神様はいない Dom/Subユニバース

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 厚木はどれだけ飲んでも平然としていた。
 「前に泊まったときは飲んでなかったですね」
 「旨い酒しか飲まない」
 確かに美味しいお酒だった。
 吉継は、お猪口一杯でふわふわと気持ちよくなってきた。

 目を擦って眠たそうにする吉継に、「早く寝ろ」と言う。
 奥の間に布団が敷かれている。
 
 「厚木さんはまだ寝ませんか」
 「ああ」
 「布団が二組敷いてます。一緒に寝たいです」
 「いいから寝ろ、酔っぱらい」


 厚木はそっけない。
 よたよたしながら、奥の間へ歩いていく。


 「吉継」
 「はい」
 「仕事はなんでも良いって言ったな」
 「言いました。やっと来月から働けます」
 「ふん」
 「おやすみなさい」
 「ああ」
 

 布団に入ろうとして、思い出す。
 厚木ににじり寄る。
 だらしなく足を崩して座る厚木の膝に膝を合わせて正座する。

 「厚木さん」
 「なんだ」
 「免許証が取れました」
 「ああ」
 「教習所に通わせてくれてありがとうございます」
 ペコリと頭を下げる。
 「笠井から聞いたのか」
 そうだ。
 教習所へ通うにあたり、押元の承諾、書類の手配、費用負担にいたるまで、厚木の図らいだと聞いた。
 「厚木さんのおかげです」
 「ははっ、その言わされている感じがいい」
 「俺だって感謝します」
 厚木へのお礼を勧めたのは笠井なので、まあ仕方ないが、筒抜けなのは面白くない。
 からかわれてムッとする吉継に厚木は機嫌がよさそうだった。
 「気にするな」
 





 ふと目が覚めた。
 閉じた襖の隙間から薄く光が入ってきている。
 隣の布団はきれいなままだ。
 何時かはわからないが、厚木はずっと起きていたのだろうか。


 そうっと襖を開く。

 厚木は窓際の座椅子に座り、寝ているのかと思ったが違った。真っ暗な外を眺めていた。
 吉継が動く布擦れの音は静寂によく響いた。
 厚木が気づいて、吉継の方へと視線を向ける。
 
 「まだ寝てろ、朝までは時間がある」

 

 言われてももう眠たくない。
 側に座ると、顎を撫でられた。
 厚木はよく吉継の顎を撫でる。気持ちいいが変な癖だと思う。
 「厚木さんは寝ないですか」
 「俺はいい」


 吉継は、厚木に聞きたいことがあった。
 「厚木さん、どうして俺とプレイしてくれないんですか」
 「そうだな…」
 「俺は療法士とのプレイもちゃんと続けてます」
 「ああ、わかっている」
 理由を教えて欲しいと厚木の顔を見る。
 厚木はしばらくなにかを考えてから言った。

 「俺が欲しかったSubは、都合が良いときにプレイとセックスができて、俺のプレイに耐えられる頑丈な男だ」
 「俺のことだ」
 「そうだな。最初はそのつもりだったが…」
 それだけ言って厚木は黙ってしまった。

 ますます厚木の言っていることがわからない。
 吉継より都合が良くて好きにできるSubはいないように思う。
 サブドロップしないSubなんて、見渡してもそうそういない。
 厚木さえその気になれば、なんでもできるのに…。



 どこか宙を見ていた厚木が、吉継の名前を呼ぶ。

 「セーフワードを作れ」
 「いりません」
 「なぜ」
 「いると思わないです」
 「ならしない」
 「厚木さん」
 「セーフワードが言えないSubはいらない」

 「お、俺はセーフワードはいらないし、作っても言わないと思う」
 療法士とプレイしていてセーフワードがいると思ったことがない。
 あんな温いプレイのどこにセーフワードがいる?
 厚木とのプレイでも思ったことがないのに。
 なのに厚木は冷ややかに言う。

 「そんな危なっかしいSubとはプレイしない」
 「…」
 

 セーフワード。
 そんなに重要に思えない。
 わからない。
 けど、いらないと言われたことは鮮明に頭に入った。

 厚木は、少しでも優しくする分、今までの”ご主人様”よりたちが悪い。
 どうせいらないと言われるのに、中途半端に構われる方の気持ちなんかわからないだろう。


 「厚木さんなんか……もう嫌い…」



 「吉継」
 「知りません」
  
 奥の間で布団に包まる。
 もう厚木なんかどうでもいい。


 でも、そうしたら今度は誰が吉継のDomになってくれる?
 すぐ捨てられるSubを好きになるDomなんか、もうどこを探してもいないのかもしれない。



 
 
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