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 「吉継」
 

 スルスルと襖を開く音がする。
 掛布に包まるが、吉継は大きいのでどうしても足がはみ出てしまう。
 ぐずぐず鼻を啜りながら、なんとか足を収めようとする姿が、厚木にどう写っているのか知る由もない。


 厚木がすぐ近くで座った感じがする。

 「でかい図体してお前はすぐに泣く…」
 吉継の頭にあたりをつけて撫でている感触。
 そんな中途半端に優しくされたって…、そう思ったらますます涙がとまらない。
 すすり泣く声が、段々しゃくりあげる声になってきたからか、布団を捲りあげられる。
 抵抗する間もなく布団は捲られた。
 もうどうでもいいと吉継は丸まって泣いている。
 目は真っ赤で、鼻水も出ている。
 まるで子どものような泣き方だが、厚木は何も言わず、手近なシーツを引っ張って吉継の鼻水を拭く。


 「吉継、俺の言い方が悪かった」

 絆されないつもりなのに、厚木の言葉というだけで耳を傾けてしまう。
 「聞いてほしい」
 「…なに…」

 こんなにあっさり開く天の岩屋もないだろう。


 「セーフワードを決めてくれ、でないと怖くてプレイができない」
 「わからない…」
 またぐずぐず泣き出す吉継に、厚木は根気強く声をかける。

 「セーフワードを作ったことが無いからか」
 コクリと頷く。
 そうだ。
 セーフワードの意味も使い方もわからない。
 誰も吉継にセーフワードなんて教えてくれなかった。
 療法士も、嫌な時は”Red”と言ってくださいねと言っただけだ。




 「セーフワードは自分を守るためにある」
 「…」
 なにそれ。
 話が聞けるかと言われて、厚木の膝に頭を乗せる。
 嫌がられなかったので、ぎゅうとお腹に顔を埋めて抱きつく。
 「鼻水を拭くな」
 そうじゃない。
 でも払い除けられず、頭を撫でられた。
 やっと吉継は気を良くして、厚木の話を聞いてもいいと思い、うんと頷く。

 「セーフワードはなんでもいい」
 「あ、”厚木さん”でも…?」
 「プレイ中に言わない単語の方がいいな」
 じゃあ駄目だ。
 プレイ中に厚木を呼ばないなんて考えられない。
 「意にそぐわないプレイを要求されたり、プレイ中に耐えられなくなったときの中断の合図だ」
 「そんなの…ない…わからない…」
 「…自分のラインがわからないか」
 「わからない…」




 「そうか、わかった」
 「あ厚木さん」
 「なんだ」
 「…」
 呆れられてしまったのか。
 自分のことなのに、なんにもわかっていないSubとはプレイできないと言われるのか。
 もういいと言われるのが怖くて、縋りつく。
 しかし厚木は、そうは言わなかった。
 吉継の背中を撫でる。その手は優しい。




 「俺のプレイは、加虐だ」
 「…」
 「痛みと、羞恥と、快楽だ」
 「痛み…」
 「ああ、セーフワードがないプレイはありえない」
 「俺、痛みには強いと思います…」
 「だからセーフワードが…まあいい」
 「…」
 「吉継、ちゃんとプレイしよう」
 「…ホントに?」
 「ああ、今までみたいなお遊びのプレイはしない」
 「うん」
 「お前のラインは、プレイをしながら見極めていくことにする」
 やっと厚木の言質を取った嬉しさで、起き上がって厚木を抱きしめる。
 暑苦しい、と文句を言われたが、払い除けられたりはしなかった。

 「待ちくたびれました」
 「そうだな、悪かった」

 
 厚木も吉継の背中に腕をまわす。

 「大男に泣かれるのがこんなに堪えるとは思わなかったが…」
 厚木が表情を曇らせたことを吉継が見ている筈がなかった。



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