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溺愛BL 〜外交のため人質として連れてこられた第一王子が皇太子様と騎士団長様に見初められて幸せになるまでの軌跡〜
寝室
しおりを挟むクングニル皇太子の寝室に呼ばれて、世話役のクァラと一緒に寝室へ行くと、扉の前には護衛の騎士が二人立っていた。
「皇太子様に呼ばれてリゲル様が参りました」
「しばし待て」
騎士の一人が中に入り、しばらくすると「リドル様だけ入室を」と言われた。
「それではリゲル様」
クァラが頭を下げる。一人で皇太子のところに行くのは心細い。クングニル皇太子様のお姿…、神々しくて、美しくて、大陸を総べようとなさるお方…、お姿だけでパシモンティアがどれほど兵を積んでも無駄だろうとわかる。父王のご判断は正しかった…。
リゲルを送りどけたらクァラはどこへ行くのだろう。ほんとうは今すぐにでも帰りたい。クァラの腕を掴むと、その上に手をそっと重ねられる。
「リゲル様…、私はここで待っていますから大丈夫ですよ」
「…」
その言葉を聞いて、なけなしの決心がついた。うんと頷くと、クァラもホッとしたようだった。
後ろ髪を引かれながら中に入る。
長い廊下を歩き、その先にもう一つ扉があった。
また護衛の騎士が二人立っている。
「リゲル様をお連れしました」
「ご苦労」
一礼をして騎士が去っていく。
「皇太子様は、リゲル様がノックをしてそのまま入っていいとおっしゃっています」
そう言われて、緊張しながら扉をノックする。
「入れ」
すぐに返事が返ってきて、扉の脇に立っていた騎士が大きな扉を開ける。リゲル一人では易々と開きそうもない厚くて重そうな扉を通ると、そこは短い通路があり、ゆっくりと進んでいく。
通路を抜けると、広々とした空間に綺羅びやかな調度品が配置されていた。
「リゲル、来たか」
「…!」
覚えのある声が聞えて、声の方をみると、大きなカウチソファに男性が二人、くつろいた様子で座っていた。一人が立ち上がり、リゲルの方へ歩いてくる。大股で歩いてくる姿は、服こそ違えど見間違うはずもない。
アヴェリーさま!
体の大きなアヴェリーと並ぶと、小柄なリゲルは益々小さく見えてしまう。
「待ちくたびれたぞ、元気にしていたか」
「…!」
そう言って、脇に手を入れて持ち上げられ、抱きかかえられる。
アヴェリーに会いたかったリゲルは、純粋に再会を喜んだ。
元気でした!一人で過ごすことには慣れていますが、アヴェリーさまの事を考えていました。もうお会いすることは無いかも知れないと思っていたので、お会いできて嬉しいです。声は出ないが、口をパクパクさせて一生懸命話しかける。アヴェリーも嬉しそうにしているリゲルを見て満足そうにしている。
しかし、はたと思い至る。ここは、クングニル皇太子の寝室のはずだ。どうしてアヴェリーがここにいるのだろう、とリゲルが疑問に思っていると、もう一人こちらを見ている男性がいた。肌は白く、髪の色も薄い。儚く頼りない、見る人を守ってあげたいような気持ちにさせる。そして、印象的なものは、目の色だ。アヴェリーに抱かれたリゲルからは目を伏せて見えるが、覗く色は紅い。その紅い目がゆっくり動いて、リゲルを捉えた。
あ、この人は…。
アヴェリーを初めて見た時も、目の強さや圧など逆らえないものを感じたが、彼の場合は、畏怖だ。跪いて許しを請いたい。もうどうにでもしてくれていいから…と。目の動きひとつでこんな気持ちになる人がいるなんて、信じられなかった。父王も賢王だ。他の人とは違うものを感じていたが、この人は違う。儚い見た目からは想像できない、アヴェリーの武力からくる強さとは根本的に違う、心を支配することができる強さ。きっと彼が大陸を総べる王となるだろう…。
リゲルがアヴェリーの服を掴んで、確信的な予感に慄えていると、雪解けを誘うような熱のある声がした。
「アヴェリー、紹介はまだか」
「ああ、すまない。…ほら」
「…」
アヴェリーがリゲルを柔らかい絨毯の上に下ろした。
リゲルには彼が誰だかわかる。知らしめられたのだ。自分の体がとんでもなく重いものに感じて膝から崩れるようにへたり込む。
「…」
「おいおい、兄さんの美しさに腰を抜かしたのか」
からかうような声色。
「どうかわからないぞ、話せないのだろう。アヴェリー、彼をこちらに」
「わかった」
リゲルはアヴェリーに脇から手を入れられて立たされたが、力が入らず、アヴェリーにしがみついた。そしてまたも抱えられ、ソファに座らせられた。隣にアヴェリーが座る。麗人と騎士に挟まれることになったリゲルは、ドキドキする胸を押さえながら、彼の人を見上げる。
「名は、リゲル・パシモンティア・トリスで合っているか」
麗人に問われ、そうですと頷きたいが、リゲルはもう、ただのリゲル・トリスだ。
国の名前は背負えない。
首を振って答える。
「ふむ…素直だな、ではリゲル・トリスか」
コクリと頷く。
「私の名は、…もう名乗らずともよいな」
「クングニル・バストチネバラ・ジーク、この国の…いや、世界の王となられる方だ」
「…皇太子だ」
「心痛いが父王は長くない、兄さんが王だ」
後ろから抱えられ、固いものに座らせられる。アヴェリーの膝の上だった。アヴェリーを見上げると、クングニルを見つめ、声は強く揺るぎのない自信に満ちていた。
「そして、俺の兄だ」
「似ていないだろう?」
クングニルとアヴェリーを交互に見るリゲルに、そう言うのはクングニルだ。
この世のものとは思えないくらい神々しく、性を超えた美しさを持つクングニルと、強さの象徴ともいうべき逞しい体躯に、相応しい精悍な顔をしたアヴェリー。見た目はまったくない似ていない二人だが、持つ雰囲気は似ている。人の上に立つ者だけが持つ風格だ。
「…!」
大きな手がもぞりと動く。
「王族の寝室に呼ばれることがどういうことかわかっているだろう」
アヴェリーがリゲルの体をなぞり描くように触れていく。
「リゲルはいい声で鳴く」
「ほう、聞かせてみろ」
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