憧れていた天然色

きりか

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憧れていた天然色

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鬱展開かもしれません。地雷があったらごめんなさい。

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なにもかもが、うんざりしていた。


男に媚ばかり振りまき、母としてより、女として生きる母親。

僕がオメガだからか、なにもかも気に入らないからと、ちょっとしたことで手をあげる継父。


そんなある日、新しい女ができたと、母を捨て、継父は出ていった…。

灰色の生活の中で、もがいていたが、アイツがいなくなってから、

少しだけ希望が見えた気がしたが……。

しかし「オマエのせいで!オマエがオメガなばっかりに!」と、母という名ばかりの女に、殴られた。

僕が何をしたっていうんだ?


ろくに食べさしてもらってないからか、ガリガリに痩せてるせいかいまだに発情期がこない、ポンコツなオメガなのに?


うんざりだ。



ポンコツオメガな僕にとって、バース性も、運命がどんなものかはわからない。


そんな薄暗い日々の中で、あるひとりのα(アルファ)と出会った。

運命なんてわからないけど、

彼のとこだけ、天然色に輝いて見えた。


憧れ続けた色合いにやっと出会えたと……。


彼に振り向いてもらいたい…。

たとえ同情でもいい…。



寒さが厳しいある日、

母という女が、陽が高いうちから呑んだくれたのを見て、「なにもかも無くなってしまえばいいのに…。」

そんなつぶやきを零した僕の願いが叶えられた。

老朽化がひどく、隙間風が入りまくる我が家で、唯一の暖がとれるストーブから、脱ぎ散らかした衣服の山に燃え移り、あの女ごと燃え落ちた。


住む所も、なにもかも炎によって失ったが、それよりも、やっと、得た自由に暗い喜びを噛みしめる。


これで、あの、たくさんの友人に囲まれ、なにもかも手に入れてる優しい彼の心につけ入れるかも?



俯く僕を、なにもかも失い悲しんでいると思ったのか、優しい彼は見つけ出してくれた。


僕は、その優しさにつけ込んだ。


そう、彼の同情心を煽り、突然の悲劇に途方にくれてるように見せ、彼の庇護欲を利用した。


発情期がこないから、番えないオメガである僕を、家族は猛反対したそうだ。

彼の実家は、大病院を経営していて、彼は、その病院でなく、発展途上国での医療につきたかったそうだが、僕との婚姻は、病院の跡を継ぐのを条件として、押し切ったとか…。


やっと、得た幸せだったのも束の間、彼の前には、運命のツガイが現れたらしい。

優しすぎる彼は、可哀想な僕を見捨てることができずに苦しんでいたが、この幸せを失いたくなくて、気付かないふりを続けた。



どのくらい月日が流れたのだろうか?

運命の番の元から戻らなくなった彼を、僕は、ずっと、ずっと、ひたすら待ち続けた。

戻らぬ彼のために、

いつ家に帰ってきても大丈夫なように、綺麗に掃除をし、庭には花を植え、街に出ては、彼に似合いそうな服を買い、毎日、彼の好物を作っては、ひたすら待ち続けた。




いつものように待ち続けていたある日、突然、彼は戻って来た。


久しぶりに会った彼は、驚くほどに痩せてやつれていた…。

それでも、やはり、彼だけは天然色を纏っていた。


そう、
彼は……彼によく似た男の子と、もう一人、その子よりも幼い男の子を……2人連れていた…。


「アンリ、今まで申し訳なかった…。
君は、知っていたと思うが……、この子達2人は、私と…私の運命の番だったアンディとの子なんだ…。

君にも、アンディにも、俺は…俺は不誠実だった…。

しかし、もう、アンディは、この世にいない…。」


彼が帰ってきたのは、運命の番を病で亡くし、あまりの辛さに、子供達の顔も見れなくなったとか…。

そんな時に、不慮の事故で、親を亡くした僕なら子供達の支えになると…勝手なことを言って、すまない…。

涙を零しながら彼は語った。

僕は、2人の子らに視線を向けてみた。
目が合うと、上の子だけは、花がほころぶように微笑んでいた。


彼がやっと帰って来た!

ただそれだけで有頂天となっていた僕は、そのとき、運命の番がどういったものか、本当の意味がわかっていなかったんだ。


彼は、そのすぐあとに…事故にあい、僕の元に永遠に戻らなくなった…。

そう、まるで、運命の番を追うように…。


警察の説明によると、事故か自殺かわからないとか…。

ブレーキを踏んだ形跡がなかったそうだ。

そして僕は、永遠に色を失った。



僕は、彼と約束したので、慣れない育児でもって、2人を大切に、自分が向けられなかった愛情をもって育てた。


そう、最初は、彼に頼まれたからだったが、子供達は、愛に飢えていた僕の心を埋めてくれた。

子供達は、彼から頂いた大切な宝だ。

大好きな色を纏っていた彼の……。


あれから10年、上の子デビッドは、今日で16歳。

この国では、大人の仲間入りを果たす。

僕が彼と出会ったのも16歳だった。

それにしても、益々、彼に似てきているな…。


下のスティーブも、12歳で、

今年、ジュニアスクールに上がる…。

スティーブは、彼に似ていないから、番の人に似ているんだろうな…。

スティーブの顔を見ながら、さぞかし美人だったんだろうな…と、つぶやけば、デビッドに「アンリ、また訳のわからない事を考えているんだろ?」と笑われる始末。

「デビッド、おめでとう。これで大人の仲間入りだね?」と返すと、

「これでやっと言えるよ…。 アンリ、ずっとずっと好きだった。僕と番になって欲しい。アンリは、僕の運命だよ。」


誕生日を迎えてからデビッドは、発情期のない、ポンコツな上、ずっと年上な僕を口説きまくってくれてる。


スティーブは、日頃の仲の良さもあってか、もちろんデビッドの肩を持つ。

「デビッドとアンリって、お似合いだよ!サイコー!」


目が合うたびに、ここに来た当初から、変わらないデビッドの笑顔を見るたびに、絆されつつあるが…。


運命の番も、真実の愛も知らずにきた僕で本当にいいのか?


なにより、大好きだった彼に似すぎているデビッドを選ぶのは、彼にも、デビッドにも悪いように思うが…。


それに、天然色を纏っていた彼を失ってから、僕は色を失ったままだった。


いまだに答えは見つからない。









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感想 1

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みんなの感想(1件)

モルト
2021.03.10 モルト

運命の番の後を追って事故か自殺かそうでないにしても、番との子をアンリに任せて死ぬのは無責任だしアンリが不憫で仕方なかったです😢まだ色が戻らなくても、いつかアンリも幸せになって欲しいなと思いました!

2021.03.10 きりか

モルト様
読んで頂いて、なおかつ、感想まで頂いて、凄く嬉しかったです。
大丈夫です!アンリは、このあと幸せになります!幸せの形は、あえて書かなかったのですが、(色を戻せたかどうかもですが…)
絶対に穏やかな幸せをつかみます!
めちゃくちゃ遅筆なのですが、次作は、コメディを予定しておりますので、よろしければ…。
感想をありがとうございます。励みになります。

解除

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