62 / 114
レベルアップを目指して
ご褒美ください 4
しおりを挟む吉継が起きた時間は、すでに店は閉まっている時間だった。
「もう行けませんか」
厚木と行くのを楽しみにしていたのだ。
「明日だな」
「明日は一緒に行きますか」
「ああ」
ならいい。
「蘭さん、夕ご飯はまだですよね」
笠井に言われて、そういえば食べていないと思い出す。
「はい」
「社長もですよね」
「ああ吉継、何か食べたいものがあるか」
「え…なんでもいいです」
「ふん、いくぞ」
「社長、私は帰っていいですよね」
「ああ」
駐車場には、車が数台停まっていた。
以前も厚木の車には乗せてもらったことがあるので、見覚えのある車の助手席に乗り込もうとしたところを厚木に制止される。
「お前はこっちだ」
運転席…。
「俺が運転するんですか」
「免許証はあるんだろう」
「ありますけど」
「じゃあ問題ない。ナビはついてる」
厚木と一緒に来たのは、門扉の豪華な日本家屋だった。
夜だからということを差し引いても、建物の全貌が見えない。
「ここは何ですか」
「料亭と旅館」
吉継にはよくわからない答えだった。奥から旅館の女将のような人が出てきた。
「厚木さま」
「急にすまない。二人いけるか」
「はい、ご案内させていただきます」
案内された部屋は、掛け軸には名のある水墨画、昔は文豪が執筆に使った部屋とも言われているそうだ。夜でわからないが、景色もすごいのだろう。
女将が丁寧に説明してくれたが、侘びも寂びも理解しない吉継は、だだ広い部屋だとしか思っていない。
「夕食はいつできる」
「三十分くらいでご用意できるかと思います」
「先に風呂をいただく」
「かしこまりました」
厚木と女将の会話を聞くともなしに聞いていた吉継は、お風呂の単語でハッとする。
「山科さんに電話しないと」
ポケットからスマホを取り出す。
「今日は泊まると言っておけ」
「泊まるんですか」
「ああ」
浴室は部屋に添え付けもあるが、少し離れにも大浴場があるということだった。
吉継が添え付けを使うことになった。
「俺はどこでもいいです。厚木さんがこっちでゆっくりしたらいい」
厚木に添え付けの浴室をすすめるが、「またDom酔いしたらどうする」と言われ、人の機微には疎い吉継も、気遣われていることにやっと気づいた。
体を洗って湯船に浸かる。
吉継が足を伸ばせるくらい広い湯船で、お湯の温度もちょうどいい。
よくわからない衝動のまま、厚木に命令を強請っていた。
たまたま知らないDomが、Subを下に見るタイプだっただけで、なにもされていないのに。
確かに今思うと、あれがきっかけだったと思う。
あれがDom酔いなのか。
あれくらいで、心がざわついてしまうなんて思いもよらなかった。
この半年で、いろんなことが変わったことを実感せざるをえない。
安全とか、安心とか、なにかのキャッチフレーズみたいだが、そんなこと今まで知らなかった。
ようやく理解出来るようになって、満たされるという感覚もわかってきた。
でも、だからといって満たされているわけではない。
厚木は、吉継に良くしてくれるが、本当に欲しい命令はくれない。
ときどき、短いプレイをしてくれるだけだ。
厚木が忙しいことはわかっているが、吉継にとっては、生かさず殺さずの生殺しに近い。
吉継の気持ちは伝わっていると思う。なにせ婉曲したり、比喩したり、そんなテクニックはない。いつもストレートに言っている。
厚木にはきっと、吉継ではない満たしてくれるSubがいるのだ。
だからいつも余裕綽々で、夢中になってる吉継をどこか冷静に見ている。
厚木が嫌なDomなのは、重々わかっているのに。
捨てないって言った。
忙しいなか、気にかけてくれているのはわかる。
一緒にいるって言葉も嘘ではないが…。
風呂から上がると、すでに風呂上がりの厚木は用意された食事をつつきながら晩酌していた。
「遅かったな」
「足が伸ばせてゆっくりしました」
「そうか」
厚木の向いに座る。
「酒は飲めるのか」
「少し」
じゃあ少し、と猪口に注いでくれる。
料理は品数は多いのに全部量が少ない。
これでお腹いっぱいになるのか?
2
お気に入りに追加
130
あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
絶対服従執事養成所〜君に届けたいCommand〜
ひきこ
BL
少数のDomが社会を支配する世界。
Subと診断された者にはDomに仕える執事となるため英才教育が施され、衣食住が保証され幸せに暮らす……と言われているのは表向きで、その実態は特殊な措置によりDomに尽くすべき存在に作り変えられる。
Subの少年ルカも執事になるほかなかったが、当然そこには人権など存在しなかった。
やがてボロボロに使い捨てられたルカと、彼のことをずっと気にかけていた青年との初恋と溺愛とすれ違い(ハッピーエンド)。
◆Dom/Subユニバース設定の世界観をお借りしたほぼ独自設定のため、あまり詳しくなくても雰囲気で読んでいただけるかと思います。ハードなSM的描写はありません。
◆直接的な描写はありませんが、受け・攻め どちらも過去にメイン相手以外との関係があります。
◆他サイト掲載作に全話加筆修正しています。
※サブタイトルは試験的に付けており、変更の可能性があります
※表紙画像はフリー素材サイトぴよたそ様よりお借りしています

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます


こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる