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犬 前編
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ーーワン!ワンワン、グルル…
…まただ。私は読んでいた雑誌から目を上げると、すぐ近くにいる鳴き声の主を叱りつけた。
「こら、さくら!吠えないの!」
鳴き声の主「さくら」は、しゅんと尻尾を下げて項垂れる。
先月4歳になったばかりの柴犬「さくら」は、2年前にこの家にやってきた。前の飼い主であった祖母が他界したときに、保健所に送るのはあまりにも可哀想だという話になって、私の家に引き取られてきたのだ。さくらは祖母にとても懐いていた。それだけにショックも大きかったのだろう。引き取られてきた当初は、ドッグフードにも大好物のササミ肉にも一切手をつけなかった。そして、祖母の家から持ってきたハウスにずっと横たわっていた。家族の誰もが心配して、さくらを医者に見せたりなんとか物を食べさせようとしたが、さくらはなかなか立ち直ってくれなかった。
しかし、やっと1年前くらいから少しずつごはんを食べるようになり、外にも出るようになった。さくらがやっと立ち直れたのだと、私も嬉しかった。
ところが。最近さくらの様子がおかしい。
誰もいない場所に向かって、吠えるのだ。それは朝だったり、夜中だったり、夕方だったり。吠える場所も特には決まっている様子もない。
なにか身体の調子でも悪いのだろうか。とても心配だ。
私は友人に相談した。友人は真剣な顔をして私の話を聞いてくれて、そして話が終わると言った。
「誰か、いるんじゃないの?」
「え…?」
予想外の答えだった。誰かがいる?確かに、さくらは祖母の家の番犬だった。さくらに初めて会ったときは、家の前で散々に吠えられて怖い思いをしたものだ。でも。さくらが吠える方向には、いつも、誰も…
「だから、誰かいるんじゃない?犬ってさ、霊感強いらしいじゃん」
ぞわりとした。さくらには、私に見えない何かが見えているということなのだろうか。
下を向いて考え込む私の顔を友人が覗き込んだ。
「あ…ごめん、怖がらせるつもりはなかったんだ。冗談だよ。忘れて」
「え?あ、ああ、いいんだよ、あはは…相談乗ってくれてありがとう。」
曖昧に笑って恐怖をごまかした。
…相談した後も、そのことが頭から離れなかった。さくらには何が見えているんだろう。もしも本当に誰かがいるのだとしたら…
私は頭を抱えた。
後編に続く
…まただ。私は読んでいた雑誌から目を上げると、すぐ近くにいる鳴き声の主を叱りつけた。
「こら、さくら!吠えないの!」
鳴き声の主「さくら」は、しゅんと尻尾を下げて項垂れる。
先月4歳になったばかりの柴犬「さくら」は、2年前にこの家にやってきた。前の飼い主であった祖母が他界したときに、保健所に送るのはあまりにも可哀想だという話になって、私の家に引き取られてきたのだ。さくらは祖母にとても懐いていた。それだけにショックも大きかったのだろう。引き取られてきた当初は、ドッグフードにも大好物のササミ肉にも一切手をつけなかった。そして、祖母の家から持ってきたハウスにずっと横たわっていた。家族の誰もが心配して、さくらを医者に見せたりなんとか物を食べさせようとしたが、さくらはなかなか立ち直ってくれなかった。
しかし、やっと1年前くらいから少しずつごはんを食べるようになり、外にも出るようになった。さくらがやっと立ち直れたのだと、私も嬉しかった。
ところが。最近さくらの様子がおかしい。
誰もいない場所に向かって、吠えるのだ。それは朝だったり、夜中だったり、夕方だったり。吠える場所も特には決まっている様子もない。
なにか身体の調子でも悪いのだろうか。とても心配だ。
私は友人に相談した。友人は真剣な顔をして私の話を聞いてくれて、そして話が終わると言った。
「誰か、いるんじゃないの?」
「え…?」
予想外の答えだった。誰かがいる?確かに、さくらは祖母の家の番犬だった。さくらに初めて会ったときは、家の前で散々に吠えられて怖い思いをしたものだ。でも。さくらが吠える方向には、いつも、誰も…
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ぞわりとした。さくらには、私に見えない何かが見えているということなのだろうか。
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「あ…ごめん、怖がらせるつもりはなかったんだ。冗談だよ。忘れて」
「え?あ、ああ、いいんだよ、あはは…相談乗ってくれてありがとう。」
曖昧に笑って恐怖をごまかした。
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