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プラントハンター、通い妻する。
恋人が可愛くて、今日も人生が楽しい
しおりを挟むマワー・カボットの朝は早い。
日が登らぬうちから畑へ行く。
朝ごはんは、起きてすぐには食べられないので、いつも畑仕事から戻ってから食べることにしている。
今日は、一ヶ月ぶりに恋人が来ることもあって、朝からウキウキしていた。
無表情だが。
畑は、一つを二つの用途に区切って管理している。マワーが食べていけるだけのものを植える区画と、魔導に必要な植物を育てる区画。
どちらもたいして広くないので、管理は比較的楽だ。
というのもマワーは、いわゆる魔導師であるので、水やりは畑から葉を一枚千切ってモニャモニャ呪文を唱えると、大気中の水分をかき集めた雨雲が生まれて、畑に雨が降る。
所要時間約二分。
畑までの道のり約五分。
当然、病害虫の防除についてもモニャモニャ唱えているので、まあ、そういうことである。
ストックしている野菜はまだあるが、なんといっても今日は恋人の訪問が控えている。
新鮮な野菜でおもてなしがしたい。
手ずから収穫を始める。
ついでに、山で自生しているきのこを収穫する。
クランベリーに栗、キウイフルーツ。
野鳥や野生動物がまだ食べていないところを少しいただいて帰る。
朝ごはんの用意をしていると、知ったケモノの鳴き声と、ザクザク山道を歩く足音。
コンコン。
ドアを叩く音に、「マワーさん」と呼ぶ声。
慌てて濡れた手を拭いて玄関へ。
「どうぞ」
ドアを明けると、人が良さそうで見上げるくらい体格のよい青年と、肩乗り竜。
「…起きてましたか?」
「もちろん。私は朝が早いんだよ」
「ガァ」
部屋に招き入れると同時に、グゥーっと腹の音が鳴った。もちろん大男のである。
「すみません…、いい匂いがしていると思ったらつい…」
頬を染めて言い訳する大男は、可愛い以外に言い表す言葉がない。
「あなたのために作ったんだから、早く食べて」
甲斐甲斐しく、今朝収穫した野菜やきのこを蒸して味付けをしたものと、パンをお皿に盛り付ける。
お椀にはスープを。
ついでに竜にも。
「いい匂い」
「どうぞ、召し上がって」
美味しい、美味しいと言いながら大口を開けて豪快に食べる姿を眺めていると癒やされる。
豪快に食べる大男は、名前をリリ・プッティという。名前は体を表すとはよく言ったもので、彼の名前は”白いすずらん”という意味である。
大口を開けて、豪快にパンを咀嚼していても、マワーというフィルターを通してみれば、リリは可憐なすずらんだ。
マワーが口説いて口説いて口説き落とした恋人。
当然、最初は胡散臭い目で見られたものだが、次第に打ち解け、ついに恋人の座を勝ち取ったのだ。
リリは、マワーより一回り体の大きな青年であるが、中身は可愛い。
なんといっても20歳と若い。
若い人と触れ合うと若返るらしい。気持ち的に。
「リリ、今回の滞在はどれくらいかな?」
「三日くらい」
「たったの三日…」
「そんなこと言っても、まだ暖かいし…」
「はいはいわかっています」
そう言って、寒くなっても、寒さに強い植物を探しに出かけるのだ。
待つことしかできないこの身をもどかしく思うマワーだ。
わかりやすくむくれた恋人に、リリがあからさまなご機嫌取りをするため、薔薇の花を一輪カバンから取り出して渡すまでもう少し。
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