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小話系
クリスマスマジック 4
しおりを挟む理生は同級生で、厚木と同じDomだ。普段は海外にいる。彼とは全く気が合わないだが、海外に住む祖母とも親交があるので無下にできない。一時的な帰国に伴いここをゲストハウスにする予定だったのを吉継が押し出す形になり、代わりのホテルで滞在してもらっていたのだが。
暇で来られては大層迷惑な話である。
「残念だが、お前の相手をしている暇はない」
「相変わらずつれないなぁ…」
長身で美形の理生だが、なんでも人より出来るので努力などしたことがない。いつも人を小馬鹿にしたような態度で何事にも冷めている。しかし祖母はそれ込みで彼を気に入っており、よく社交の場に理生を連れ回しているようだ。
厚木からすれば、気がしれない、の一言だ。同じ顔をした弟の方がはるかにマシである。
「聡実ちゃん、いつからペドフィリアになったの」
「なっていない」
「でもこの子Subだよね。青田買い?」
「…」
理生はチャラくてウザいが、嗅覚は侮れない。
「命令してみた?」
「するわけない」
「だよね」
さすがにそれくらいの良識はあるようだ。
急な来客にぽかんとしている吉継に、理生が屈んで目線を合わせる。
「はじめまして、棗理生です。聡実ちゃんのお友達です。ぼくちゃんのお名前教えてくれる?」
「あ、あららぎよしつぐです。よんさいです」
手を広げて小指を曲げようとして失敗している。なぜ親指の方を曲げないのか不思議である。
「吉継くん、かわいいねえ。よろしくね」
「はいよろしくおねがいします」
「吉継、行くぞ」
「お出かけするの?」
吉継に聞いている。小賢しいやつである。
「すべり台の大きな公園です」
「へえぇ俺も滑りたいなぁ」
「りおさんもすべり台好きですか」
「大好きだよー。吉継くんと一緒に滑り台したいなぁ」
「さとみさん…」
「聡実ちゃーん」
「…」
ウザい理生はともかく、つぶらな目に強請られては仕方がない。
「運転しろ」
「えーしょうがないなぁ」
チャイルドシートがついている厚木の車で行くことになった。後ろに吉継と厚木が乗り込む。
「じゃ、いくよー」
「はい」
「ふん」
吉継は、流れる景色を見て喜色を滲ませており、あきらかに外出を楽しんでいる。言わないだけで外に行きたい気持ちはあったのだ。なるべく人目につきたくないと思っていたが、気分転換はさせてやったほうがよかったのか。
公園に着くと、吉継の目の色が変わった。
「すべり台とっても大きいです…!」
と両手を広げて興奮している。
吉継は延々と一人で滑べっていた。
「さとみさん、見てましたか」
はあはあ息を切らしながら厚木のところに走ってくる。
「ああ、大きい滑り台はどうだった」
「おもしろいです」
鼻の穴が開いている。
「ほら」
手を差し出すと素直に厚木の首につかまる。
「おやつの時間だ」
「はい」
休憩所の入口にはクリスマスツリーが置いてあり、いち早く見つけた吉継は、厚木から降りて、とっとっと走って行く。電飾の光に眩そうにしている吉継に理生が声をかける。
「クリスマスだねぇ」
「クリスマスです」
「吉継くんは聡実ちゃんとパーティするの?」
厚木とそんな話をしたことがない吉継は答えられない。
吉継は助けを求めるように厚木を見上げる。
「したいならしてもいい」
「パーティしたいです」
「いいなぁ、俺も行きたいなぁ」
「招かれざる客だ」
「ひどい…」
「パーティ…ドキドキですぅ…」
大人二人の会話など耳にも入らず、吉継は頬を染めてオーナメントをつんつんと突いている。吉継の様子を見て、パーティのハードルがあがった気がした厚木だ。
吉継は、理生とも散々滑り台で遊び、そのあとは一人でブランコやジャングルジムで遊びだした。
公園に遊びにきた他の子どもとなにやら言葉を交わし、仲良くなったようで一緒に遊んでいる。
近くのベンチで吉継を見守りながら理生と並んで座っているのは地獄絵図でしかない。
「吉継くんかわいいねえ」
「そうだな」
「聡実ちゃんに懐く子どもなんているんだね、Subの本能かな」
理生にいろいろ言いたくない厚木は黙るしかない。
「それより、用があったんじゃないのか」
「うん、そう。千聡ちゃんのこと」
千聡とは厚木の祖母である。
「事業の株分けでもされたのか」
「あったりー、もう情報回ってるの?」
「いや、まだだな」
千聡の性格ならあり得ると思っただけだ。
彼女は祖父とタイプは違えど商才溢れる人だ。最初は孫の同級生くらいの認識だった理生を、いたく気に入り懐に入れたのは千聡だ。千聡はわかりやすく、才能しか愛さない。理生が気に入られているのはそういうことだ。
そして、千聡は厚木家の女帝だ。彼女の決定に異を唱えるものはいない。
「お前はいいのか」
「俺?」
「祖母が勝手に決めたなら面倒が増えるだろう」
「まあねぇ。でも、感謝もしてるからね。逆に聡実ちゃんはいいのかなぁーって」
「なぜ」
「俺、完全に部外者っていうかー親戚でもないし。今は聡実ちゃんがトップでしょ?」
「祖母が決めたことは今も絶対だ。彼女の性格なら誰にも言わない可能性もある」
「えぇ、ないでしょ。さすがに?」
「祖母の持っている事業の半分は彼女だけのもので、厚木家は関係ないからな」
「うぇぇ…千聡ちゃんエグいわぁ」
「頑張ってくれ。若い子と一緒にいると若返ると言って今のほうがいきいきしている。あと50年は生きる」
日が傾き、吉継と一緒に遊んでいた子どもが母に呼ばれて帰っていく。
一人になった吉継は、子どもを見送ったあと走って戻ってきた。
「おともだち帰っていきました」
「そうだな」
「俺たちも帰ろっか」
「はい」
一応言いたいことを言った理生は家には入らず帰って行った。帰りの車で寝てしまった吉継を抱えてリビングのソファに寝かせる。夕食の時間になり、笠井が手配した食事が運ばれる。いい匂いにつられて吉継が起きる。
「おなか空きました」
「いいタイミングだ」
リビングなら、食事の匂いが届く。食い意地が張っている吉継には効いた。
満腹になって寝てしまう前に風呂に入れる。
「ぼくは一人で洗えますから」
吉継は一人で頭も体も洗えることが自慢だ。偉いと褒めてやると「それほどでも…」と体をくねくねさせて照れている。小さい吉継は謙遜を知っている。なぜこれが大きくなると少し褒めるくらいでは足らず、もっとよこせとなるのだろうか。
湯船に浸かる。
話題は公園のことだ。友達ができた、滑り台が面白い、クリスマスツリー…思いつくまま喋っている。
「クリスマスパーティはケーキですか」
「食べたいケーキがあるのか」
「えっとぉ、クリスマスしてるやつです」
「……いちごのやつか」
「いちごもクリスマスです」
子どもの言葉は難解だ。ピンと来ていない厚木に、かしこくしてたらお家にサンタさんがプレゼント持ってきますと本人はヒントのつもりだろうが、クリスマスといえばの定番で全くヒントになっていない。
むう。と伝わらないもどかしさで口を尖らせたのも一瞬。
「クリスマスに食べたらみんなクリスマスケーキです」
妙に物わかりのいいことを言い、ニコニコしだした。
次の日、笠井によりスピード解決した。
「クリスマスケーキって言えば、ホールケーキにサンタを模した砂糖菓子が乗ってるアレですよ」
アレと言われても厚木にはわからないが、アレなのだろう。吉継も「アレです」とそれっぽい顔をしている。
夕方には用意できるらしく、今日は朝から吉継はパーティ準備で忙しい。
厚木は日中は出社なので、準備は笠井とすることになった。
「さとみさん、会社ですか」
「ああ」
「かえってきますか」
「夕方に」
「ぼくはいい子にしてます」
「ああ」
一生ダラダラ続きそうなやり取りに笠井が飽き飽きした表情で呟く。
「…今生の別れじゃないですから…」
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