上 下
3 / 18
プラントハンター、通い妻する。

恋人が可愛くて、今日も人生が楽しい

しおりを挟む


 マワー・カボットの朝は早い。
 日が登らぬうちから畑へ行く。

 朝ごはんは、起きてすぐには食べられないので、いつも畑仕事から戻ってから食べることにしている。

 今日は、一ヶ月ぶりに恋人が来ることもあって、朝からウキウキしていた。

 無表情だが。

 畑は、一つを二つの用途に区切って管理している。マワーが食べていけるだけのものを植える区画と、魔導に必要な植物を育てる区画。
 どちらもたいして広くないので、管理は比較的楽だ。
 というのもマワーは、いわゆる魔導師であるので、水やりは畑から葉を一枚千切ってモニャモニャ呪文を唱えると、大気中の水分をかき集めた雨雲が生まれて、畑に雨が降る。
 所要時間約二分。
 畑までの道のり約五分。
 当然、病害虫の防除についてもモニャモニャ唱えているので、まあ、そういうことである。

 ストックしている野菜はまだあるが、なんといっても今日は恋人の訪問が控えている。
 新鮮な野菜でおもてなしがしたい。
 手ずから収穫を始める。

 ついでに、山で自生しているきのこを収穫する。
 クランベリーに栗、キウイフルーツ。
 野鳥や野生動物がまだ食べていないところを少しいただいて帰る。



 
 朝ごはんの用意をしていると、知ったケモノの鳴き声と、ザクザク山道を歩く足音。
 コンコン。
 ドアを叩く音に、「マワーさん」と呼ぶ声。


 慌てて濡れた手を拭いて玄関へ。
 「どうぞ」
 ドアを明けると、人が良さそうで見上げるくらい体格のよい青年と、肩乗り竜。

 「…起きてましたか?」
 「もちろん。私は朝が早いんだよ」
 「ガァ」


 
 部屋に招き入れると同時に、グゥーっと腹の音が鳴った。もちろん大男のである。
 「すみません…、いい匂いがしていると思ったらつい…」
 頬を染めて言い訳する大男は、可愛い以外に言い表す言葉がない。
 「あなたのために作ったんだから、早く食べて」
 甲斐甲斐しく、今朝収穫した野菜やきのこを蒸して味付けをしたものと、パンをお皿に盛り付ける。
 お椀にはスープを。
 ついでに竜にも。

 「いい匂い」
 「どうぞ、召し上がって」

 
 美味しい、美味しいと言いながら大口を開けて豪快に食べる姿を眺めていると癒やされる。



 豪快に食べる大男は、名前をリリ・プッティという。名前は体を表すとはよく言ったもので、彼の名前は”白いすずらん”という意味である。

 大口を開けて、豪快にパンを咀嚼していても、マワーというフィルターを通してみれば、リリは可憐なすずらんだ。

 マワーが口説いて口説いて口説き落とした恋人。
 当然、最初は胡散臭い目で見られたものだが、次第に打ち解け、ついに恋人の座を勝ち取ったのだ。
 リリは、マワーより一回り体の大きな青年であるが、中身は可愛い。
 
 なんといっても20歳と若い。
 若い人と触れ合うと若返るらしい。気持ち的に。


 「リリ、今回の滞在はどれくらいかな?」
 「三日くらい」
 「たったの三日…」
 「そんなこと言っても、まだ暖かいし…」
 「はいはいわかっています」

 そう言って、寒くなっても、寒さに強い植物を探しに出かけるのだ。
 待つことしかできないこの身をもどかしく思うマワーだ。


 わかりやすくむくれた恋人に、リリがあからさまなご機嫌取りをするため、薔薇の花を一輪カバンから取り出して渡すまでもう少し。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

処理中です...