49 / 114
その距離感、すれ違い
7
しおりを挟む厚木の退社が早まったので、運転手も早く帰れる。
車二台と運転手二人で厚木を送り、車一台で運転手が二名帰る。
明日は厚木が自分で運転して出社すれば好きな時間でいいと笠井に言われたのだ。
休日らしい休日がない厚木の、実に数ヶ月ぶりの休みだった。
「厚木さん」
吉継が出迎える。
報告通りのはにかみ笑顔だ。
そのまま跪いて靴にキスしようとしたのか舐めようとしたのか…わからないが、襟首を掴んで止めさせる。
「いいこにしていたか」
「はい」
全然”いいこ”では無い。
このあたりのズレを教育しなおさないといけない。
「聡実さん、こんばんは」
「ああ」
今なら湯加減が丁度いいと言われ、先に入浴をする。
ゆっくり風呂に入るのは久しぶりだった。
茶の間に戻ると、吉継が冷たい水を持って来た。
「ありがとう」
「はい」
吉継が山科と夕食の準備をしている。
「聡実さん、今日のご飯は吉継さんのリクエストですよ」
「何だ」
「肉巻きおにぎりです」
吉継が嬉しそうに言う。
「買い物も一緒にしてくれたんですよ」
昨日とは打って変わって歓迎ムードである。
「おまたせしました」
肉巻きおにぎりをメインとした夕食は、美味しいが吉継に合わせてあるので量が多い。
「視力が悪いのか」
「以前より見えにくくなっています」
「明日は眼科に行く」
「はい、…厚木さんも?」
「送ってやる」
「ありがとうございます」
山科は厚木を生暖かい目で見ていた。
厚木の部屋は、吉継が使っている部屋の向かいに用意された。
きれいにベッドメイクされている。
ベッドサイドの引き出しにはご丁寧に、ローションやコンドームが入っている。
用意がいいことだが、どんな顔して揃えたのか。
使用量など、逐一チェックされるのかと思うと寒気がする。
「厚木さん」
「入れ」
「はい…」
ドアが控えめに叩かれた。吉継を中に入れると、借りてきた猫のように大人しく閉めたドアの前で固まっている。
緊張しているらしい。
でかい図体がもじもじして入口を塞ぐ姿は目障りだった。
「こっちにこい」
「はい」
当たり前のように、ベッドに座る厚木の足の間に座った。
顎を掴んで上げさせる。
「厚木さん?」
「療法士にもこんなことしてるのか」
「こんなことって…、してません。療法士さんは、椅子に座るだけで褒めてくれます」
「そうか」
「厚木さんの気にいることがわからないから…」
「…何度も足に跪いていたな」
「嫌ですか」
「ああ、もうするな」
「はい…」
「機嫌を取らなくていい、普通にしてろ」
「……はい」
気にいられようとしていたのか、あからさまに悄気げている。
「普通がわからないか」
「普通なんかわかりません」
口を尖らせている。拗ねた顔を見ながら頭を撫でてやる。
「厚木さん?」
「かわいいな、吉継」
「?」
「気にするな。命令を聞くだけでいい」
「”Kneel”」
「はい」
吉継から、最初にした時のような飢餓感は感じていなかったが、コマンドを聞いた途端、明らかに嬉々としはじめた。
厚木の膝に頬ずりしている。
「”Goodboy” いいこだな、吉継」
「もっとしたい」
「わかってる」
先に、お仕置きをしてからだが。
12
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる