9 / 18
大魔導師、隠居する
不思議な森の家 3
しおりを挟む「腫れていますね、熱感もあります」
「うわぁ…」
ブーツの紐を解き、ズボンを捲って改めて足首を見ると一回りか二回りくらい大きくなっていた。痛いのも納得の腫れだった。ずくずくと疼くような痛みがあった。男がリリの足首に手をあてた。
「折れてはいないみたいなので、これで大丈夫でしょう」
そう言って、カゴに入った薬草を数種類取り出した。薬草は瑞々しく、畑に植わっていたものと同じものがもあった。畑には、普通の野菜が少しあったがほとんどは魔導に使う薬草だった。
男が手にしているものは魔導用の薬草だった。ということは…。
「あなたは魔導師…ですか」
「…ええ、痛みが少しマシになる程度だけどね」
「はい、助かります。ありがとうございます」
こんなところで憧れの魔導師に会えるなんて。
さらに魔導の治癒を体感できるなんて。
足の痛さも忘れそうなくらい、ワクワクしていた。リリは子どものころ魔導師になりたかったのだ。適性検査で魔力の欠片もないと判断されるまでは。胸が擽られる。
男は腫れて熱を持った足首の上に薬草を置いた。その上に手が置かれたが、少し骨ばっていて、すんなり伸びた白く透明な手にリリは思わずドキドキしてしまった。
仄かに優しい温かさを感じた。すーっと痛みが引いていく。
「痛くないです…」
すごい。
「痛みを和らげましたが、完治したわけではありません。安静にしてください」
男は、手早くリリの足を固定しながら言った。
「これでゆっくりなら歩くくらいはできると思いますよ」
「はい」
立ってみる。痛くない。
「すごいです…!」
「痛みはほとんどないと思いますが無茶はしないでくださいね」
「はい」
頬を染めたリリの羨望の眼差しを笑顔で受け止め、男は立ち上がり、奥へと歩いて行った。
「こちらへどうぞ」
「はい。ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして」
たくさん扉があるうちの一室に案内された。
その部屋の端には大きな器に土が入っていて、見たことがない植物が植えられていた。
花は咲いていない。リリが探しているエイテルに似ているが、葉の形が微妙に違う。なんという植物だろう。魔導に使うのだろうか。
男が疲労に良いと言われるお茶を淹れてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます。あの、自己紹介が遅くなってしまいまさたが、俺はリリ・プッティといいます」
「気にしなくていいですよ、私はマワー・カボットです」
「よろしくおねがいします」
10
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
転生者は隠しボス
アロカルネ
BL
魔法と科学が同時に発展した世界があった。
発展し続ける対極のものに、二つの勢力が生まれたのは必定だったのかもしれない。
やがて、発展した魔法こそが覇権を握るべきと謳う者たちの中から魔王が産まれ
科学こそが覇権を握るべきだという人間たちの間で勇者が産まれ
二つの強大な存在は覇権を握り合うために争いを繰り広げていく。
そして、それはこんな世界とはある意味で全く無関係に
のほほんと生きてきた引き籠もり全開の隠しボスであり、メタい思考な無口な少年の話
注意NLもあるよ。基本はBLだけど
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
魔術師の卵は憧れの騎士に告白したい
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
魔術学院に通うクーノは小さい頃助けてくれた騎士ザイハムに恋をしている。毎年バレンタインの日にチョコを渡しているものの、ザイハムは「いまだにお礼なんて律儀な子だな」としか思っていない。ザイハムの弟で重度のブラコンでもあるファルスの邪魔を躱しながら、今年は別の想いも胸にチョコを渡そうと考えるクーノだが……。
[名家の騎士×魔術師の卵 / BL]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる