14 / 18
大魔導師、隠居する
不思議な森の家 8
しおりを挟む「あ、…ありがとうございます」
「ガァ!」
やっぱり絶妙なタイミングだ。
だったら…。
「もしかして、ここに入ったときから……いましたか?」
「ガァァア!」
「ああ! すごい、格好いい!」
やっぱりこの竜は、リリが言っていることがわかっているのだ。
この家は不思議だ。
すごく顔の綺麗な魔導師に、世界に一人きりだと思えるような山奥にある貴族が住んでもおかしくないほどの豪華なお屋敷、魔導洗濯、そして人の言葉がわかる竜。どれもがなにも繋がっていないように思えるし、あるべくしてあるようにも見える。リリは、どこかファンタジーの世界に迷い込んでしまったかのような、前後や時間、いろんなものが曖昧になってしまったかのような感覚を覚えた。くらくらして、そして胸が躍る。
「こんなところで何をしているのですか、ナガ」
「あ…っ」
リリの後ろには、マワーが立っていた。
全く、影も気配も感じなかった。
「大丈夫ですか」
見上げると、マワーと目が合う。リリを見つめる綺麗な目が細められて、ドキリとする。
体を支えられながら立ち上がる。
「足は痛みませんか」
「はい、ナガ…?の尻尾が助けてくれたので大丈夫です」
「…ナガが?」
ナガがガァガァ鳴いている、機嫌がいい時の猫のように尻尾が上向きだ。マワーがナガに話しかける。
「ナガ、プッティさんは足に怪我をしているのですよ、驚かせないでください」
ナガの尻尾がだらんと垂れ下がる。
「ナガ?」
「ガゥ」
リリが呼ぶと、元気な返事がある。
「…」
「カボットさん」
「はい」
リリは、すごいことを発見したような気持ちで、マワーに話しかける。
「ナガって、人の言葉がわかるみたいですね」
「まさか、私はずっとナガといますが、よく聞く音の響きで名前くらいしかわかっていないと思いますよ」
「あ、そ…そうですよね…」
なんだかメルヘンなことを言ってしまったと気がついて、恥ずかしい思いをした。でも、なんとなく、いや、かなりの確率で言葉を理解していると思うのだけど。
ナガはまだ鳴いている。
「うるさいですよ、ナガ」
「…」
リリには会話しているように見えるのに。
そうではないらしい。
やっぱり不思議な世界に迷い込んでしまったのかもしれない。
それでも、リリに不安はなかった。
マワーはきっと、自分でいうよりも遥かにすごい魔導師だ。
今までリリは、職業柄いろんな魔導師と関わってきたが、マワーのように摩訶不思議なことをする魔導師には出会ったことがない。
そのうえ。
「マワーさんは竜に選ばれた魔導師なのですね」
マワーへの好意に魔導師としての憧れなど色々が混ざり、リリは、うっとりしたと表情で言った。
10
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる