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第一章 姪との出会い

14話 ルーテ、自分の正体を知る

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現在、私は馬車の中にいます。

隣にチェルシー、向かい側にアルテイシア様となっており、チェルシーが自分の身に起きた出来事を話したことで、彼女も私を知ってくれました。

「《ルーテシア》様の牢屋で出会った浮遊霊のルーテ…ね、あなたの隣に座っているのね?」

アルテイシア様は柔かな笑顔で語っていますが、私の存在に疑問を抱いているようですね。ルーテシアのいた場所に、ルーテがいたのですから当然ですわ。一応、尋ねられた時の理由も考えていますが、果たして納得してくれるでしょうか?

「はい。ルーテ、私たちに姿を見せてくれないかな?」

やっと姿を見せる事ができます。
ここは馬車の中ですから、全く問題ありませんね。

ただ、二人がドレスを着ているせいか、私だけ浮いているような気がします。今後、オースコット家でお世話になるかもしれませんから、初めの挨拶こそが肝心ですわね。

「初めまして、アルテイシア様。浮遊霊のルーテです!!」

ここは、元気よく自分の存在をアピールしておきましょう。

「あら、可愛い女の子ね。初めまして、アルテイシア・オースコットよ。早速で悪いのだけど、あなたの目的と本当の名前を教えて頂けないかしら?」

………いきなり核心を突いてきますか。

「やっぱり、嘘ってわかりますか?」
「え、嘘なの!?」

チェルシー、私のことを全く疑っていなかったのね。
それはそれで、将来が心配です。

「ふふ、当然です。ルーテシア様のいた牢屋の中に、ルーテという名前の浮遊霊が都合よく出現するわけありませんから」

ここで本当のことを言っても、信じてもらえるとは思えませんし、私自身も自分の存在について疑問に思っていますから……

「わかりましたわ。まず、私には生前の記憶がほとんどありません。残っているのは、この世界の一般常識のみです。そのため、私自身の存在と名前もわかりません。この姿になって初めて意識を覚醒させた時、そこは薄暗い牢屋の中でした。周囲を散策している時、ある一画だけがおかしいことに気づき、そこを調査している最中にチェルシーの声が聞こえ、牢屋で遭遇した際、咄嗟にルーテと名乗ったのです。名前なしだと話しにくいと思うので、このままルーテでいきますわ」

多少嘘が混じっているものの、私の名前の決め手となるところは真実です。
アルテイシア様が、どう対応してくるのか気になるところですわ。

「なるほど、何故ラルカーク様を助けてくれたのですか?」

「単純な事です。あの儀式の結果に違和感を感じたからですわ。陣を解析したら、明らかにおかしな内容が混じっていたので、このままでは王家の権威が揺らぐと思い、チェルシーに動いてもらいました」

あの時は時間もなかったので、チェルシーに起こる面倒事について何も考えていませんでした。
あの実績を考慮すると、今後婚約者候補に入る可能性もありますね。

「そうですか……ラルカーク様を助けて頂きありがとうございます。そして、ニーナ・エクスランデを陥れて頂いたことにもお礼を言わせてください」

この方には、全てお見通しのようですね。ジェイクという魔術師が何者かに脅されていたこと、ニーナ・エクスランデが何らかの悪巧みを企んでいることを話しておきましょう。

○○○

私は、《立志の儀》の裏で何が起きているのか、まだ全貌を把握していませんので、自分の知ることを全てアルテイシア様にお話ししました。

「十中八九、ニーナの仕業ね。彼女は自分の娘をラルカーク様の婚約者にすべく、三人の婚約者候補の誰かに罪を着せようとしたのでしょう。本来陣に残されていた魔力の残滓も辿っていけば、おそらく三人のうちの誰かに繋がっているはず」

ラルカーク様の婚約者候補は、合計四人いるのですか。ニーナは公爵夫人ですから、その娘が候補に選ばれてもおかしくありませんね。

「あの方の娘でもあるアンリエッタ様は、優しくて気立のいいお嬢様なの。何もしなくても、ラルカーク様の婚約者になる可能性は十分あった。何故こんなバカな企みを抱いたのか、つくづく不思議に思うわ」

ニーナの隣にいた子供のことね。
母親を見て終始オロオロし、どう行動すべきか混乱していたわね。

「お母様、陣内にある異物と、ほぼ同一のものを入れ替えることって、普通の魔術師や浮遊霊にはできない所業だよね?」

ああ、やっぱりそこを追求してきますか。
私自身、何故できるようになったのか不思議に思っています。

「ええ、《陣の解析》、《異物の作成とその入替作業》、どちらもそんな短時間でできるものではありません。ルーテ…様は、おそらく魔法構築速度に長けた光の第三位以上の高位精霊でしょう」

「「様!?」」

いきなり《様》を付けられたので、私もチェルシーも驚きの声をあげてしまいました。薄々精霊かなと勘づいていましたが、流石に高位ではないでしょう。

「ま…まさか…自分は第五位の中級ぐらいかと思っていましたが?」

アルテイシア様は首をゆっくりと横に振り、更に衝撃的な一言を放ってくれました。

「いいえ、風の特異精霊フューイ様ですら、あなたの存在に気づいていませんでした。その証拠に、あの方は魔術陣の調査以降、周囲に警戒網を敷いていました。そして終盤、ほんの一瞬ですがチェルシーの近辺から膨大な魔力を感じました。その際、彼は殆ど顔に出していませんでしたが、かなり驚いていましたから」

柔らかな微笑みを浮かべながら、衝撃的なことを言ってくれました。
私が第三位以上の高位精霊? 

あはは…そんな…まさか…全然その自覚がありませんわ。フューイ様だって、私が低級精霊だから無視していたとばかり思っていましたわ。

「ルーテって、そんな凄い存在だったの?」
「私自身もわかりませんわ。この力自体も、ついさっき目覚め始めたばかりなんですもの」

第三位以上となると、《特異》・《帝異》・《精霊王》しかありませんわよ?
どの位であっても、公になれば大騒ぎになることは間違いありませんわ。

「あの…《様》付けはやめてください。一般常識だけ備わっているとはいえ、どうにも歳上の方にそう言われるのはむず痒いですわ」

生前侯爵令嬢だったとはいえ、今は全くの別人ですし、貴族でもありません。私がそう言うと、アルテイシア様は何故か目を見開き驚かれました。私、変なことを言いましたか?

「まさかとは思いますが、ルーテ…の言う一般常識とは、《人》としての常識ですか?」
「はい、そうですけど?」

あら?
何故かアルテイシア様の顔色が悪くなってきているのですが?

「生まれたばかりですから、力の目覚め方は精霊にもよりますけど……まさか精霊としての《理》ではなく、人としての《理》が刻まれている?」

理(ことわり)?
初めて聞く言葉ですわ?

「《理》ってなんでしょうか?」

私の言葉を聞くと同時に、アルテイシア様が気絶してしまいました。
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