冤罪で殺された悪役令嬢は精霊となって自分の姪を守護します 〜今更謝罪されても手遅れですわ〜

犬社護

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第三章 水面下で蠢く者たち

29話 チェルシーのお世話元は何処?

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私たちは話し合いを終えて、教室へ戻ろうと廊下を歩いています。

あの時、私が口に出そうとした瞬間、当の本人が『言わないで‼︎』と、慌てて私の口を押さえました。彼女曰く、今ここでフライングすると、授業後のホームルームで発表される際、リアクションに困るからだそうです。

言われてみればその通りなので、私も口を閉じました。ただ、これからお世話になる邸には私の知り合いもいますから、彼女の近況を知るためにも、是非チェルシーについていきましょう。

「あら? 随分、騒がしいですね?」

アンリエッタが私たちの向かう教室の方を見ています。
私もそちらを見ると、確かに何やら騒ついているようですわ。

『それじゃあ、チェルシー・オースコットの居場所は誰も知らないのね?』

これは女性の声? 
どうやらチェルシーを探しているようです。

「え、私に用なの? 誰だろう?」

私たちが教室に入ると、一人の女性がこちらを…というかチェルシーを凝視しています。
年齢は十六歳程でしょうか?
ウェーブがかった長い金髪、一見華奢に見えますが、腕まわりを見ると鍛えられているのか、意外と筋肉質のようです。

「黒い短髪、黒い瞳、あなたがチェルシー・オースコット?」
「え…あ…はい、そうです」

この方、チェルシーの全身を真剣に見つめています。
何が目的なのかしら?

「私は《ティエリナ・クバイルム》、身分差交流演習であなたのお世話元になるクバイルム侯爵家の長女よ。ちょっ~とフライングだけど、どうせ今日のホームルームで明らかになるから、今のうちに自己紹介しておこうかと思ってね‼︎」

クバイルム侯爵家!?
まさか、そちらからやってくるとは思いませんでしたわ‼︎
クラスメイトたちも、上級生の要件を聞いたことでかなり驚いていますが、どういうわけか全員がチェルシーに対し、同情の目をしていますわね。

「私の受け入れ先は、クバイルム侯爵家なんですか?」

チェルシー自身も、急に言われたせいか戸惑っていますわね。

《クバイルム侯爵家》、

私・ルーテシアが生きていた時、【レスト】という一人の平民男性冒険者が国際指名手配されていた盗賊団をたった一人の力で打ち破り、幹部たちの捕縛にも見事成功し、国から一代で終わる騎士爵を授かりました。その際に、国王陛下から【クバイルム】という姓を授与されています。

その後、レストは魔物討伐や犯罪組織の壊滅など目覚ましいほどの活躍を次々と打ち立てていき、五年前侯爵の地位にまで昇りつめた新進気鋭の高位貴族となったのです。

いわゆる《成り上がり貴族》に入るのですが、政治には一切口を出さず、国に巣食う犯罪者どもを治安騎士団と共に血祭りにあげていることから、その評価は貴族全般において極めて高い位置にあります。

現侯爵は英雄扱いされており、彼の子供たちも目覚ましい活躍を上げていることから、現在では《王家の剣》とまで言われていますね。私がその資料を見て最も驚いたのは、侯爵夫人の名前ですわ。

《アイリス・クバイルム》、旧名は《アイリス・オーベルシュ》。

まさか、あのアイリスが騎士爵の方と結婚し、ここまで昇りつめていたなんて驚きですわ。

「ええ、そうよ。それで~早速で悪いんだけど、今日の放課後、私と模擬戦しましょう」
「はあ!?」

いきなり模擬戦とは、大胆な発言をしますわね。

「国境を守るロイド・オースコット男爵、私たちクバイルム家同様、王家に牙を剥く連中に対し一網打尽にする力を持ち、隣国の貿易に関しても調停役を務める程の猛者。貴族の中で彼の姿を知る者はごく僅か、社交界の噂にも出てこない霧に包まれた謎の人物」

私も全然知りませんでしたが、お兄様に対する王都の中央貴族の評価は、かなり高いようですね。

「あの…父を褒めて頂きありがとうございます」

その言葉を聞いてか、ティエリナはニマ~っと笑い、会話を続けます。

「そのお父様の娘でもあるあなたも、かなり鍛錬を積んでいるようね。あなたの腕や足を見ていればわかるもの。本当なら、私はオースコット男爵に手合わせをお願いしたいのだけど、流石にそれは無理だから半ば諦めていたのよね。そうしたら、身分差交流演習の相手の名前を見て驚いたわ。居ても立っても居られなくなって、こうして模擬戦をお願いしにきたの。勿論、OKよね?」

ティエリナはその魅惑的な笑顔をチェルシーに向けています。
チェルシーにとっては身分差もある以上、このお誘いを断れませんわね。

「それは構わないのですが…」

チェルシーが何を言いたいのかわかります。
身分差がある以上、これを言っていいものか迷っているのでしょう。

「ああ、安心して。何の制限もなく戦えば、年齢的な意味合いや経験も含めて、私が圧倒的に有利なのはわかってる。だから、身体強化ありの体術で勝負しましょう。あなたの体術の実力だけでみれば、一年生の中でも最強の部類に入ることは調査済みよ」

そうなんですか!?
チェルシーって、そこまで強いんですか!?

「それなら問題ありません。私としても、一度戦ってみたいと思っていたんです!!」

【一度戦ってみたい】!?
なんですか、その発言は!?
クラスメイトたちも、ギョッとしていますわよ!!
さっきまで不安げだったチェルシーも、急に笑顔になりましたわ!!

上級生相手に、模擬戦を軽くOKするなんて正気の沙汰とは思えませんが、これはあくまで互いの仲を深めるための手合わせという感じですから、勝敗は二の次、怪我なども起きないと思いますが、少し不安ですわね。

「ふふ、嬉しいことを言ってくれるわね。あなたとは、気が合いそう。私のことは、《ティエリナ》でいいわよ。放課後、楽しみにしているわ。それじゃあ、邪魔したわね」

「ティエリナ先輩、模擬戦を楽しみにしています!!」

ティエリナは笑顔で教室を出て行きましたが、当然クラスメイトたちの視線はチェルシーに集まります。

「ふふふ、やったね!! ティエリナ先輩は上級生の中でもトップクラスの強者!! 一度でいいから体術だけで手合わせしたかったんだよね~。あ~放課後が楽しみ~身分差交流演習も俄然面白くなってきたよ~~やる気が漲ってきた~~」

上級生からの誘いを聞いて、顔を真っ青にするどころか、喜びの声をあげるなんて……もしかしてチェルシーって戦闘狂?

ラルカークを含めた周囲のクラスメイトだけでなく、隣にいるアンリエッタやクリスティーも、あなたの発言を聞いて引いていますわよ?
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