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大魔導師、隠居する
不思議な森の家 4
しおりを挟むマワー・カボットと名乗った麗人は、領主ではなく、魔導師だった。
リリは、子どもの頃読んだ絵本を思い出す。
稀代の天才魔導師といわれたマワー・カボットと同じ名前だ。
思わず、「天才魔導師のマワー・カボットさんと同じ名前なんですね」と、言った。
途端にマワーは端正な顔を嫌そうなに引き攣らせた。
「昔はよくからかわれました」
「そうですか」
「同じ魔導師ですから余計に」
「はは」
目に浮かぶようだ。
マワーは本当に困っているといった表情で、リリはあまりこの話題は良くないかもしれないと思い、話を変える。
「でも、カボットさんのおかげで痛みは取れました」
「私が天才魔導師なら、完治して差しあげられたのですが…」
「えっ、そんな、俺は魔導の才能はないから羨ましいです」
「魔導に興味がお有りですか」
「はい。子どものころは魔導師になりたくて、検査で魔導力がないことがわかって泣く泣く諦めたというか、諦めるしかなかったのですが…」
魔導師は諦めたが、魔導と関わっていたくて、魔導植物の新種や希少品種の種苗を探すプラントハンターになった。10歳のころ、唯一の肉親だった祖父が無くなり、悲しさと寂しさを紛らわせるために始めた仕事でもある。
「そうだったのですか」
「はい、なので、ここの畑を見た時は驚きました」
少しの野菜以外はみんな魔導に使う植物だったからだ。
しかも種類も豊富で、生育も揃っていた。芸術のように綺麗な畑だったのだ。
「一度には使いきれませんから、乾燥させたり、麓の直売所へ卸したりしているのです」
「では、この植物も魔導用ですか」
部屋の隅に置かれた器に植えられている植物のほうを見る。
「…ええ、古代種ですが、あまり魔導には向いていません。今はもっと魔導を通しやすい植物がたくさんありますから。これはただのインテリアです」
「そうでしたか」
「ええ」
それからマワーは、夕食を用意してくれた。
兎の肉をハーブで焼いたものと、野菜のスープ、小麦を練って焼いたものに、チーズが少し。りりには贅沢すぎる食卓だった。
片付けをしようと立ち上がる。
「あ、そのままで良いですよ」
マワーがリリの席まで周って来て、リリから食器をさり気なく取り上げる。その時に少し指が触れて、リリはびっくりして手を引いた。
「でも…、なにか手伝わせてもらわないと」
言いながら、マワーに触れた手を反対の手で隠すように重ねる。
「気にしないでください。どうぞ、あちらにお湯も用意していますので」
マワーは特に気にした様子もなく、リリに入浴をすすめてくれる。
手際の良いマワーを見ていると、リリができることはなさそうだと諦めた。お客が中途半端に出張ってしまっても、気を悪くさせかねない。お言葉に甘えて入浴させてもらうことにした。
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