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受け入れるもの、変わるもの
トレーニングプレイの成果 5
しおりを挟む厚木の裸が見たい。
吉継の言葉に、厚木が驚いた表情をしたのもつかの間、すぐにいつものように斜に構えた食えない表情になり、吉継を足の先から頭のてっぺんまでまじまじと見てから。
「わかった」
と言った。
夜が深まるころ、吉継は厚木を助手席に乗せて、厚木から押し付けられた車を運転させていた。むうとわかりやすく拗ねている吉継を横目で見て、厚木はやれやれというように口を開く。
「なにが不満だ」
向かう先は厚木の家だ。
あれから吉継は、促されるまま弁当を厚木の口に運び、時には口移し、厚木が残りの仕事を片付けているときも、帰り際いたずらのように尻を揉まれているときも、厚木がご褒美をくれるのを待っていたのに。
「帰るぞ」
と言われてあれよあれよという間に、運転席に押し込まれたのだ。
つまるところ厚木にご褒美を先延ばしされたわけだ。
不満しかない。
「俺だけいつも裸なんてズルいです」
「下着は履いていただろう」
「ご褒美くれるって言ったのに、すぐ脱がないのはどうしてですか」
「会社で脱ぐわけがない」
「厚木さんはズルいです」
「なんとでも」
吉継がなにを言っても意に介さない。
厚木はやっぱり嫌なDomだ。吉継をからかって一人で楽しんでいる。
「俺のご褒美なのに」
「ふ、俺はお前に出し惜しみするDomだと思われているのか」
「Domはみんなそうです」
吉継の足元を見て、自分の方が偉いと思っている。そんなDomしか知らない。
「心外だが」
「知りません」
厚木は違うと思ったのに、とむくれる吉継を放って厚木は、どこかからかかってきた電話にでていた。
駐車場で厚木を降ろして、玄関先まで送る。今はそんなことしなくていいのだが、送迎をしていた頃の名残だった。
「お疲れさまです」
「寄っていけ」
帰ろうとしていた背中に声がかかる。
「もう遅いだろう」
「明日も仕事です」
「俺もだ」
厚木はほとんど寝なくても平気だが、吉継は違う。普段なら寝ている時間帯だ。
「朝起きられなくなります」
「さっきまで寝ていたが」
「厚木さんと一緒にしないでください」
吉継からすれば厚木は異星人だ。時間軸が違うのだ。
「いいから来い」
腰を押されて中に入る。
「厚木さんは乱暴な人です」
「ご褒美が欲しくないのか」
「ぅ…」
乱暴な厚木にいらないと言いたいが、ご褒美はいらなくないのだ。厚木の手のひらの上で遊ばれている感じが気にくわないだけで。
「ほら入れ」
「…はい」
リビングに入ると厚木が机に置いてあったメモを読んでいた。
「ほら」
メモを手渡され、受け取る。
山科が、厚木宛に夜食や風呂を用意していることや戻ってきたクリーニングを置いてある所を書いていた。その下に、吉継にも夜食や持ち帰り用のお弁当やお菓子があることが追伸されていた。
「山科さん…」
山科とは、先日久しぶりに顔を合わせた。そのときにも色々と普段食べないような凝った料理を食べさせてもらったところだ。時間が合えば一緒にバレーの試合を観に行く約束もした。
「山科と二人で会っているらしいな」
はいと返事をしたあと、厚木を見下ろすといつもの斜に構えたようないけ好かない感じは鳴りを潜め、憮然としているように見えた。山科は、縁あって一人暮らしの吉継を気にかけて時々ご飯を食べさせてくれたり、手土産を持たせてくれたりしている。厚木からも好きにしていいと言われていると聞いていたが、違うのだろうか。
「俺、山科さんと会ったらだめですか」
「…いや」
「じゃあ、よかったです」
「よかった?」
「山科さんが怒られたら嫌です」
「……」
厚木のこれみよがしのため息が、なぜこのタイミングなのかさっぱりわからない吉継は、厚木の気難しさに「?」と首を傾けるだけだった。
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