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レベルアップを目指して
羞恥を越えて… 4
しおりを挟む意味不明なくらい大きな豪邸に車をつけて、インターホンを押す。
遙か先にある玄関まで歩いていくと、ちょうど扉が開いて、スーツ姿の厚木が出てくる。
「おはようございます」
挨拶をして、一緒に遙か先に停めてある車に乗り込む。
後部座席に乗り込み、ノートパソコンを開く。
ときどき誰かと電話する。
厚木は、いつ見ても変わらない。
車の中か、社長室かだけでしていることは一緒だ。
そして、スーツとネクタイの柄は少し違うが、いつも同じスタイル。
朝も、昼も、夜の厚木も見たことがあるが、眠たそうにしていることも、疲れているように見えたこともない。
吉継は、疑問を素直に吐き出した。
「厚木さんはいつ寝ていますか」
「は? 夜だが」
「見たことないです」
「ああ…、まあ、あまり寝なくても平気だ」
「疲れないですか」
「そうだな」
「へえぇ」
最近の吉継は、よく寝てよく食べる。
山科から復帰祝いとしてもらった、ハムとソーセージ、即席みそ汁は、重宝した。もう平らげてしまったが。
そんな吉継からすれば、寝なくてもそれだけ働き続ける厚木など異星人である。
住む世界が違うとは思っていたが、住む星まで違うとは思わなかった。
「厚木さんは変な人です」
「お前に言われてもな」
それきり、厚木はまた仕事をはじめる。
パートナーの会話はそこで終了した。
そう。吉継と厚木は、運転手と社長だが、パートナーなのだ。吉継は、初めてのパートナーにちょっと浮ついている。
パートナーとして初めてプレイをしたのが、一週間ほど前。
吉継には天変地異が起きたくらいの出来事だった。
以前は、痛みと蔑み、侮蔑などが日常だった。
しかし、厚木とのプレイは違った。
最初はひたすら命令が欲しいだけだったので、あまり細かいプレイは覚えていない。
ただ、やけに満たされた。
療法士とのプレイは、幼い頃、こうして褒められたかったのかもしれないと思うような丁寧でわかりやすい褒め方で、吉継の奥底に仕舞っていた幼い心が満たされる。
しかし、もう吉継は大人だ。
療法士とのプレイで満たされるものはあっても、いつもどこか飢えたままだ。
厚木は嫌なDomだ。
必ずしも吉継の欲しいものだけをくれるDomではない。
そこは、今までの”ご主人様”達と同じだが、厚木とのプレイは、不思議なことにちゃんと満たされる。
厚木とのプレイのどこに、そんな魅力があるのかわからない。
痛みはないが、羞恥心は掻き立てられる。
第一性による快楽もセットだ。
厚木の言う”快楽”が、そのままの第一性によるものなのか、Subたがらこそ感じる、”不思議な魅力”なのか。
横柄だが、乱暴ではない。
一応褒めてくれる。
キスをしてくれる。
…たぶん吉継は厚木のキスが好きなのかもしれないと思う。キスだけは厚木とは思えないくらいに優しい。
とはいえ、世間一般のプレイは半年、厚木とはパートナーになってからまだ一回、それ以前でも数回しかプレイしたことがない吉継にはまだまだ難しいことだった。
会社に着いて、車を降りた厚木を見送り、賃貸物件や貸店舗などを紹介する会社へと出社しようとしたが…。
「来い」
と言われて、「?」と思いながらついていく。
社長室の奥に、厚木の仮眠室がある。
仮眠室といってもかなり豪華だが。
そこで「プレイをするが良いか」と確認されて頷く。
厚木から誘われたのは初めてだ。
「”Strip”下着だけでいい」
「あ?」
「早くしないと遅れるぞ」
よくわからないまま、命令に押されて、下着を脱ぐ。
「ズボンを履け」
ズボンを履く。
「あ…」
下着よりズボンのほうが、生地が硬い。
素肌に履くには、違和感が強い。
厚木にズボンの上から尻肉を掴まれ、「わっ」と声を上げる。
「命令が聞けて偉いな、吉継」
よしよしと尻を撫でられても嬉しくない。
「仕事が終わったら、また戻って来い。下着を返してやるから」
「このままですか、どうして…」
「プレイの誘いだと思ったが」
「そんなのしてない…」
「厚木さんはいつ寝ていますか」
「は? 夜だが」
「見たことないです」
寝顔が見たいです。
「ああ…、まあ、あまり寝なくても平気だ」
「疲れないですか」
俺なら癒せるのに。
ということだ。
悪い意訳をしすぎている。
「吉継、お前は療法士とプレイしているが、俺は言われた通り誰ともプレイしていない」
「はっ?」
「俺を満足させてくれ、じゃあ仕事頑張って行って来い」
笑顔で送り出される。
しかも、あの笑顔は悪い方の笑顔だ。
追い出され、慌てて時間を確認する。食い下がっている時間はない。仕方なく車に乗り込む。ムズムズする。
満足って言われても。
厚木の満足って……変態だ。
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