上 下
74 / 114
レベルアップを目指して

社畜にも休みくらいある 2

しおりを挟む



 
 「家に来るか」
 と言われたのが昨日のこと。
 

 厚木が朝早くから迎えに来た。
 いつもは迎えに行く厚木が迎えに来ている。
 吉継のテンションは少し上がっている。表情筋には反映されないが。

 
 「いつもと逆です」
 「ああ、いくぞ」
 「…?」

 厚木の返事がそっけないのはいつものことだが…。

 「厚木さん」
 「なんだ」
 「なんでもないです…」
 「さっさと乗れ」
 「俺が運転しますか」
 「いい」

 即答され、厚木が運転する車に乗り込む。

 
 なんだか、厚木の機嫌が悪い気がする。
 時折ため息を吐いたり、全然吉継の方を見なかったり…。
 社畜にとって休みの価値は計り知れないくらい高いのかもしれない。
 吉継のために使うのはやっぱりもったいないと思ったのだろうか?
 単純に面倒臭い可能性もある。厚木だし。  
 

 信号が赤になった。

 「厚木さんにはこれ、いやなことですか」
 「あ?」
 「俺、帰ります」
 「待て」
 助手席の鍵を開けるが、すぐさまガチャリと掛け直されてしまう。
 「嫌です。厚木さん怒ってます」
 「あ?…いや、悪かった。怒っていない」
 「…」
 「怒っていない、ベルトをしろ」
 渋々シートベルトをかけなおす。
 「怒ってませんか」
 「ああ、ただ、家に帰ったら面倒なことがある」
 「面倒ですか」
 社畜の社長業を文句も言わずにこなす厚木の面倒なこと?
 単純に興味がある。
 「何かありますか。でも、嫌なら帰らなくて良いと思います」
 吉継の稚拙な気づかいには返事をせず、厚木は横目で隣をチラリと見てから口を開く。

 「山科が腕を振るって待っている」

 「だめです厚木さん、早く行きましょう」

 
 
 山科は、吉継が厚木の別宅で療養をしていたときに身の回りの世話をしてくれた、厚木家の家政婦である。
 吉継に母の記憶はほとんど無いが、母がいたらこんな感じという漠然としたイメージ通りなのだ山科は。母性を感じずにはいられない。あと山科の作るご飯は美味しい。完全に胃袋を掴まれている吉継だ。



 山科の名前を聞いた途端、手のひらを返したような態度を取る吉継に厚木は、案の定といったようすで鼻を鳴らした。





 厚木の家は、今日も意味不明なくらい大きい。
 初めて中に入ったが、家の中も同じだった。わけのわからない調度品がいっぱいある。天井からはジャラジャラした装飾品。
 厚木の家には興味があったのに、壮美なインテリアに感銘を受ける器官がない吉継は、どこかアトラクションにでも迷い込んでしまったかのような気分だった。
 「変な家です…」
 これが吉継に言える精一杯の感想だった。


 

 「蘭さん!」
 「山科さん、おはようございます」
 山科が二人を出迎える。厚木には礼儀的に頭を下げたが、目当てが吉継なのは明白だった。
 吉継も山科に会えて嬉しそうに顔を綻ばせた。
 
 「お久しぶりです。お元気になさっていましたか、聡実さんに聞いても全然教えてくださらないので」
 「厚木さんが?どうしてですか」
 「余計なことを言うな」
 「あらっ、申し訳ありません」

 吉継の問いに答える人はおらず、話が通じ合っている二人を交互に見て、吉継は首を捻るばかりだった。
 






 
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

モルモットの生活

麒麟
BL
ある施設でモルモットとして飼われている僕。 日々あらゆる実験が行われている僕の生活の話です。 痛い実験から気持ち良くなる実験、いろんな実験をしています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...