神様はいない Dom/Subユニバース

その距離感、すれ違い

今日も怠惰な一日 4

　自宅のマンションから押元の病院まで、約四十分。
　車ならもう少し短縮できる。

　職場も病院に近い方がいい。
　療法士とのプレイを増やせないか相談する。
　欲求不満を少しでも解消したい。


　厚木とは、…あと何回くらい会えるだろう？
　

　つらつら考えている間に、三日は過ぎた。　





　約束の三日目。
　「ただいま」
　「おかえりなさい」
　山科が出迎える。
　「来てくれてたんですか、ありがとうございます」
　「当たり前ですよ、笠井さんもさっきまでいたんですよ」
　「そうだったんですか…」

　もう昼前だ。
　ちゃんと今日帰るって言ったのに、やっぱり心配をかけてしまう。
　どうしたらいいのか…。

　「あ」
　この三日間全く触っていなかったもの。
　スマホである。
　「笠井さんに電話してみます」
　「それがいいですね。できたら次は私にも電話してくださると助かります」
　「山科さんもですか」
　「ええ、毎日ちゃんとご飯を食べているか心配していましたよ」
　「あ、ごめんなさい…」
　「いいんですよ」
　電話すればよかった。
　



　笠井に電話をかける。
　「あ蘭です。ずっと待ってくれたって聞いて…戻りました」
　『わざわざありがとうございます、安心しました』
　「いえ、忙しいのにごめんなさい」
　『とんでもない。社長も気にしていましたよ』
　「ほんとですか」
　『本当です。また電話をなさってみてはいかがでしょうか』
　「…はい。あと笠井さんに相談したいことがあります」
　『ええ、明日伺いますね』
　「ありがとうございます」

　



　

　この三日間、家で考えていたこと、今後の事を笠井に話をする。
　「できるところの協力をお願いします」
　「全面的にサポートさせてください」
　
　仕事は、通院がしやすい職場を紹介して欲しい。
　バレーの選手としては、視力だけでなく実力でも限界を感じていたので、復帰は望んでいない。
　でも趣味のスポーツとしては続けて行きたいので、地域にサークルのようなチームがあれば教えて欲しいとお願いする。
　「わかりました。気兼ねせず任せてください」

　「ありがとうございます。あとは、教習所に通おうと思っています。それで…」　
　「はい」
　「ここから通ってもいいですか。駄目なら、働き始めてから通います」
　「もちろん良いですよ。通勤のために取得するんですか」
　「移動に通勤だけでなくて通院が加わるので、免許があったほうが良いと思いました」
　「わかりました」




　
　「蘭さん、社長にも相談してみましたか」
　「していません」
　「じゃあお電話も…」
　「していません」
　「どうしてですか」
　「…」
　吉継は、もう”厚木だけ”と決めてしまった。
　でも厚木はそうじゃない気がするからだ。　

　「厚木さんにはもう充分いろいろしてもらったので」

　吉継のしたいことも聞いてくれたし、忙しいのに時間を作ってくれたし、眼科にも一緒に行ってくれた。
　吉継のことを優しく触ってくれた。
　”Sub”で普通の生活なんかできないと思っていたのに…

　なので、もういいかと思っている。
　




　「蘭さん」
　「はい」
　「私は社長より蘭さんの味方です」
　「…はぁ…」
　よくわからないが、秘書で右腕で懐刀がそんなことを言っていいのだろうか。

　「ですが、もう少しだけ厚木のこと見捨てないでやってくれませんか」
　「？？」



　逆じゃなくて？？
　と思ったが、ぼんやり口が開いただけで言葉にはならなかった。