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大魔導師、隠居する
不思議な森の家 1
しおりを挟む右足首がズキズキする。
昨夜の雨で足場が泥濘んでいた。
気をつけて歩いていたが、腰まで伸びていた草で足場がはっきり見えていなかった。
傾斜地だったとこもあり、ツルッと滑ってしまい、踏ん張ったものの変な角度だったために、盛大に足を挫いてしまった。
「まずい…」
こんなことになるとは。
足首を庇って歩いているが、一歩ごとに痛みが酷くなっている。とにかくどこか休める場所へ……。そうちょうどよく休める場所など見当たらない。傾きかけた日を感じ、野宿慣れしている身でも、痛みに気弱になってしまう。
リリは、エイテルという花の球根を探している。
エイテルという花の葉は、普段はよくある雑草の顔をしていて見分けがつきにくい。しかし、充分な水を蓄えることができる雨のあとには、月夜にてらされて花が咲く。
暑い季節から、今のように涼しく移っていくこの時期、夜だけに咲く花。神秘的な花は、魔力も宿る。強い魔導師を抱える王族や貴族たちの需要が高いにも関わらず、供給は追いついていない。なぜなら、皆、仲良く株分けなどは決してしないからだ。
リリのようなプラントハンターから買い付けるか、魔導師が自ら探し出すかだが、見つかるかわからないものに魔力を消費することはあまり賢いことではない。魔力は有限だからだ。有限ゆえ使いどころは慎重に見極める。
森深い山道で日も届きにくいなか、のろのろ進んでいたが、遠くで一点の光が見える。
森を抜ける。
リリは痛む足を引きずりながら、光に向かって歩いていった。普段なら数分もあれば歩けるだろう距離を長い時間をかけて歩いていく。
ついに光にたどり着いた。
そこは、大きな畑だった。野菜やハーブなどがきれいに区分けされて植えられている。生育もきれいに揃っている。美しい景観だった。
リリは一時足の痛みも忘れて、畑に見入っていた。
すると、畑の奥にある小屋から人が出てきた。
畑の持ち主だろうか。この芸術のような景観を作った人を一目見たいとじいっと目を凝らした。
こちらに近づいてくる。若い男だ。肌の色は白く、日に晒されたことはなさそうだ。きめも細かい。さらに美しい白銀髪が、男が歩くに揺られている。細身の体を引き立たせるように体に沿った服を纏っており、まるで貴族のよう。
おおよそ農耕から程遠い風貌。このあたりの領主かも知れない。男の動きはゆったりとしていて優雅だが、表情は驚きに満ちていた。
リリは身を固くして言った。不審者ではないことを示さなければ。
「すみません、きれいな畑に見とれてしまいました」
最初の言葉としてはあまり適切ではなかったが、リリの心は植物に囚われていた。
「きみは…」
「私は旅人なのですが、ぬかるみに足を滑らせてしまい、怪我を負ってしまいました。一夜泊めていただけないでしょうか」
リリの言葉に男は、目線を下げて庇っている足を見ながら口を開く。
「…そうですか、その足では不便でしょう、一夜の宿をお貸しいたしましょう」
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