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大魔導師、隠居する
心に聞いて 1
しおりを挟むリリから羨望の眼差しを受けてマワーは、目をきゅうっと細めた。
銀糸の隙間から覗く流し目の妖艶なことといったら。
そして、妖艶な麗人が言うには。
「あなたはかわいいですね」
「えっ?」
聞き間違いかと思って、思わず聞き返した。
「純粋で、とても、可愛らしいです」
マワーは丁寧に繰り返してくれた。
聞き間違いじゃなかった。
リリは生まれてこの方、両親以外に可愛いといわれたことはない。むさ苦しいとか、デカいとか、ムキムキマッチョだとか、まあ、そういうことはよく言われてきたのだが…。
そう言うマワーは澄んだ美しさを湛えている。
マワーの美しさが、逆に怖い。
”可愛い”は汎用性の高い言葉だ。世の中にはたくさんの”可愛い”があるから、まあ、いいか。怖いものには蓋をしておくに限る。本当は気持ちは嬉しいが、今まで言われてきたことと違いすぎて、俄には信じられそうにもない。
幸い、マワーも掘り下げる気は無いようで安心した。
「ナガは、私を選んでくれた竜の子どもです」
「そうなんですか」
「ええ、私を選んでくれた竜は、ナガを残して亡くなってしまいました…」
「そうでしたか…」
マワーはなにかを見るように遠い目をしていた。亡くなった竜を思い出しているのか。
「竜って、本当はとっても大きい生き物ですよね、ナガはまだ子竜ですか」
「…そうですね。今日はお客さんが来てくれたので、気づいてほしかったのか張り切って大きくなっていますが、普段はとても小さいです」
そう言って、マワーは手のひらを上に向けている。手乗りサイズということだろうか。
「ナガ、それは本当?」
ガアと返事がある。
「ああ…小さいナガ…見たいです…」
マワーのように手のひらを上にしてみる。
そこに小さなナガが乗っているところを想像する。
さっきのように尻尾をピンと上にしているところを。
これこそ”可愛い”だと思う。
想像でふっと笑ってしまったリリが、もう笑ったときにはちょこんと座る手乗り竜がいた。ガァァっという鳴き声まで小さくなっている。
マワーが言うように、気づいて欲しかった場合には適さないサイズだ。
でも、可愛い。
竜ってこんな可愛かったっけ?
「すごい…すごいです…っ!、これも魔導ですか?」
「…いいえ、プッティさん、これはナガの特技です」
「特技、ですか」
リリの言葉に、マワーは大げさにも感じる勢いで頷いた。
「つまみ食いをしたあと私から隠れるために取得した特技です」
「…!!」
「遅くなってしまいましたね、ナガ、プッティさんのお休みの邪魔をしてはいけませんよ」
「あ、いえ、俺も楽しくて…」
「よかったです。おやすみなさい」
「はい」
マワーとナガがいなくなった部屋は広々としている。
しかし、さっき感じたような心細さは感じなかった。
とはいえ、ゆっくり休めるはずもない。
こんなワクワクすることに出会えるなんて、なんて幸運なのだろう。
麗人の魔導師に、手乗り竜…、ワクワクを数えているうちに眠ってしまった。
次の朝。
足は、びっくりするくらい痛くなかった。
試しにぴょんぴょん跳んでみる。痛くない。昨日は、目眩でもしそうなくらい痛くて引き摺って歩いていたのに。マワーはほんとうにすごい魔導師だと再確認した。
朝食までいただき、最初にマワーと出会った場所まできた。
「マワーさん、ありがとうございます、とても助かりました」
なんとお昼ごはんのお土産つきだ。至れり尽くせりである。
「私も久しぶりにお客さんが来てくれたので、嬉しかったです。山を降りたら一度医者に診せてくださいね」
「はい」
マワーの肩にはナガが乗っている。
「ナガもありがとう」
「ガッガァ」
「またいらしてくださいプッティさん、あなたのためなら、いつでも道はひらきますよ」
「…?…はい」
「では、お気をつけて」
「はい」
マワーに背を向けて歩きだす。
振り返ったりはしなかった。別れ際のマワーは、朝の光に照らされた銀糸は透けるように綺麗だったし、名残惜しそうにしてくれて、リリはまだここにいたいと思ってしまった気持ちを振り切ることばかり考えて下山した。
マワーは、また来てくださいと言ってくれたけど、リリはもうここに来るつもりはなかった。気軽に行けるところではないし、なにより、もうたった一晩のことで親切にしてくれたマワーのことがだいぶ好きになってしまっている。
綺麗な思い出のままでいたいというのが、リリの正直な気持ちだ。
そう、だった。はず、なのに。
隣の国にある、ハナハの山で新種を探していたら、そこには見間違うはずもない、あの、貴族屋敷が聳え立っていた…。
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