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第三章 水面下で蠢く者たち

32話 気になる視線

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あの模擬戦から三日後、現在私たち(私・チェルシー・クリスティー・アンリエッタ)は食堂でお昼のランチを食べています。

学園の中でも私を認識できるのはこの三人しかいないこともあって、最近はこの四人で昼食を食べているのですが、当然そこに私は含まれておらず、不可視の状態のままアンリエッタの横の席に座っているだけです。婚約者候補絡みのことでアンリエッタと知り合って以降気になっていたことがあったので、三人に念話で尋ねてみました。

『クリスティーには、婚約者はいるのかしら?』

「この中で正式な婚約者がいるのは、クリスティーだけだよね。今でも、その関係はラブラブだし~」

チェルシ―はニヤニヤ顔でクリスティーを見るのですが、当の本人は顔を真っ赤にしているので、どうやら本当の事のようです。

「婚約者の名前はブランドン・ブラッドリー伯爵令息、ブラッドリー家の長男だから、将来は伯爵になる予定で今も勉強を重ねているようだけど、クリスティーのことが好き過ぎるのが欠点かな~。隣の一年B組にいるから、ある意味別々になって良かったかもね~」

それは、どういう意味でしょう? 互いに愛し合っているのなら、問題ないのでは?

「そうね。私から見ても、彼のクリスティーに傾ける情熱は些か重いわね。入学当初、皆のいる校庭で、《デートの最中、彼女を誘拐する輩が現れるかもしれない。たとえ護衛がいたとしても、駆けつけるまでに時間がかかる。側にいる婚約者としての自分が弱かったら、すぐに誘拐されてしまう。だから、僕は愛する君を護る伯爵兼騎士を目指すよ》と宣言したもの。今頃、騎士志望の生徒たちと訓練に励んでいるんじゃないかしら?」

そこまではっきりと豪語するとは、愛が少し重いかもしれませんね。
クリスティーの顔は真っ赤っか、可愛いですわね。

「でも、そこまでクリスティー一人を一途に愛せるブランドンは凄いと思う。私にも、そんな出会いがあればいいんだけど、知り合いにそんな男性一人もいないし」

三日前、模擬戦とアイリスの件を報告するため、お兄様のもとを尋ねました。その際、チェルシーの婚約者について詳しく聞いてみましたが、お兄様もアルテイシア様も同じ意見らしく、チェルシーには自分たちと同じ恋愛結婚を望んでいるようです。ただ、一人娘なので、結婚相手は婿養子としてオースコット家に来てもらうことになりますね。

アンリエッタに関してはラルカークの婚約者候補で、あの事件も解決していませんから、現状どうなるのかわかりません。ただ、候補の女性たちは定期的に王城へ赴き、王族になるための教育が施されているそうですが、女性陣の年齢を考慮して、ラルカークが成人(十五歳)するまでには婚約者を決めるそうです。

それにしてもあの事件以降、チェルシーのおかげもあってか、アンリエッタのクラスメイトたちへの接し方が少し柔らかくなったわね。今では、全員がチェルシーのように、敬語を極力使わず、普通のお友達として接するようになっています。学園在籍中の特権を利用して、平民たちも貴族とのコネを作るべく、友好関係を築けるよう頑張って動いているようですね。

「そういえばブランドンのいる一年B組、このお昼休みが終わってから《立志の儀》が執り行われるわ。彼、女性からの人気も高いし、召喚される者も女性かもしれないわよ?」

アンリエッタがイタズラも兼ねてか、クリスティーを揶揄います。さっきまで顔を真っ赤にしていた彼女もその意味を理解したのか、今度は顔を青くしていきます。

この子、見ていて面白いですわ。

「それは困る!! うう、そこまで考えてなかった。ブランドンに限って振り向くはずないけど、それでも四六時中いたら…どうしよう…」

あらあら、喜怒哀楽が如実に現れているわね。
クリスティーにブランドン関係の話をする際は気をつけましょう。

「ふふ、ごめんなさい。たとえ召喚されたとしても、クリスティー一筋の彼なら問題なく帰還を選択するわよ」

アンリエッタもわかっているようですね。
あら、チェルシーが周囲を見渡していますが、何かあったのでしょうか?

『チェルシー、どうかしたのですか?』

「ここ最近、同じ視線を感じるの。敵意とかはないから、多分興味本位で私だけを見ているようだけど、声をかけてこないから、なんかやだな~て思って」

視線ですか。

ティエリナとの模擬戦で、かなり目立ってしまい、ここ最近上級生からも声をかけられていますから仕方ないことかもしれませんが、同じ視線がこう何日も続いてしまうと、チェルシーとしても嫌ですわね。

私の光魔力を周囲に拡散させ、皆の意識を探り、視線の元を辿ってみましょう。

「あ、視線が消えた」

周囲の気配を探っていたところ、チェルシーの言葉と同時に、三人の男子生徒が一人の男子生徒に声をかけていました。そして、無理矢理食堂から廊下の方へ連れて行かれたようですが、皆の視線もそちらへ向いたようですわね。と言っても、ほんの十秒程すると、元の状態に戻りましたので、現状どうなっているか気になりますわ。

『チェルシー、まだ視線を感じますか?』
「もう感じないよ。私を見るくらいなら、普通に声をかけてきたらいいのに」

ということは、視線の消えたタイミングから考えて、先程の三人組に無理矢理廊下へ連れて行かれたあの男の子が、チェルシーを見ていたのでしょうか? 少ししか見ていませんが、茶髪の少し陰気くさい方でしたわね。

○○○

お昼休みも終わり、現在は五限目の授業がチェルシーのいる一年A組で行われており、昼食を食べ終えたばかりのせいもあって、六人ほどウトウトしかけている方々がいます。

授業期間中、私も暇なので周辺を散策したり、図書館で勉強したりと好き勝手に行動していましたが、今日はどうしましょう?

私がこれからの行動について考えていたところ、不意に強烈な魔力を校庭から感じました。位置的に見て、この場所は屋外の訓練場ですわね。女性教師やクラスメイトたちも気づいたようで、授業も中断したようです。

「皆さん、静かに!! もしかしたら、B組の立志の儀で何か問題が起きたのかもしれません。状況を聞いてきますから、皆さんは教室を出ないように、いいですね!!」

そういうと、女性教師は教室を出て行ったのですが、感知した魔力がどんどん増大していますから、かなり危険な事態に陥っていますわ。

『チェルシー、クリスティー、アンリエッタ、今感じているのは闇の魔力です。誰かが立志の儀にて、闇精霊を召喚したのでしょう。位は恐らく中級、何らかの原因で暴走しかけていますわ』

ここ最近になって、《精霊としての理》が私の中でも、ようやく少しずつ目覚め始めてきました。それもあって、同じ精霊であれば、属性と位を逸早く見抜くけるようにもなりましたが、召喚された直後でいきなりの暴走とは穏やかではありません。

『『『暴走!?』』』
『ええ、今はまだギリギリのところで踏ん張れているようですが、時間の問題ですわね。私が様子を…』

私が言い切る前に、周囲が暗闇に覆われてしまいました。
拙いですわ。
この感覚から考えますと、学園全体が闇に覆われたようですね。
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