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はじめましておにいさん8
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あーあ
でも、義母もグルだったとしたら……私たちが何を言っても無駄だよね、でもおにいさんを誘うって事は、私だけを仲間はずれにしたかったのかな?狙いがよくわからないよ、やっぱりおにいさんの実家に行くっていうのは正解なのかもしれない、おにいさんは家族になんて説明するんだろう、ありのままを話すのかな?でもちゃんと話さないとフェイクを入れてもバレるよね……
「みずき、また怖い顔してる……笑って?そんな顔見たくないよ」
いつの間にかおにいさんが目の前いる
「えっ……あっ……ごめんなさい……」
「もーみずきは……すぐ考え込むんだね?大丈夫だよ、何があってもおれが守るよ」
また、おにいさんに抱きしめられる
ああ、弱いなあ……
私……
抱きしめられると大丈夫なような気がしてきてしまう……
あったかいし、柔らかいし……
旦那の時はこんな事、感じた事もなかったのになんでおにいさんには……
心の底から旦那の事愛してたはずなのにそれは偽りだったのかな?自分の気持ちに嘘を付いてたのかな……
「おにいさんは、本当におねえさんの事愛してましたか?」
私はおにいさんの胸に顔をうずめながら目を閉じて聞いた
「えっ?今聞くか……おれは愛してたつもりだ、それがあいつに伝わっていたどうかはおれにはわからないけど……なんでそんな事聞くんだ?」
おにいさんは私の髪を優しく触る
なんだかくすぐったい
「うーん、なんだろう今こんな事になって今まで旦那と夫婦としてなにをしてきたんだろうって考えてたら、もしかして私、旦那の事愛してなかったのかなって……」
「みずき……今は頭が混乱してるんだから、あんまり深く考えなくていいさ、今までのみずきもこれからのみずきもなにも間違えてなんかいない、間違えなんてないんだから」
「おにいさん……私……昨日の事で、今までやってきた事が全部無駄だったんじゃないかって……なんだか悔しくて……」
「わかる、わかるよ、大丈夫だから」
おにいさんは私の肩を優しく押して、おにいさんから離す
「さぁ?そろそろ出ようか?ここで2人でいるのも悪くないけどな」
おにいさんは笑っている
後ろばっかり見てるんだな、私は……
おにいさんは、私の事も考えて前を見てるんだ、やっぱりすごいな……歳上だからとかじゃなくておにいさんの性格とかなのかな?私も早く前を見られるようになりたいな……
「さあー行こう?早くしないと置いて行くよ?」
いたずらっぽく微笑んでいる、おにいさんは可愛い、おにいさんは部屋にある電話でどこかに電話をしている、なにを言ってるいるのかは聞こえてこない
「いいよ、さぁ部屋を出よう」
私の手を引いておにいさんは入り口の方へと歩いて行く、靴を履いてドアを開けて昨日乗ったエレベーターに乗り一階へと降りる、入ってきたのと反対の方へとおにいさんに引っ張られて連れて行かれる、小さな窓のようなものがあらわれて小さな机のようなものがくっついていてそこには会計口というプラカードが置かれていた、おにいさんはいつの間にか持ってきていた部屋の鍵を無言でその窓のの中に置く、中から人の気配がしてレシートのようなものが置かれた、私の手を離すとおにいさんはお財布から何枚かお札を出すとレシートのようなものの上に置くと中から人の手が出てきて中へと持って行く、しばらくしてありがとうございましたというこもった声が聞こえて、おにいさんは私の手を再び握るとその場を離れてそのまま進むと出口が見えて外に出た、もう外はすっかり陽が昇っていて明るくてしばらく目を開けられなくておにいさんの手を強く握った
「うわぁーまぶしいなぁ……でも外っていいなぁ、なんだか心が明るくなるな」
本当だぁ……なんか太陽の光を浴びると少し元気になれるような気がする
「あっ、いけねえ、タクシー呼ばないとな」
そう言うとおにいさんは、スマホで電話をかけはじめた、しばらく電話で話しながら歩くとコンビニが見えて、おにいさんは私の手を出し話して先に入ってなとジェスチャーで伝えてきたので1人で先に入り、飲み物でも買おうと飲み物のケースの前でなにを飲もうかしばらく考えていると、おにいさんが隣に歩いて来た
「なにか買う?タクシー呼んだから10分ぐらいで来られるって、なにか買うならおれが払うからな?」
「はい、飲み物でも買おうかなって……なにからなにまですいません……そんな、いいですよお金ぐらい自分で払えますから!!」
「もーみずきはわかってないな……こども扱いしてる訳じゃなくて、女の人にお金を払わせるのはおれがイヤなんだよ、な?いいだろ?」
「でっ、でも……さっきのホテルのお金もおにいさんに払ってもらっちゃったし負担になりたくないんです!!私」
少し声を荒げてしまったせいか、近くにいた他のお客さんがチラチラと私たちの方を見ている
やっちゃったよ……
ホテル代とかおにいさんとか……
大きい声で言ってはいけないワードばかりだ……
おにいさんは飲み物を適当に選ぶと私の手を引いてレジへと向かいお会計を済ませてコンビニの外へと出た、おにいさんはピクピクと体を震わせていた
「おっ、おにいさん?どうしたんですか?」
あはははっ……!!
おにいさんは大きな声で笑い出した
おにいさんがそんなに笑うって事はまたわたし何かやらかしたのかな?
おにいさんは目の前に立つと、私の頭をぽんぽんと叩いた
「なあ?みずき……あんな事言うからみんなみずきの事見てたぞ?まったく……昼ドラじゃないんだから勘弁してくれよ?」
やっぱり……
昼ドラみたいってみんな思ったよね……
昼ドラってあんまり見た事はないけど、三角関係とか略奪愛とか、なんかドロドロしたような大人の女性向けのドラマだよね……
「すっ、すいません……つい……」
私は頭を下げておにいさんに謝る、また頭をぽんぽんと叩かれて顔を上げるとおにいさんは微笑んでいた、笑ってる?なんで?一緒にいたんだからおにいさんもみんなに良くない目でみられちゃったのに……
「いいんだよ、別に他の奴らに昼ドラみたいって思われたっておれは平気だ、まあ見方によれば昼ドラのようなもんだろ?」
まあ確かにそうだ、私たちは一緒にホテルに行って一緒に出てきたんだもんその辺の安っぽい昼ドラでもやってそうな定番のエピソードなのかもしれない
「あっ、そうだ、おれの実家に行くなら久しぶりに帰るし、なんか適当にコンビニで何か買ってくるよ」
「えっ?コンビニなんかで大丈夫なんですか?ちゃんとしたものの方が……」
「なぁ?今どうゆう状況かわかってるだろ?わざわざ高くていい物なんか買って行ったら変だと思われるだろ?」
まあ確かにそうだ
まるで前から準備してましたそうろうはこの状況では変だよね
「そっそうですね、ごめんなさい……ついついいつも通りにしようとしてしまって……というか、私も一緒に行きますよ?」
「何言ってんだ?まださっきの人たちコンビニの中からこっちの事見てるんだぜ?みずきは多分耐えられないだろ?」
私の右手を握ると私の目線の高さまで手を上げて私の目をまっすぐに見ながら手の甲にキスをしておにいさんはコンビニの方へと歩いて言った
うそっ……なんであんな事……
心臓がバクバクする!!
もう怖くてコンビニの方を見る事が出来ない、私は平静を装う為にスマホの画面を付けて操作をしているように振る舞った、きっと誰も私の事なんて見てないかもしれないけど恥ずかしすぎるよ……
そんなお姫様とかじゃないんだから、急に手の甲にキスとかされたら動揺しちゃうよ……
おにいさんの馬鹿……
うまいようにおにいさんに転がされてるよね……私……
それでもやっぱり悪い気はしない
はぁ……私ってダメな女なのかも……
しばらくぽーっとしながらスマホの画面を見ながら立ち尽くしていると、誰かに肩を叩かれた、おにいさん戻って来たんだろ、私はスマホの画面を消して振り返った
そこにいたのはおにいさんじゃなくて知らない男の人がいた……
私は凍りついたように動けなくなる
怖い……この人誰?
「ねえ?きみってここら辺に住んでるの?俺さあ……道がわからなくて困ってるんだよね……」
そういうと男の人は私のとなりに立つと肩をガッ!!と掴んできた
「ねぇ?道がわからないなんて嘘っぱち……きみに声をかけるための口実……」
耳元で囁くように喋る
おにいさんなら気持ちいいのに、この誰か知らない人に耳元で囁かれたら、体が強張って動けない声も出せない……
「ねえ?何か言ってよ?よかったじゃん、俺みたいにイケメンにナンパされるなんてきみラッキーだよ?」
そう言いながら私の髪を指でくるくると巻いている
気持ち悪い……
怖いよ……
おにいさん早く戻ってきて!!
瞼を閉じて時間が過ぎるのを待つ……
突然
ゔぅぅ……と痛みをこらえているような声が聞こえてきて、私の肩をつかんでいた男の人の手も離れていった
恐る恐る瞼を開ける……
そこには痛そうにお腹を抑えている、男の人がいた
「おいっ!!おまえ、なにしてんだ?おれの女にてぇだしてんじゃねぇよ!!」
すぐ隣から聞こえてくるおにいさんの怒った声
「はあ?おれの女だぁ?さっき見てたんだよ、コンビニの中で、おまえら夫婦でもなければ恋人でもねぇんだろ?」
男の人はいやな笑いを浮かべている
「なあ?俺に譲れ、その女、どうせ一瞬の気の迷いの浮気なんだろ?俺がもらってやるよ、その可愛くて股が緩そうな女」
やっぱり……みんなそう思うよね……
周りに人が集まりだしている……
男の人が二人大きな声を出していれば誰だって止まって見ちゃうよね……
「おいっ!!てめぇ……この女は譲れない、他を当たれよ、ガキが!!」
おにいさんはそう言うと私の肩を優しく抱いてくれた、さっきまでのが嘘みたいに恐怖心が消えていく……
「なんだよ!!俺だって譲れねぇんだよ!!おまえみたいなじじいの事その子が本気で好きなわけないだろ?」
男の人は諦めない
諦めないどころかおにいさんを煽る、おにいさんはスマホを取り出すとどこかに電話をかけはじめた
「みずき、大丈夫だよ、警察の人にあの人を引き取ってもらおう」
「おいっ、てめぇ!どこに電話してんだ!!」
「落ち着けよ、ガキ、大人が怒るとどれだけ怖いのかわからせてやるよ」
そう言うとおにいさんは電話し始めた、その瞬間にパトカーの音が遠くから聞こえてきた、なんで?そんなにすぐくるものなの?
「ちぇっ……誰だよ!!警察に電話した奴!!」
周りの人たちが通報してくれたのかな?
「おいっ?ガキ逃げんなよ?」
おにいさんは男の人を羽交い締めにしている
「ちょっ!!離せよ!!警察に言ってやるよ、お前らが不純な関係だってな!!」
そういうと唾を吐いた
「言えばいいだろ?警察はそんな事なんとも思わないさ、悪いのは100パーセントガキの君だよ?」
おにいさんは微笑んでいる
おにいさんってあんな乱暴な言葉も使うんだ……少し迫力があってびっくりしたけど、私の事守ろうとしてくれたんだよね……
なんだか力が抜けてその場に座り込んだ、足がガクガクと震えている……私、自分で思うよりも怖がってたんだ……
そんな姿おにいさん見たくなかったよね……もっとしっかりしないとダメだよね、20代後半にもなってナンパひとつでこんなに怖がるようじゃ……
近くでパトカーのサイレンが聞こえる
肩をぽんぽんと叩かれた、見ると婦警さんが私に毛布をかけてくれた
「大丈夫ですかっ!怪我はありませんか?」
私はうなだれ気味に頷くと婦警さんは私をかかえてパトカーの後部座席に乗せておにいさんたちがいる方へと歩いて行った、婦警さんはおにいさんに耳打ちするとおにいさんはこちらを見ると早歩きでこちらに向かってきた
ドアが開いて、おにいさんが中に乗り込んで来ると
「ごめん!怖い思いさせて!おれ……みずきの事守るって言ったのに……カッコ悪いよな……おれ……」
おにいさんはうつむいてしまった
「カッコ悪くなんてないです!!助けてくれたのすごく嬉しかった、一生懸命になってくれてるのが伝わってきたから……」
おにいさんはうつむいたまま、何も答えてくれない
「私、おにいさんがじじいでも、昼ドラみたいでも、おにいさんの事本当に本当に好きです!」
おにいさんは顔を上げた、目が合うと私は微笑んでみせた、一瞬の嬉しそうな顔をしたけどその後すぐ苦しそうな表情になってしまった……
パトカーのドアが開けられて、助手席に婦警さんが座る、間を空けずに婦警さんは話し始めた
「今回の、喧嘩……いやあちらの男性の一方的な暴言等についてですが、そちらの女性に怪我ない点もありますし、そちらがよければ警察で男性にはきつくお灸を据えます、どうしても許せないとなるとこのまま一緒にきてもらう事になりますが……どうしますか?」
どうしよう……
「いいです、しっかりお灸を据えてください、また同じ事出来ないように、しっかりお願いします」
おにいさんが強い口調で話す
「本当にいいですか?後からでは罰することが難しくなることもありますが……」
私はふぅ~っと息を大きく吐くと
「いいんです、いつまでもあんな人に時間をかけるのは勿体無いですから」
「わかりました、一応身元を証明出来るものありますか?免許証か保険証等なんですが……」
私とおにいさんは鞄の中から財布を取り出して免許証を婦警さんに渡した
「えっと……あなたたちの関係は?話せる範囲で構いませんよ」
おにいさんはゆっくりと息を吐いた
「義理の兄と義理の妹です」
「はい、わかりました……」
婦警さんは驚いた様子もなく何かの紙にスラスラと何かを書いている
「すいません、一応の規則なのですが男性の方の身元保証人を呼んでいただかないと帰す事ができなくて……」
「わかりました、電話いいですか?」
婦警さんが頷くとおにいさんはドア開けて外に出て誰かに電話をしているようだ
はぁ……大騒ぎになっちゃったな……
外を見るとさっきの男の人は男の警官に停まっているもう一台のパトカーに押し込まれていた、すごい抵抗してるなぁ……まさかあの人もこんな事になるなんて想像もしてなかったよね……
ふと男の人が私の方を見た
目が合うとニヤッと笑った
なんであの人は私に執着するんだろう……そんなに股が緩そうなのかな、私って…… 股が緩そうって完全に褒め言葉じゃないよね、私結構かための女のつもりだったんだけどなぁ……
ドアの開く音がして振り返るとおにいさんが電話が終わったのか乗り込んで来た
「今、電話で来てもらえるように頼んだんですけど30分ぐらいかかるみたいなんですけど大丈夫ですかね?」
おにいさんはさっきの乱暴な言葉とは違いとても丁寧で優しい言葉を使う
「はい、こちらは構いませんがここで待つというのはずっと車を停めておく事も出来ないので署の方まで向かえに来てもらえるように出来ますか?」
「わかりました」
おにいさんはそう言うとスマホで誰かにメールを送っているようだ、運転席のドアが開いて男の警官が乗ってきた
「大丈夫ですか?このまま署に戻ります、迎えが来るまではゆっくり休んでください」
そう言うと、エンジンをかけてその場から警察署の方へと走り出した
車内は沈黙が支配している、この状況でおにいさんと話をする勇気がない、そんな変な話はしないけど警官に聞かれていると思うとなんだか話しづらい気がする……
10分程で警察署について、パトカーから降りると小さな部屋へと案内された
「ここで迎えの方が来るまでお待ちください」
それだけ言うと静かに扉を閉めてどこかへと言ってしまった
「はぁ……ようやく落ち着けるな」
おにいさんは大きくのびをする
「そうですね……まさかこんなおおごとになるとは思ってませんでした……」
私はパイプ椅子に腰掛ける、ギシッと軋む音が鳴った
「でも、みずきが大丈夫そうでよかったよ、みずきになにかあったらおれ、耐えられないよ」
「ありがとうございます、私が抵抗出来なくてみんなに迷惑かけてしまってごめんなさい……」
「バカ!謝るなよ……みずきはなにも悪くない、みずきは被害者なんだぞ?そんな風に思う必要はない!」
おにいさんは声を荒げる
「そうだ、みずきには言ってなかったんだけどおれの両親が迎えに来るからな」
おにいさんのご両親かぁ……
どんな素敵な人たちなんだろう……
「えっ……?ご両親ですか?なっ、なんで……?」
「いや、ちょうどいいかなって思ってそれに身内じゃないとダメだろ、確か、奥さんを呼ぶ訳にもいかないだろ?」
ちょうどいいかどうかはわからないけど、身内じゃご両親しかいないよね、今おねえさんに会いたくないし
いや、確かに……
テレビでやってる、警察24時とかで見ると万引きした人の家族の人とかが迎えに来たりしてるもんね
さすがに昨日の事もあるし、おねえさんを呼ぶのも義母を呼ぶのも無理だよね
「でも……大丈夫なんですか?初対面がこんなところだとあまりイメージが……」
「イメージもクソもあるかよ?こんな状況でさ」
おにいさんは私のほっぺをツンツンする
「まぁ確かにそうなんですけど……気にするじゃないですか!!」
「気にしすぎなんだってみずきは……そういうの生きて行く上で辛くないか?」
なにかを見透かしたようにおにいさんは私の背中をさすってくれる、あったかくて大きな手……
遠くの廊下の方から足音が聞こえてきておにいさんは手を離す、どんどんと足音が近付いてくる、そして私たちの部屋の前で足音が止まる、どうやら足音の感じからは2人のようだ、ドアがゆっくり開けられて警官の人が先に部屋に入ってきた、その後ろについてきたのは、おにいさんと同じぐらいの年齢に見える男性だった
あれ……?
両親だって言ってたけど、まさかこの男の人がおにいさんのお父さんなわけないよね!?
「ごめん遅くなって、かあちゃんあの電話の後、警察からだってとおちゃんから聞いてかなり驚いたみたいで倒れちまって……まあ病院行くほどじゃないとは思うが、とおちゃんが来られないって事で俺が駆り出されたって訳、感謝しろよ?」
なんて早口で話すんだろう、ボッーっとしてると聞き逃してしまいそうだ
「そうか……そりゃ驚くよな、かあちゃんには悪い事したな……来てくれてありがとう、1人じゃないから助かったよ、兄貴」
今、おにいさんなんて?!
兄貴……兄貴っておにいさんの?
あれ……でもそんな話聞いた事なかったけど……
おにいさんのお兄さん?
「ゆきひろ、お前はいつまで親に迷惑かけるんだよ?!しっかりしろよなぁ、結婚もしたんだしよ?」
おにいさんはペコペコ頭を下げている
「忘れてた、どうも久しぶりです、ゆきひろの兄です、ゆきひろの奥さんの……」
と言いながら私の方へと向けて、目が合うと一瞬にして顔が強張る
「すいません!!あのその……つい2人だったんで勘違いしてしまって……」
おにいさんのお兄さんは、私にペコペコ頭を下げている
もうここまでくると
なにがなんだかわからなくなる……
「あっ、そうだ、兄貴、紹介が遅くなった、こちら奥さんの弟くんの奥さん、義理の妹でいいのかな……?」
「あーそう言われるとゆきひろの結婚式で見たような……って、なんでその義理の妹と警察にいるんだ?」
「兄貴、それは車の中で話そう、とてもナイーブな話なんだ」
「それでは、迎えも来られたようですし、おかえりいただいて構いませんよ」
警官が渋そうな顔で言う、私たちは追われるように警察署から出て、おにいさんのお兄さんのクルマに乗り込んだ
運転手はお兄さん
後部座におにいさんと私
走り出してしばらくは沈黙が続いたけど、おにいさんが話し始めた
「本当に助かったよ、ありがとう兄貴、俺1人ならなんとでも出来たんだけどさ、そうだこのまま家に帰ってくれよ」
「まあいいけど、迷惑なんで次からは迎えに行かねえからな、いいのかよ?奥さんの実家じゃなくてもよ?」
「いいんだ、最初から家に行こうと思ってたんだけど、みずきが、あっ弟くんの奥さん、みずきって言うんだ」
おにいさんはわたわたしながら話している、やっぱりお兄さんだから緊張してるのかな?
「じゃぁなんで警察なんかにお世話になるんだよ、意味わかんねえよ、みずきって言うんだな、覚えとく」
お兄さんは運転席の窓を開ける
「んで、その奥さんの弟の嫁とお前は何してたわけ?確かに奥さんの実家に泊まるとか言ってただろ?」
「そうなんだ、最初は奥さんと奥さんの実家に行ったんだ、ご飯を食べながら酒が進んでそしたら奥さんが突然約束を忘れてたとか行って出掛けて行ったんだ」
お兄さんは前向いて運転してるからどんな表情なのかはわからない
「ふぅーん、それで?」
「それで……その……いろいろあって、みずきの旦那が浮気相手に送るはずのメールを間違えてみずきに送ってきたんだ、会いたいだとかいちゃいちゃしたいだとか」
「はぁ?マジかよ?みずきちゃんには悪いけど旦那ってそんなにかっこいいわけじゃないよな?あんまり会ったことはねぇけど」
ううっ……
カッコよくないとかストレートに言われると少しだけ傷付くなぁ……昔はカッコよく見えてたんだから……
「そうですね、カッコいい方ではないと思います……」
「なら、なんで旦那は浮気なんか出来るんだ?大体みずきちゃんだってすごく可愛いと思うけどな、俺は」
おにいさんは私の左手を握る
「それなんだよ、兄貴、みずきの旦那の浮気相手ってのが……おれの奥さんなんだ……」
「ん……?ちょっと待てよ……すごくややこしい事になってるな……どうゆう事なんだ……」
「わかりにくいよな、だから……おれの奥さんとみずきの旦那が不倫してるって事だよ」
おにいさんはできるだけゆっくりと話す
「えーっと……お前の嫁とみずきちゃんの旦那が不倫って事は……ああっ?!なに?きょうだいでできてるって事か?」
お兄さんは大きい声を出した
そりゃ、驚くよね……
「そうなんだ、ははっ……驚くよな……」
おにいさんは乾いた笑いだ
「いやっ!驚くどころの騒ぎじゃないよ!現実にそんな事あるんだな……でも、だからってお前たち2人が警察のお世話になる理由はなんだ?喧嘩の果ての暴力沙汰とかか?」
「いや、それとこの警察のはまた話が別なんだ」
「ああつ!?なんなんだよ、お前は……頭がおかしくなりそうだよ、久しぶりに会ったと思ったらよ……」
「本当にすまない、兄貴」
「まあいいさ、実の弟だから何があっても味方してやるよ」
「ありがとう、兄貴」
きょうだいって美しいな…….
普通きょうだいってこんな風だよね、いくら男女だったとしても体を重ねたりしないよね、どうゆう気持ちなんだろう、おねえさんと旦那は……
恋人みたいに、好きとか愛してるとかなのかな?
片時も離れたくないとか、常にメールしてたいとか……
もうおねえさんと旦那の中ではきょうだいって意識はなくなっちゃってるのかもしれない……
そうだとしても、おねえさんも旦那も好き同士ならわざわざおにいさんや私と結婚して不便な思いする事なかったのに……義母も知ってたなら尚更、やっぱり世間の目を気にしてたのかな……
本当に好き同士ならそんな事気にしないと思うんだけど、私はそんな関係になった事ないからわからないけど……
「みすぎちゃん?大丈夫?あんまりお話しないけど」
お兄さんが心配そうに声をかけてくれる
「あっ、はい、大丈夫です、少し考え事してて……」
「そうだよな、旦那に浮気されて、ショックだもんな……俺が旦那だったら絶対に浮気しないのになぁーみすぎちゃんすごく可愛いからなぁ、問題なのはみすぎちゃん自体が自分の可愛さに気が付いてないって事だな」
「お兄さんが旦那さんだったらこんな思いしなくてもよかったかもしれませんね、可愛くありませんって私なんかが可愛かったら世間のみんな可愛いですよ」
おにいさんが会話に入ってくる
「あのなぁー?誰が見ても可愛いからみすぎ、ナンパされたんだぞ?そのおかげで警察のお世話にまでなったんだから」
「はぁ?みすぎちゃんナンパされたの?やっぱり可愛いもんなーってナンパで警察ってなんだよ?」
お兄さんは驚いているようだ
「あの……恥ずかしい話なんですけど、私、少しおにいさんと離れてる間にナンパされて、元々男の人と接した事あんまりなくて、怖くなってしまって動けなくなってしまって、おにいさんに助けてもらったんですけど、ナンパしてきた人がかなりしつこくて……その、見てた人たちが警察に通報してくれてて、そのおおごとになってしまって……」
「そりゃぁ……怖いよな……なるほど、それで警察にか……」
「油断してたんだよ……全部おれのせいだ……みすぎに怖い思いさせてしまって……」
おにいさんは辛そうな声を出している
「お前がちゃんと守ってやらないとダメだろ?なにか想いがあってみすぎちゃんとずっと一緒にいるんだろ?」
お兄さんがさっきよりも低めの声で話す、すごく真面目な感じが伝わってくる、まるでおにいさんが私の事をどう思っているかわかっているかのようだ
「なんでも俺にはお見通しだぞ?きょうだいだからな?でも、無理はするな、お前は昔から突っ走ると前しか見えなくなるタイプだから心配だ」
「ごめん……いい歳してって自分でも思ってるんだけど、この気持ち……みすぎを想う気持ちに嘘はつきたくないんだ」
「いつからだ?そう思うようになったのは?奥さんがいるってのによー罪な男だよ、お前って奴は」
「それを言われると何も言えないよ……クズな男って言われても仕方ないよな……」
「おい、おい、そんな事で心折れてたらこれからやっていけないぞ?しっかりしろよ?お前が守るんだぞ、みすぎを」
「今まではこんな、不真面目な男じゃなかったんだ、好きな人以外見えなくなってたのにダメなんだ、みすぎを初めて見たあの日から好きの気持ちが抑えられないんだ……なんでなんだろう……」
「なあ?お前、本当に奥さんの事好きなのかよ?」
「兄貴までそんな事聞かないでくれよ、好きだよ、好きだったよ、昨日あんな事言われるまでは……」
「そりゃぁ、本当に好きかどうか怪しくなるだろうよ?」
「なんで結婚したんだろうな……かなりおされたんだ、奥さんに結婚を歳も歳だしまあいいかな、なんて思ったのが間違いだったのかな……」
「おい、おい、しっかりしろよ、今は考えても仕方ないよ、さあ?もう家に着くぞ?」
私は車の外を見る、そんなに離れていないのか田舎という感じではない、綺麗な住宅街、実物は見た事ないけどシロガネーゼみたいな人たちが住んでそうな感じだ、なんだろうもっと田舎!って感じなんだろうなって思ってたのに、ずいぶん今風なんだなぁ……うちの実家は田舎!って感じの家だからなぁ……
「みずき?もう着くよ?」
おにいさんが肩をトントン叩いてくる
「あっ、はい、なんだかイメージと違ったんで驚いちゃって……」
「あぁ、実家だからもっと古いとか思ってた?違う違う、兄貴が両親に家を買ってあげたんだ、まだ結婚もしてないのに偉いよなぁ」
「おい、結婚してないは余計だろっ、俺はもう結婚しねーの、1人がいいの、だから家を買ったんだよ、親孝行がしたくてさ」
「えっ?結婚されないんですか?」
私は思わずお兄さんに聞いてしまった
「あぁ、俺は付き合うだとかは向いてねぇから、結婚も無理だ」
「兄貴はなんでだか、恋人が出来てもすぐ別れちゃうんだよな……」
「うるせぇなぁ、お前には言われたくないっつうの、嫁に浮気されてたし、旦那のいる女を好きなったり……あぁ怖い怖い、結婚なんて墓場だな」
お兄さんは笑っている
言い返せないのが辛い……
確かに墓場なのかもなぁ、うちの両親も結婚するって言った時は結婚は墓場だぞとか結婚は我慢が大事だとか言ってたな、結婚って憧れるし、すごく素敵な事だと思ってたのになー実際はそんなに甘いモノじゃないのかもなぁ……
だから、最近の若い人は結婚から遠ざかってるのかな?
楽しくお出掛け……
楽しく食事……
恋人でも十分味わえるもんなぁ……
わざわざ紙の上で契約して、縛られるのなんてイヤだよね……
「結婚ってなんなんですかね……」
私は無意識のうちに言葉にしてしまう
「本当、なんなんだろうな……愛し合うとかお互いを思い合うとか、素敵な事だと思ってたな、今になったらなんなんだかさっぱりわからないよ」
おにいさんは頭を抱えてしまった
「俺はまだした事ねぇからなんとも言えないけど、やっぱりいい事ばっかりじゃねぇと思う、だけどお互いになんだ理想あるだろ?理想の押し付け合いになっちゃうんじゃねぇのかな?それがうまくいかなくなると浮気されたり、離婚しちまったりするのかねぇ……」
お兄さんも考え込んでしまった
でも、義母もグルだったとしたら……私たちが何を言っても無駄だよね、でもおにいさんを誘うって事は、私だけを仲間はずれにしたかったのかな?狙いがよくわからないよ、やっぱりおにいさんの実家に行くっていうのは正解なのかもしれない、おにいさんは家族になんて説明するんだろう、ありのままを話すのかな?でもちゃんと話さないとフェイクを入れてもバレるよね……
「みずき、また怖い顔してる……笑って?そんな顔見たくないよ」
いつの間にかおにいさんが目の前いる
「えっ……あっ……ごめんなさい……」
「もーみずきは……すぐ考え込むんだね?大丈夫だよ、何があってもおれが守るよ」
また、おにいさんに抱きしめられる
ああ、弱いなあ……
私……
抱きしめられると大丈夫なような気がしてきてしまう……
あったかいし、柔らかいし……
旦那の時はこんな事、感じた事もなかったのになんでおにいさんには……
心の底から旦那の事愛してたはずなのにそれは偽りだったのかな?自分の気持ちに嘘を付いてたのかな……
「おにいさんは、本当におねえさんの事愛してましたか?」
私はおにいさんの胸に顔をうずめながら目を閉じて聞いた
「えっ?今聞くか……おれは愛してたつもりだ、それがあいつに伝わっていたどうかはおれにはわからないけど……なんでそんな事聞くんだ?」
おにいさんは私の髪を優しく触る
なんだかくすぐったい
「うーん、なんだろう今こんな事になって今まで旦那と夫婦としてなにをしてきたんだろうって考えてたら、もしかして私、旦那の事愛してなかったのかなって……」
「みずき……今は頭が混乱してるんだから、あんまり深く考えなくていいさ、今までのみずきもこれからのみずきもなにも間違えてなんかいない、間違えなんてないんだから」
「おにいさん……私……昨日の事で、今までやってきた事が全部無駄だったんじゃないかって……なんだか悔しくて……」
「わかる、わかるよ、大丈夫だから」
おにいさんは私の肩を優しく押して、おにいさんから離す
「さぁ?そろそろ出ようか?ここで2人でいるのも悪くないけどな」
おにいさんは笑っている
後ろばっかり見てるんだな、私は……
おにいさんは、私の事も考えて前を見てるんだ、やっぱりすごいな……歳上だからとかじゃなくておにいさんの性格とかなのかな?私も早く前を見られるようになりたいな……
「さあー行こう?早くしないと置いて行くよ?」
いたずらっぽく微笑んでいる、おにいさんは可愛い、おにいさんは部屋にある電話でどこかに電話をしている、なにを言ってるいるのかは聞こえてこない
「いいよ、さぁ部屋を出よう」
私の手を引いておにいさんは入り口の方へと歩いて行く、靴を履いてドアを開けて昨日乗ったエレベーターに乗り一階へと降りる、入ってきたのと反対の方へとおにいさんに引っ張られて連れて行かれる、小さな窓のようなものがあらわれて小さな机のようなものがくっついていてそこには会計口というプラカードが置かれていた、おにいさんはいつの間にか持ってきていた部屋の鍵を無言でその窓のの中に置く、中から人の気配がしてレシートのようなものが置かれた、私の手を離すとおにいさんはお財布から何枚かお札を出すとレシートのようなものの上に置くと中から人の手が出てきて中へと持って行く、しばらくしてありがとうございましたというこもった声が聞こえて、おにいさんは私の手を再び握るとその場を離れてそのまま進むと出口が見えて外に出た、もう外はすっかり陽が昇っていて明るくてしばらく目を開けられなくておにいさんの手を強く握った
「うわぁーまぶしいなぁ……でも外っていいなぁ、なんだか心が明るくなるな」
本当だぁ……なんか太陽の光を浴びると少し元気になれるような気がする
「あっ、いけねえ、タクシー呼ばないとな」
そう言うとおにいさんは、スマホで電話をかけはじめた、しばらく電話で話しながら歩くとコンビニが見えて、おにいさんは私の手を出し話して先に入ってなとジェスチャーで伝えてきたので1人で先に入り、飲み物でも買おうと飲み物のケースの前でなにを飲もうかしばらく考えていると、おにいさんが隣に歩いて来た
「なにか買う?タクシー呼んだから10分ぐらいで来られるって、なにか買うならおれが払うからな?」
「はい、飲み物でも買おうかなって……なにからなにまですいません……そんな、いいですよお金ぐらい自分で払えますから!!」
「もーみずきはわかってないな……こども扱いしてる訳じゃなくて、女の人にお金を払わせるのはおれがイヤなんだよ、な?いいだろ?」
「でっ、でも……さっきのホテルのお金もおにいさんに払ってもらっちゃったし負担になりたくないんです!!私」
少し声を荒げてしまったせいか、近くにいた他のお客さんがチラチラと私たちの方を見ている
やっちゃったよ……
ホテル代とかおにいさんとか……
大きい声で言ってはいけないワードばかりだ……
おにいさんは飲み物を適当に選ぶと私の手を引いてレジへと向かいお会計を済ませてコンビニの外へと出た、おにいさんはピクピクと体を震わせていた
「おっ、おにいさん?どうしたんですか?」
あはははっ……!!
おにいさんは大きな声で笑い出した
おにいさんがそんなに笑うって事はまたわたし何かやらかしたのかな?
おにいさんは目の前に立つと、私の頭をぽんぽんと叩いた
「なあ?みずき……あんな事言うからみんなみずきの事見てたぞ?まったく……昼ドラじゃないんだから勘弁してくれよ?」
やっぱり……
昼ドラみたいってみんな思ったよね……
昼ドラってあんまり見た事はないけど、三角関係とか略奪愛とか、なんかドロドロしたような大人の女性向けのドラマだよね……
「すっ、すいません……つい……」
私は頭を下げておにいさんに謝る、また頭をぽんぽんと叩かれて顔を上げるとおにいさんは微笑んでいた、笑ってる?なんで?一緒にいたんだからおにいさんもみんなに良くない目でみられちゃったのに……
「いいんだよ、別に他の奴らに昼ドラみたいって思われたっておれは平気だ、まあ見方によれば昼ドラのようなもんだろ?」
まあ確かにそうだ、私たちは一緒にホテルに行って一緒に出てきたんだもんその辺の安っぽい昼ドラでもやってそうな定番のエピソードなのかもしれない
「あっ、そうだ、おれの実家に行くなら久しぶりに帰るし、なんか適当にコンビニで何か買ってくるよ」
「えっ?コンビニなんかで大丈夫なんですか?ちゃんとしたものの方が……」
「なぁ?今どうゆう状況かわかってるだろ?わざわざ高くていい物なんか買って行ったら変だと思われるだろ?」
まあ確かにそうだ
まるで前から準備してましたそうろうはこの状況では変だよね
「そっそうですね、ごめんなさい……ついついいつも通りにしようとしてしまって……というか、私も一緒に行きますよ?」
「何言ってんだ?まださっきの人たちコンビニの中からこっちの事見てるんだぜ?みずきは多分耐えられないだろ?」
私の右手を握ると私の目線の高さまで手を上げて私の目をまっすぐに見ながら手の甲にキスをしておにいさんはコンビニの方へと歩いて言った
うそっ……なんであんな事……
心臓がバクバクする!!
もう怖くてコンビニの方を見る事が出来ない、私は平静を装う為にスマホの画面を付けて操作をしているように振る舞った、きっと誰も私の事なんて見てないかもしれないけど恥ずかしすぎるよ……
そんなお姫様とかじゃないんだから、急に手の甲にキスとかされたら動揺しちゃうよ……
おにいさんの馬鹿……
うまいようにおにいさんに転がされてるよね……私……
それでもやっぱり悪い気はしない
はぁ……私ってダメな女なのかも……
しばらくぽーっとしながらスマホの画面を見ながら立ち尽くしていると、誰かに肩を叩かれた、おにいさん戻って来たんだろ、私はスマホの画面を消して振り返った
そこにいたのはおにいさんじゃなくて知らない男の人がいた……
私は凍りついたように動けなくなる
怖い……この人誰?
「ねえ?きみってここら辺に住んでるの?俺さあ……道がわからなくて困ってるんだよね……」
そういうと男の人は私のとなりに立つと肩をガッ!!と掴んできた
「ねぇ?道がわからないなんて嘘っぱち……きみに声をかけるための口実……」
耳元で囁くように喋る
おにいさんなら気持ちいいのに、この誰か知らない人に耳元で囁かれたら、体が強張って動けない声も出せない……
「ねえ?何か言ってよ?よかったじゃん、俺みたいにイケメンにナンパされるなんてきみラッキーだよ?」
そう言いながら私の髪を指でくるくると巻いている
気持ち悪い……
怖いよ……
おにいさん早く戻ってきて!!
瞼を閉じて時間が過ぎるのを待つ……
突然
ゔぅぅ……と痛みをこらえているような声が聞こえてきて、私の肩をつかんでいた男の人の手も離れていった
恐る恐る瞼を開ける……
そこには痛そうにお腹を抑えている、男の人がいた
「おいっ!!おまえ、なにしてんだ?おれの女にてぇだしてんじゃねぇよ!!」
すぐ隣から聞こえてくるおにいさんの怒った声
「はあ?おれの女だぁ?さっき見てたんだよ、コンビニの中で、おまえら夫婦でもなければ恋人でもねぇんだろ?」
男の人はいやな笑いを浮かべている
「なあ?俺に譲れ、その女、どうせ一瞬の気の迷いの浮気なんだろ?俺がもらってやるよ、その可愛くて股が緩そうな女」
やっぱり……みんなそう思うよね……
周りに人が集まりだしている……
男の人が二人大きな声を出していれば誰だって止まって見ちゃうよね……
「おいっ!!てめぇ……この女は譲れない、他を当たれよ、ガキが!!」
おにいさんはそう言うと私の肩を優しく抱いてくれた、さっきまでのが嘘みたいに恐怖心が消えていく……
「なんだよ!!俺だって譲れねぇんだよ!!おまえみたいなじじいの事その子が本気で好きなわけないだろ?」
男の人は諦めない
諦めないどころかおにいさんを煽る、おにいさんはスマホを取り出すとどこかに電話をかけはじめた
「みずき、大丈夫だよ、警察の人にあの人を引き取ってもらおう」
「おいっ、てめぇ!どこに電話してんだ!!」
「落ち着けよ、ガキ、大人が怒るとどれだけ怖いのかわからせてやるよ」
そう言うとおにいさんは電話し始めた、その瞬間にパトカーの音が遠くから聞こえてきた、なんで?そんなにすぐくるものなの?
「ちぇっ……誰だよ!!警察に電話した奴!!」
周りの人たちが通報してくれたのかな?
「おいっ?ガキ逃げんなよ?」
おにいさんは男の人を羽交い締めにしている
「ちょっ!!離せよ!!警察に言ってやるよ、お前らが不純な関係だってな!!」
そういうと唾を吐いた
「言えばいいだろ?警察はそんな事なんとも思わないさ、悪いのは100パーセントガキの君だよ?」
おにいさんは微笑んでいる
おにいさんってあんな乱暴な言葉も使うんだ……少し迫力があってびっくりしたけど、私の事守ろうとしてくれたんだよね……
なんだか力が抜けてその場に座り込んだ、足がガクガクと震えている……私、自分で思うよりも怖がってたんだ……
そんな姿おにいさん見たくなかったよね……もっとしっかりしないとダメだよね、20代後半にもなってナンパひとつでこんなに怖がるようじゃ……
近くでパトカーのサイレンが聞こえる
肩をぽんぽんと叩かれた、見ると婦警さんが私に毛布をかけてくれた
「大丈夫ですかっ!怪我はありませんか?」
私はうなだれ気味に頷くと婦警さんは私をかかえてパトカーの後部座席に乗せておにいさんたちがいる方へと歩いて行った、婦警さんはおにいさんに耳打ちするとおにいさんはこちらを見ると早歩きでこちらに向かってきた
ドアが開いて、おにいさんが中に乗り込んで来ると
「ごめん!怖い思いさせて!おれ……みずきの事守るって言ったのに……カッコ悪いよな……おれ……」
おにいさんはうつむいてしまった
「カッコ悪くなんてないです!!助けてくれたのすごく嬉しかった、一生懸命になってくれてるのが伝わってきたから……」
おにいさんはうつむいたまま、何も答えてくれない
「私、おにいさんがじじいでも、昼ドラみたいでも、おにいさんの事本当に本当に好きです!」
おにいさんは顔を上げた、目が合うと私は微笑んでみせた、一瞬の嬉しそうな顔をしたけどその後すぐ苦しそうな表情になってしまった……
パトカーのドアが開けられて、助手席に婦警さんが座る、間を空けずに婦警さんは話し始めた
「今回の、喧嘩……いやあちらの男性の一方的な暴言等についてですが、そちらの女性に怪我ない点もありますし、そちらがよければ警察で男性にはきつくお灸を据えます、どうしても許せないとなるとこのまま一緒にきてもらう事になりますが……どうしますか?」
どうしよう……
「いいです、しっかりお灸を据えてください、また同じ事出来ないように、しっかりお願いします」
おにいさんが強い口調で話す
「本当にいいですか?後からでは罰することが難しくなることもありますが……」
私はふぅ~っと息を大きく吐くと
「いいんです、いつまでもあんな人に時間をかけるのは勿体無いですから」
「わかりました、一応身元を証明出来るものありますか?免許証か保険証等なんですが……」
私とおにいさんは鞄の中から財布を取り出して免許証を婦警さんに渡した
「えっと……あなたたちの関係は?話せる範囲で構いませんよ」
おにいさんはゆっくりと息を吐いた
「義理の兄と義理の妹です」
「はい、わかりました……」
婦警さんは驚いた様子もなく何かの紙にスラスラと何かを書いている
「すいません、一応の規則なのですが男性の方の身元保証人を呼んでいただかないと帰す事ができなくて……」
「わかりました、電話いいですか?」
婦警さんが頷くとおにいさんはドア開けて外に出て誰かに電話をしているようだ
はぁ……大騒ぎになっちゃったな……
外を見るとさっきの男の人は男の警官に停まっているもう一台のパトカーに押し込まれていた、すごい抵抗してるなぁ……まさかあの人もこんな事になるなんて想像もしてなかったよね……
ふと男の人が私の方を見た
目が合うとニヤッと笑った
なんであの人は私に執着するんだろう……そんなに股が緩そうなのかな、私って…… 股が緩そうって完全に褒め言葉じゃないよね、私結構かための女のつもりだったんだけどなぁ……
ドアの開く音がして振り返るとおにいさんが電話が終わったのか乗り込んで来た
「今、電話で来てもらえるように頼んだんですけど30分ぐらいかかるみたいなんですけど大丈夫ですかね?」
おにいさんはさっきの乱暴な言葉とは違いとても丁寧で優しい言葉を使う
「はい、こちらは構いませんがここで待つというのはずっと車を停めておく事も出来ないので署の方まで向かえに来てもらえるように出来ますか?」
「わかりました」
おにいさんはそう言うとスマホで誰かにメールを送っているようだ、運転席のドアが開いて男の警官が乗ってきた
「大丈夫ですか?このまま署に戻ります、迎えが来るまではゆっくり休んでください」
そう言うと、エンジンをかけてその場から警察署の方へと走り出した
車内は沈黙が支配している、この状況でおにいさんと話をする勇気がない、そんな変な話はしないけど警官に聞かれていると思うとなんだか話しづらい気がする……
10分程で警察署について、パトカーから降りると小さな部屋へと案内された
「ここで迎えの方が来るまでお待ちください」
それだけ言うと静かに扉を閉めてどこかへと言ってしまった
「はぁ……ようやく落ち着けるな」
おにいさんは大きくのびをする
「そうですね……まさかこんなおおごとになるとは思ってませんでした……」
私はパイプ椅子に腰掛ける、ギシッと軋む音が鳴った
「でも、みずきが大丈夫そうでよかったよ、みずきになにかあったらおれ、耐えられないよ」
「ありがとうございます、私が抵抗出来なくてみんなに迷惑かけてしまってごめんなさい……」
「バカ!謝るなよ……みずきはなにも悪くない、みずきは被害者なんだぞ?そんな風に思う必要はない!」
おにいさんは声を荒げる
「そうだ、みずきには言ってなかったんだけどおれの両親が迎えに来るからな」
おにいさんのご両親かぁ……
どんな素敵な人たちなんだろう……
「えっ……?ご両親ですか?なっ、なんで……?」
「いや、ちょうどいいかなって思ってそれに身内じゃないとダメだろ、確か、奥さんを呼ぶ訳にもいかないだろ?」
ちょうどいいかどうかはわからないけど、身内じゃご両親しかいないよね、今おねえさんに会いたくないし
いや、確かに……
テレビでやってる、警察24時とかで見ると万引きした人の家族の人とかが迎えに来たりしてるもんね
さすがに昨日の事もあるし、おねえさんを呼ぶのも義母を呼ぶのも無理だよね
「でも……大丈夫なんですか?初対面がこんなところだとあまりイメージが……」
「イメージもクソもあるかよ?こんな状況でさ」
おにいさんは私のほっぺをツンツンする
「まぁ確かにそうなんですけど……気にするじゃないですか!!」
「気にしすぎなんだってみずきは……そういうの生きて行く上で辛くないか?」
なにかを見透かしたようにおにいさんは私の背中をさすってくれる、あったかくて大きな手……
遠くの廊下の方から足音が聞こえてきておにいさんは手を離す、どんどんと足音が近付いてくる、そして私たちの部屋の前で足音が止まる、どうやら足音の感じからは2人のようだ、ドアがゆっくり開けられて警官の人が先に部屋に入ってきた、その後ろについてきたのは、おにいさんと同じぐらいの年齢に見える男性だった
あれ……?
両親だって言ってたけど、まさかこの男の人がおにいさんのお父さんなわけないよね!?
「ごめん遅くなって、かあちゃんあの電話の後、警察からだってとおちゃんから聞いてかなり驚いたみたいで倒れちまって……まあ病院行くほどじゃないとは思うが、とおちゃんが来られないって事で俺が駆り出されたって訳、感謝しろよ?」
なんて早口で話すんだろう、ボッーっとしてると聞き逃してしまいそうだ
「そうか……そりゃ驚くよな、かあちゃんには悪い事したな……来てくれてありがとう、1人じゃないから助かったよ、兄貴」
今、おにいさんなんて?!
兄貴……兄貴っておにいさんの?
あれ……でもそんな話聞いた事なかったけど……
おにいさんのお兄さん?
「ゆきひろ、お前はいつまで親に迷惑かけるんだよ?!しっかりしろよなぁ、結婚もしたんだしよ?」
おにいさんはペコペコ頭を下げている
「忘れてた、どうも久しぶりです、ゆきひろの兄です、ゆきひろの奥さんの……」
と言いながら私の方へと向けて、目が合うと一瞬にして顔が強張る
「すいません!!あのその……つい2人だったんで勘違いしてしまって……」
おにいさんのお兄さんは、私にペコペコ頭を下げている
もうここまでくると
なにがなんだかわからなくなる……
「あっ、そうだ、兄貴、紹介が遅くなった、こちら奥さんの弟くんの奥さん、義理の妹でいいのかな……?」
「あーそう言われるとゆきひろの結婚式で見たような……って、なんでその義理の妹と警察にいるんだ?」
「兄貴、それは車の中で話そう、とてもナイーブな話なんだ」
「それでは、迎えも来られたようですし、おかえりいただいて構いませんよ」
警官が渋そうな顔で言う、私たちは追われるように警察署から出て、おにいさんのお兄さんのクルマに乗り込んだ
運転手はお兄さん
後部座におにいさんと私
走り出してしばらくは沈黙が続いたけど、おにいさんが話し始めた
「本当に助かったよ、ありがとう兄貴、俺1人ならなんとでも出来たんだけどさ、そうだこのまま家に帰ってくれよ」
「まあいいけど、迷惑なんで次からは迎えに行かねえからな、いいのかよ?奥さんの実家じゃなくてもよ?」
「いいんだ、最初から家に行こうと思ってたんだけど、みずきが、あっ弟くんの奥さん、みずきって言うんだ」
おにいさんはわたわたしながら話している、やっぱりお兄さんだから緊張してるのかな?
「じゃぁなんで警察なんかにお世話になるんだよ、意味わかんねえよ、みずきって言うんだな、覚えとく」
お兄さんは運転席の窓を開ける
「んで、その奥さんの弟の嫁とお前は何してたわけ?確かに奥さんの実家に泊まるとか言ってただろ?」
「そうなんだ、最初は奥さんと奥さんの実家に行ったんだ、ご飯を食べながら酒が進んでそしたら奥さんが突然約束を忘れてたとか行って出掛けて行ったんだ」
お兄さんは前向いて運転してるからどんな表情なのかはわからない
「ふぅーん、それで?」
「それで……その……いろいろあって、みずきの旦那が浮気相手に送るはずのメールを間違えてみずきに送ってきたんだ、会いたいだとかいちゃいちゃしたいだとか」
「はぁ?マジかよ?みずきちゃんには悪いけど旦那ってそんなにかっこいいわけじゃないよな?あんまり会ったことはねぇけど」
ううっ……
カッコよくないとかストレートに言われると少しだけ傷付くなぁ……昔はカッコよく見えてたんだから……
「そうですね、カッコいい方ではないと思います……」
「なら、なんで旦那は浮気なんか出来るんだ?大体みずきちゃんだってすごく可愛いと思うけどな、俺は」
おにいさんは私の左手を握る
「それなんだよ、兄貴、みずきの旦那の浮気相手ってのが……おれの奥さんなんだ……」
「ん……?ちょっと待てよ……すごくややこしい事になってるな……どうゆう事なんだ……」
「わかりにくいよな、だから……おれの奥さんとみずきの旦那が不倫してるって事だよ」
おにいさんはできるだけゆっくりと話す
「えーっと……お前の嫁とみずきちゃんの旦那が不倫って事は……ああっ?!なに?きょうだいでできてるって事か?」
お兄さんは大きい声を出した
そりゃ、驚くよね……
「そうなんだ、ははっ……驚くよな……」
おにいさんは乾いた笑いだ
「いやっ!驚くどころの騒ぎじゃないよ!現実にそんな事あるんだな……でも、だからってお前たち2人が警察のお世話になる理由はなんだ?喧嘩の果ての暴力沙汰とかか?」
「いや、それとこの警察のはまた話が別なんだ」
「ああつ!?なんなんだよ、お前は……頭がおかしくなりそうだよ、久しぶりに会ったと思ったらよ……」
「本当にすまない、兄貴」
「まあいいさ、実の弟だから何があっても味方してやるよ」
「ありがとう、兄貴」
きょうだいって美しいな…….
普通きょうだいってこんな風だよね、いくら男女だったとしても体を重ねたりしないよね、どうゆう気持ちなんだろう、おねえさんと旦那は……
恋人みたいに、好きとか愛してるとかなのかな?
片時も離れたくないとか、常にメールしてたいとか……
もうおねえさんと旦那の中ではきょうだいって意識はなくなっちゃってるのかもしれない……
そうだとしても、おねえさんも旦那も好き同士ならわざわざおにいさんや私と結婚して不便な思いする事なかったのに……義母も知ってたなら尚更、やっぱり世間の目を気にしてたのかな……
本当に好き同士ならそんな事気にしないと思うんだけど、私はそんな関係になった事ないからわからないけど……
「みすぎちゃん?大丈夫?あんまりお話しないけど」
お兄さんが心配そうに声をかけてくれる
「あっ、はい、大丈夫です、少し考え事してて……」
「そうだよな、旦那に浮気されて、ショックだもんな……俺が旦那だったら絶対に浮気しないのになぁーみすぎちゃんすごく可愛いからなぁ、問題なのはみすぎちゃん自体が自分の可愛さに気が付いてないって事だな」
「お兄さんが旦那さんだったらこんな思いしなくてもよかったかもしれませんね、可愛くありませんって私なんかが可愛かったら世間のみんな可愛いですよ」
おにいさんが会話に入ってくる
「あのなぁー?誰が見ても可愛いからみすぎ、ナンパされたんだぞ?そのおかげで警察のお世話にまでなったんだから」
「はぁ?みすぎちゃんナンパされたの?やっぱり可愛いもんなーってナンパで警察ってなんだよ?」
お兄さんは驚いているようだ
「あの……恥ずかしい話なんですけど、私、少しおにいさんと離れてる間にナンパされて、元々男の人と接した事あんまりなくて、怖くなってしまって動けなくなってしまって、おにいさんに助けてもらったんですけど、ナンパしてきた人がかなりしつこくて……その、見てた人たちが警察に通報してくれてて、そのおおごとになってしまって……」
「そりゃぁ……怖いよな……なるほど、それで警察にか……」
「油断してたんだよ……全部おれのせいだ……みすぎに怖い思いさせてしまって……」
おにいさんは辛そうな声を出している
「お前がちゃんと守ってやらないとダメだろ?なにか想いがあってみすぎちゃんとずっと一緒にいるんだろ?」
お兄さんがさっきよりも低めの声で話す、すごく真面目な感じが伝わってくる、まるでおにいさんが私の事をどう思っているかわかっているかのようだ
「なんでも俺にはお見通しだぞ?きょうだいだからな?でも、無理はするな、お前は昔から突っ走ると前しか見えなくなるタイプだから心配だ」
「ごめん……いい歳してって自分でも思ってるんだけど、この気持ち……みすぎを想う気持ちに嘘はつきたくないんだ」
「いつからだ?そう思うようになったのは?奥さんがいるってのによー罪な男だよ、お前って奴は」
「それを言われると何も言えないよ……クズな男って言われても仕方ないよな……」
「おい、おい、そんな事で心折れてたらこれからやっていけないぞ?しっかりしろよ?お前が守るんだぞ、みすぎを」
「今まではこんな、不真面目な男じゃなかったんだ、好きな人以外見えなくなってたのにダメなんだ、みすぎを初めて見たあの日から好きの気持ちが抑えられないんだ……なんでなんだろう……」
「なあ?お前、本当に奥さんの事好きなのかよ?」
「兄貴までそんな事聞かないでくれよ、好きだよ、好きだったよ、昨日あんな事言われるまでは……」
「そりゃぁ、本当に好きかどうか怪しくなるだろうよ?」
「なんで結婚したんだろうな……かなりおされたんだ、奥さんに結婚を歳も歳だしまあいいかな、なんて思ったのが間違いだったのかな……」
「おい、おい、しっかりしろよ、今は考えても仕方ないよ、さあ?もう家に着くぞ?」
私は車の外を見る、そんなに離れていないのか田舎という感じではない、綺麗な住宅街、実物は見た事ないけどシロガネーゼみたいな人たちが住んでそうな感じだ、なんだろうもっと田舎!って感じなんだろうなって思ってたのに、ずいぶん今風なんだなぁ……うちの実家は田舎!って感じの家だからなぁ……
「みずき?もう着くよ?」
おにいさんが肩をトントン叩いてくる
「あっ、はい、なんだかイメージと違ったんで驚いちゃって……」
「あぁ、実家だからもっと古いとか思ってた?違う違う、兄貴が両親に家を買ってあげたんだ、まだ結婚もしてないのに偉いよなぁ」
「おい、結婚してないは余計だろっ、俺はもう結婚しねーの、1人がいいの、だから家を買ったんだよ、親孝行がしたくてさ」
「えっ?結婚されないんですか?」
私は思わずお兄さんに聞いてしまった
「あぁ、俺は付き合うだとかは向いてねぇから、結婚も無理だ」
「兄貴はなんでだか、恋人が出来てもすぐ別れちゃうんだよな……」
「うるせぇなぁ、お前には言われたくないっつうの、嫁に浮気されてたし、旦那のいる女を好きなったり……あぁ怖い怖い、結婚なんて墓場だな」
お兄さんは笑っている
言い返せないのが辛い……
確かに墓場なのかもなぁ、うちの両親も結婚するって言った時は結婚は墓場だぞとか結婚は我慢が大事だとか言ってたな、結婚って憧れるし、すごく素敵な事だと思ってたのになー実際はそんなに甘いモノじゃないのかもなぁ……
だから、最近の若い人は結婚から遠ざかってるのかな?
楽しくお出掛け……
楽しく食事……
恋人でも十分味わえるもんなぁ……
わざわざ紙の上で契約して、縛られるのなんてイヤだよね……
「結婚ってなんなんですかね……」
私は無意識のうちに言葉にしてしまう
「本当、なんなんだろうな……愛し合うとかお互いを思い合うとか、素敵な事だと思ってたな、今になったらなんなんだかさっぱりわからないよ」
おにいさんは頭を抱えてしまった
「俺はまだした事ねぇからなんとも言えないけど、やっぱりいい事ばっかりじゃねぇと思う、だけどお互いになんだ理想あるだろ?理想の押し付け合いになっちゃうんじゃねぇのかな?それがうまくいかなくなると浮気されたり、離婚しちまったりするのかねぇ……」
お兄さんも考え込んでしまった
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