森に響け 〜隠居魔導師が恋人のプラントハンターを猫っ可愛がりする話

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大魔導師、隠居する

心に聞いて 3

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 「また来てくださって嬉しいです」
 「ガァー!」
 「は、はい…」
 来たくて来たというと語弊があるのだが、好みど真ん中の麗人であるマワーと、手乗り竜の可愛いナガに熱烈歓迎されて、リリは何も言えなくなってしまった。怖さなんて感じない、むしろだんだん嬉しくなってきてしまって…。
 「お腹は空いていませんか、ちょうどいい山羊肉が手に入ったところなのです。シチューにしましょう」
 「グァァ」
 ナガがフヨフヨ飛んできて、リリの肩に乗る。
 「ガァ!」
 「…っ」
 かわいい。
 かわいい。
 「ま、また会いたいと思ってました…」
 リリは、完全にその場の空気に飲まれてしまっていた。


 貴族屋敷と山深い景色はいつ見ても壮大だが、そろそろ見慣れてきた。
 マワーは、「お疲れでしょう」と言って、お風呂を用意してくれた。案の定、風呂からあがると服は新品になっていた。パジャマのような服まで用意されていて、リリの服より断然肌触りのいいパジャマに着替えた。テーブルにはすでに温かいシチューや、パン、木の実などが用意されていて、それを目にした途端、リリのお腹は素直に鳴った。
 「ちょうどよかった、たった今できたところですよ」
 「…は、はい…」
 微笑みながらマワーがお皿にシチューを盛り付けてリリの座る席に置いてくれた。
 「ありがとうございます」
 「いいえ、温かいうちに召し上がってください」
 「はい、いただきます」
 「どうぞ」
 山羊肉のシチューは、文句なしに美味しかった。目の前では優雅にシチューを口に運ぶ好みの麗人。天国に迷い込んだのかもしれなかった。綺麗な人は、食べ方まで綺麗だった。好きになったら駄目なのにと頭の隅っこでは思っていても、ついついぼーっと見惚れてしまう。リリの邪な気持ちが入った視線に気づいても、「お口に合いますか?」と、意に介した様子もなく気を遣ってくれる。優しい。
 「美味しいです」
 カッカと赤くなる頬を止められない。マワーが敢えてなのかなんなのか、なにも言わないことが救いだった。

 食後のお茶をいただきながら、リリが街で出会った祭りの様子や、登ったことのある山の話をする。マワーが興味津々で聞いてくれるので、ついいろいろ喋ってしまった。ひとしきり話し終え、全身でリラックスしてから、リリはハッとした。こんなに寛いでいる場合ではない。前回の反省を活かすなら、このままぬくぬくしていてはだめな気がする。このままでは明日の朝にはお弁当を持って送り出されて下山し、またある日ふらっと貴族屋敷に来る羽目になってしまう。慣れたらそれも楽しいのかも知れないが、この不思議なできごとはなにも解決はしない。マワーもお茶を飲んで寛いでいる。ナガは膝の上だ。かわいい。
 いわゆる全面アウェーの状態でこんなこと聞くのも緊張するが、しかし、この現象がなんなのか知りたい。呪いとかの類なら、お祓いがいる。
 「マワーさん」
 「はい」
 「俺はどうしてここに来てしまったのでしょうか」
 リリが先ほどまでの緩みきった顔をおさめていることに気づいたマワーは、すぐには返事をしなかった。
 「そうですね…私たちのせいかもしれません…」
 「え」
 「ガァッ!」
 「あなたがまたここに来てくれたら良いなと思っていました」


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