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大魔導師、隠居する
不思議な森の家 5
しおりを挟むマワーの家…というか屋敷はバスルームも凄かった。
こんな山奥であたたかいシャワーが使える。
猫脚のバスタブに、清潔な香りがする石鹸。
魔導師というより貴族のようだ。
リリの怪我をしたほうの足は、マワーが魔導で薄い膜を張ってくれたので、水を弾く。湯船に浸かっても平気だ。
肩までお湯に浸かりながら、ここまでのことを思い返す。
マワーはすごい魔導師なのだろう。きっと本人は謙遜するだろうけど。こんな山奥でこれだけ整った環境での暮らしぶりといい、麓を近所のように捉えている感覚といい、思い返すだけで魔導師への憧れが募る。
いや、憧れだけではない。
足を怪我したリリを運んでくれたときに間近でみた綺麗な顔。
食器を渡すときに一瞬だけ触れた指先。
そうっと唇をあててみる。なんだかいけないことをしているような、マワーに申し訳ないような気持ちになってすぐに離して指を湯につけた。
リリは、男の人が好きなのだ。女の人よりも。
それも、マワーのように美しい男の人が。
今まで好きになった人はみんな綺麗な顔をした男の人だった。
でもそんな男の人はみんな、人形みたいに愛らしい女の人のことを好きになって、みんな結ばれていった。
リリのことなんか誰も見ていなかった。
なので、祖父が亡くなってから、すぐにプラントハンターを始めた。一人でできる仕事だし、好みのひとがいないところに行かないといけない気がしたのだ。
幸い体だけは丈夫だ。仕事は順調だった。
リリが生まれた村は、同性が結ばれることは禁忌だったが、同性同士でも当たり前に受け入れている村もあった。
村だけではなく、そんな考えの人たちがたくさんいる街もあった。そこでリリは、目から鱗が落ちるような思いで、夢を見るみたいに、やっぱり綺麗で優しい男の人を好きになってしまって、気持ちを告げたけど、受け入れてくれなかった。
リリみたいに体の大きな男は対象外らしい。
このことで、リリはめっきり自分に自信を無くしてしまったのだ。
マワーは、綺麗な男の人で、なにより魔導師だ。存在からしてリリの好みのど真ん中だ。今まで人をうまく避けてきたのに、たまたま出会った人がこんなに好みなんて、物語だけにして欲しい。神様は意地悪だ。
そんなどこか浮ついた気持ちを持ちながらも、リリはちゃんとわかっているのだ。綺麗な男の人はみんなリリのことは対象外だ。
リリがはじめて気持ちを告げた人は、すごくびっくりした表情をしてから、気の毒そうな顔でこっちを見て、それから迷惑そうに対象外と言った。リリの告白で綺麗な顔を歪ませてしまって、悲しくなったのを覚えている。
マワーは親切な魔導師だ。
あの人のような顔をさせてはいけない。
明日にはお別れして、麓の村で手当を受けるために下山する。
麓からここまでは、また来たいとは思わないくらい時間もかかるだろう。
親切な魔導師に助けてもらった記憶を頭の隅に置いて、またエイテルを探しにいくのだ。
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