冤罪で殺された悪役令嬢は精霊となって自分の姪を守護します 〜今更謝罪されても手遅れですわ〜

犬社護

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第一章 姪との出会い

7話 波乱の幕開け ※チェルシー視点

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ラルカークの誕生日パーティーが始まった。

多くの貴族たちが彼を祝福し、彼も満面な笑みを浮かべ、それに応えている。殆どの令嬢たちは、彼の醸し出す雰囲気と笑顔にやられ惚けている状態だ。

一応、私と彼とは幼馴染の関係にあたるけど、私にとって彼はただの厄介者に過ぎない。オースコット領は、同盟国でもあるアスカネラ王国と隣接し、物資の流通が激しいこともあり、領としてとても栄えている。そのせいで王都でも注目を浴びているのか、あいつは十歳の時に二十名の騎士を引き連れて、私の住む領都へ視察という名目でやって来た。父から領地経営について真剣に聞いているラルカークを見たことで、当初私も好印象を持っていたけど、二人っきりになった時、あいつのあの一言で、その印象は真逆へと変化した。

『君が魔女ルーテシアの姪だと父上から聞いたが、普通の女の子だな。まあ、王都にいる肉食系令嬢たちよりはマシか』

《魔女》という言葉で、私の頭の中は怒りで真っ白になり、気づけばラルカークのほおを引っ叩いていた。国王陛下は公務の合間を縫いながら、時折父の下へやって来てルーテシア叔母様に関する情報を互いに話し合い議論していることを、私は小さい頃から知っていた。あの時、ラルカークは陛下からこちらの事情を聞いているはず、にも関わらず私の叔母を《魔女》と言った。その言葉が、どうしても許せなかった。

『陛下から事情を聞いているくせに、勝手なことを言わないで!! 叔母さまは、《魔女》なんかじゃない!! そもそも治安部隊が真犯人を突き止められず、情報に踊らされたせいで、叔母様は殺されたんだ!! だからゴーストになってまで、十日間も無実を訴えていたんだ!! それを高位貴族共は国の繁栄のため、面白く脚色して国中に広めたんでしょうが!!』

彼は私の行動と言葉に目を見開き、こう呟いた。

『全ては……君の推測に過ぎない……が、不用意なことを言ってすまなかった。王族として、一個人として謝罪する』

あの日以降、ラルカークは叔母さまのことを《魔女》と言わなくなった。そして月に一度、休養という名目で必ずオースコット領に来て、父と話し合い、私もそれに付き合わされた。私の親友でもあるクリスティーとも知り合い、定期的に小さなお茶会も開くようになった。色々と話し合ったことで、《友人》という形に落ち着いたけど、私の本心は今でもあいつを嫌っている。ラルカーク自身も何度か真摯に謝罪してくれたことで、彼への印象もかなり良くなってはいるけど、どうしても人として好きになれない。理由は簡単、時折私の気持ちを無視した気遣いをしてくるからだ。

【今日はラルカークの誕生日で、私の誕生日でもある】
だから、彼は『チェルシーも祝福される側へ来ないか?』と言い、私を誘った。

そんな気遣いは無用だ。

男爵令嬢の私がラルカークと一緒に入場すれば、絶対に誤解され、学園での私の立場が危ういものになる。彼としては王族ではなく、一人の人間として言ってくれた言葉なんだろうけど、あまりにも不適切すぎる。場所が彼の私室で、周囲には私とクリスティーだけだからよかったものの、誰かに聞かれていたら間違いなく広まっていたはずだ。しかも、今回特別に《立志の儀》がこの場で行われる。もし私も祝福される側にいたら、まず間違いなく一緒に参加させられていたわ。

あいつは王族として、決定的に欠けているものがある。

陛下も王妃様もそれがわかっている上で、その矯正を私とクリスティーに任せている節があるわ。クリスティーは伯爵令嬢だから、彼と話し合っていても怪しまれないだろうけど、私は男爵令嬢、必要以上に学園内で彼と話し合えば、いつか必ず《ルーテシア叔母さまの姪》という秘密もバレてしまう。私的には、ラルカークとこれ以上関わりたくない。でも、陛下から言われている以上、友達を続けないといけない。

「それでは、只今から《立志の儀》を執り行いたいと思います。皆様、庭園の方へ移動をお願い致します」

司会の男性が、庭園に出るよう私たちを誘導する。私はクリスティーを連れて庭園へ移動すると、大きな円形召喚魔術陣の描かれたシートが芝生の上に敷かれており、陣内には《魔術回路》と呼ばれる細やかな紋様が刻まれている。ラルカークがこの陣に魔力を流し込むことで、魔力が回路を満たしていき、術が発動する。

ラルカーク、あなたは一度大きな挫折を負うべきなんだよ。人としての痛みを知ることができれば、これまで私に言ってきた優しい言葉がどれだけ私を傷つけてきたのかがわかるよ。と言っても、《立志の儀》で召喚される生物は、召喚者の資質に大きく左右されると聞いているから、彼が失敗を犯すはずもないか。

「チェルシー、どうしたの?」
クリスティーが、私を気にかけてくれているわ。

「ううん、なんでもないよ。ただ、こちら側で良かったと心底安心していたの」

彼女は私の事情を全て知っている。
だから、私の気持ちをいつも理解してくれる数少ない親友の一人。

「ああ、あの件ね。あの方も、あなたのことを心配してくれているのよ」
「あいつ、『馬鹿なの? そっち側に行けるわけないでしょう? 自分の立場を考えろ!!』と一蹴しただけで落ち込んでたわ」

私の辛辣な言葉に対して、クリスティーは苦笑いを浮かべる。

「あの人に対して、そこまでストレートに言えるあなたを尊敬するわ」

ラルカークは王族だけど、私は一人の友人として忠告しただけ。あいつはきつく言わないと、自分の過ちに気づかないのよ。私の辛辣な言葉に対して、クリスティーは毎回ラルカークを少しだけフォローし、私にも注意してくる。彼女のおかげで、なんとか友人関係を築けているんだよね。

国王陛下とラルカークが、召喚魔術陣の敷かれたシート近くへとやって来た。陣の周囲には、騎士と神官合わせて十名の精鋭が警戒を敷いている。私たち見学者は事故が起きても巻き込まれないよう、陣から少し距離を開け、《立志の儀》の始まりを待つ。

「只今より立志の儀を執り行う。儀式の最中に邪魔立てすれば、如何なるものであろうとも、処罰対象とする。ラルカーク、始めなさい」

国王陛下が《立志の儀》の開始を宣言する。私の屋敷で見る陛下はいつも穏やかな顔をしていたけど、今はこの国のトップとして相応しい威圧感ある勇ましいものとなっているわ。

「はい!!」

ラルカークが跪き、召喚魔術陣の魔力注入口へ手を置き魔力を放出し始めた。陣内が魔力に満たされると、ラルカークはその中に入っていく。ここ以降、生物を召喚するにあたっての法則は存在しないため、術者の思うがままに行動していいとされているけど、どうするつもりだろう? あ、彼が天空を見上げ、両手を掲げ出した。

「私はラルカーク・イデル・カーディナル、王族としてまだまだひよっこだが、私は歴代の国王を超えるほどの存在に成長してみせる!! 我が魔力に引き寄せられる存在よ、我が声に応えよ!!」

わざわざ天空を見上げる意味がわからない。
自分こそが、空すらも支配する王に相応しい存在だと誇示したいのだろうか? 

彼の声に呼応して、召喚魔術陣が輝き始める。その光はどんどん大きくなり、私たちは目を閉じる。光が収まっていくのを感じたため、私が目を開けると、ラルカークや国王陛下を含めた周囲の者たち全員が言葉を失うほどの粒らな可愛い目、小さな体、黄色い毛に覆われた一体の儚い存在がそこにいた。

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