聡は少女のように笑っている。お婆さんには見えない。
 「ふふふ、気を遣わなくて良いのよ。この子についていくのは大変でしょ、なんでも勝手に決めて勝手にしちゃうから」
 まるで見てきたかのような、事実の畳み掛けがすごい。そうなんです、いつも振り回されていますと言いたい。
 「これからも聡実をよろしくおねがいします」
 「あっ、いいえ。こちらこそよろしくおねがいします」


 厚木は千聡とまだすることがあるそうだ。
 「吉継さん、しばらく聡実を借りるわね」
 「はい」
 「千聡さん、吉継は英語がわからないので通訳がいります」
 「あらそう。じゃあ、理生さん、少しの間いいかしら」
 「千聡ちゃんの頼みならなんなりと」
 「えっ」
 「吉継ちゃんよろしくー」
 「…………よろしくおねがいします……」
 気障男の通訳なんかいらない…と吉継の顔には書いていた。厚木はそれを読み取ってか、「すぐ戻る」と言い残し千聡をエスコートして行った。
 「はい」
 厚木が見えなくなるまで、吉継は縋るように目で追っていた。



 

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