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大魔導師、隠居する

不思議な森の家 8

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 「あ、…ありがとうございます」
 「ガァ!」
 やっぱり絶妙なタイミングだ。
 だったら…。
 「もしかして、ここに入ったときから……いましたか?」
 「ガァァア!」
 「ああ! すごい、格好いい!」
 やっぱりこの竜は、リリが言っていることがわかっているのだ。
 この家は不思議だ。
 すごく顔の綺麗な魔導師に、世界に一人きりだと思えるような山奥にある貴族が住んでもおかしくないほどの豪華なお屋敷、魔導洗濯、そして人の言葉がわかる竜。どれもがなにも繋がっていないように思えるし、あるべくしてあるようにも見える。リリは、どこかファンタジーの世界に迷い込んでしまったかのような、前後や時間、いろんなものが曖昧になってしまったかのような感覚を覚えた。くらくらして、そして胸が躍る。

 「こんなところで何をしているのですか、ナガ」
 「あ…っ」
 リリの後ろには、マワーが立っていた。
 全く、影も気配も感じなかった。
 「大丈夫ですか」
 見上げると、マワーと目が合う。リリを見つめる綺麗な目が細められて、ドキリとする。
 体を支えられながら立ち上がる。
 「足は痛みませんか」
 「はい、ナガ…?の尻尾が助けてくれたので大丈夫です」
 「…ナガが?」
 ナガがガァガァ鳴いている、機嫌がいい時の猫のように尻尾が上向きだ。マワーがナガに話しかける。
 「ナガ、プッティさんは足に怪我をしているのですよ、驚かせないでください」
 ナガの尻尾がだらんと垂れ下がる。
 「ナガ?」
 「ガゥ」
 リリが呼ぶと、元気な返事がある。
 「…」
 「カボットさん」
 「はい」
 リリは、すごいことを発見したような気持ちで、マワーに話しかける。
 「ナガって、人の言葉がわかるみたいですね」
 「まさか、私はずっとナガといますが、よく聞く音の響きで名前くらいしかわかっていないと思いますよ」
 「あ、そ…そうですよね…」
 なんだかメルヘンなことを言ってしまったと気がついて、恥ずかしい思いをした。でも、なんとなく、いや、かなりの確率で言葉を理解していると思うのだけど。
 ナガはまだ鳴いている。
 「うるさいですよ、ナガ」
 「…」
 リリには会話しているように見えるのに。
 そうではないらしい。
 やっぱり不思議な世界に迷い込んでしまったのかもしれない。
 それでも、リリに不安はなかった。
 マワーはきっと、自分でいうよりも遥かにすごい魔導師だ。
 今までリリは、職業柄いろんな魔導師と関わってきたが、マワーのように摩訶不思議なことをする魔導師には出会ったことがない。
 そのうえ。
 「マワーさんは竜に選ばれた魔導師なのですね」
 マワーへの好意に魔導師としての憧れなど色々が混ざり、リリは、うっとりしたと表情で言った。
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