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間章2 勇者達、シルフィーユ王国へ

春人の疑問

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○○○  桜木春人  視点

現在、俺達は風の神殿に向けて移動中だ。厳しい訓練を5日間も続けたせいか、身体が完全に慣れてしまった。移動訓練も30分から1時間に増加されたけど、現在は少し疲れた程度になっている。リフィアさんの魔法があるからとはいえ、自分の身体が少し怖いよ。素手での模擬戦以降、俺達は何度もバーンさんに挑んだが、未だに1発も攻撃を当てれていない。バーンさん、マジ強いです。特に真也はバーンさんの強さに惚れ、その日以降、師匠と呼ぶようになった。


そういえば移動中、水と地と風の精霊に何度か出会ったな。ただ会う度に、

【ごめん、今は力を貸せないんだ。もう少ししたら回復するから待ってて】

と言われた。なんか、余りに悲しそうな表情をするから質問出来なかった。多くの疑問が解決出来ずにいるモヤモヤ感、早く解決させたいところだ。


バーンさんの話によると、あと2日程で大森林を抜けれるそうだ。

「春人どうしたんだ?元気がないな?」

「ああ、義輝か。バーンさんのことだよ。どうやったら攻撃を決めれるか考えているんだ」

「あの人は化物だな、底が全く見えない」

「おいおい、春人、義輝、いいじゃねえか。その方が面白い。超えるべき相手が高ければ高い程、やり甲斐があるってもんだ」

まあ、確かにな。

「昨日も、近くにいた風の精霊に協力してもらって攻撃を試みたんだが、簡単にいなされた。その後、どうやって攻撃を当てれるか風の精霊と相談したんだが、気になることを言っていたんだ」

「「気になること?」」

「ああ、【バーンに勝つのは現状無理だよ。あの方の加護があるからね】だとさ」

「「あの方の加護?」」

「それが誰なのかは教えてくれなかった」

「女神スフィアか、もしくは女神サリアのどちらかじゃないのか?」

義輝も疑問に思うよな。

「違う。俺も疑問に思って、女神サリアかと聞いたら、

【絶対違う!あんな---なんでもない】

て感じで凄く怒っていたんだ。次に女神スフィアかと聞いた瞬間、

【違うよ。今は誰かは言えない】

今度は凄い悲しい感情が伝わってきたんだ。どうも、出会う精霊みんなが女神サリアに対しては怒りの感情を、女神スフィアに対しては悲しみの感情を持っていたな。女神スフィアに何かあったのかもしれない。一応、俺にも、あの方の加護をもらえるのかと質問してみた。

風の精霊は、

【今は無理。今の時点で加護を付けると、面倒な事が起きるからね。ごめんよ勇者、詳細な事はまだ話せないんだ。もう少ししたら、あの方があれになってくれる。そうしたら、僕達精霊は大幅に力が上がるから、君達に協力出来る】

と言っていたよ」

「気になる言い方だな。俺達の知らないところで何かが起こっているのは間違いないぞ。」

「ああ、精霊の弱体化の理由、あの方、女神スフィア、そして女神サリア----全てが必ず絡んでいるはずだ。現状、風の神殿にいる大精霊にあっても、聖剣に精霊の力を付与出来ない可能性が高い。せめて理由を聞いてみよう」

「なあ、ふと思ったけど、魔法は正常に使用出来るよな。精霊の弱体化と関係していないのか?」

真也、今更、それを言うか。ここは、義輝に説明を任せよう。

「真也、魔法は邪法を基に出来ている。精霊の力とは関係ない。精霊の力は、この異世界スフィアタリアを維持するために必要不可欠なものなんだ」

「悪い、忘れてたぜ。その精霊が弱体化しているとなると、まずいんじゃないか?」

「ああ、まずいな。春人、精霊は他に何か言っていないのか?」
「言っていないな」

手掛かりが少な過ぎる。鍛錬が終わった後、バーンさんに聞いてみるか?


◯◯◯


今日の鍛錬を終え、これまでに感じた疑問をバーンさんとリフィアさんに話してみた。

1) 精霊の弱体化
2) 精霊が言っていたあの方
3) 女神スフィアと女神サリア

「これが俺達の疑問です。何か知っていますか?」
「ち、お喋り精霊め!勇者達を不安にさせてどうする!」

やはり、何か知っていそうだな。

「ああ、知っている。と言っても、俺達もつい最近になって知ったところで、完全に把握していない。まず、女神サリア、こいつに関しては何者なのか俺達にもわからん。女神というぐらいだから、スフィアと何らかの大きな繋がりがあるとみて間違いないだろう。現段階で言えるのは、女神サリアは俺達に一切協力しないことだ。次に、精霊の弱体化、これは間違いなく女神スフィアの力が弱まっているからだ。予想以上に封印が弱まってきているから、女神スフィアの方でも色々と動いてくれているんだ。そのせいで、女神自身の力が弱体化し、精霊の力も弱まっているということだ。次に、精霊の言っていた【あの方】は、弱体化した女神を助けるために動いているところだ。女神の力を回復させることは出来ないが、精霊の弱体化に関してはそいつでも対応可能だそうだ。俺達が知っているのはここまでだな。

バーンの心の中
(おいおい、精霊の弱体化は初めて聞いたぞ。サーシャの奴、全部教えておけっての!まあ、精霊の弱体化の原因は、女神スフィアが管理世界から逃亡したからだろうな。さすがに、逃亡は隠しておいた方がいい、不安にさせるだけだ。精霊が回復すると言っているんだから、話を合わせておけば、まあ大丈夫だろう。気になるのは、【あの方があれになる】だな。ただでさえ邪神なのに、次は何になるんだよ!)」


なるほどね、女神スフィアが動けない分、「あの方」がフォローしてくれているということか。ただ、精霊が悲しい表情をしているのはなぜだ?単に女神スフィアを心配しているだけなのか?何か違う気がする。それに女神サリアは何者だ?なぜ、清水を邪族に変化させた?真也や義輝の話から察すると、ただ気に入らないからと言っていたが、そんな女神がいるか?バーンさんも完全に把握していないと言っていたから、まだテルミア王達が調査中なんだろう。

確実に言えるのは、女神サリアは俺達の敵だ!邪王を再封印したら、絶対に探し出してやる。


○○○


2日後(大森林には入ってから10日目)、ようやく森を抜けエルフのシルフィーユ王国に入る事ができた。大森林では全滅しかけたけど、バーンさんとリフィアさんのおかげで生き抜く事もできたし強くもなれた。実際、昨日Aクラス邪族3体と遭遇し、戦闘となった。さすがに魔力じゃなくて邪力纏いを使用してきたのは少し驚いたけど、俺達も魔力纏いを使って応戦した。途中、卑怯な連携をとってきたりもしたが、いち早く義輝と夕実が状況を察知し、対処方法を教えてくれることで焦ることなく難なく勝利した。この時はバーンさん達も褒めてくれたな。ただ、注意もされた。

「今回大森林で戦ったAクラス達は、能力値的に見ればBクラスの上位と大きな差はあまりない。だが、Aクラスともなると知能がより高くなることで、今回のような連携をとってくる者もいる。また、Aクラス上位にもなると、邪力纏いのレベルも上がり、実力は限りなくSクラスに近い。上位の奴らは単独行動している者が殆どで、正々堂々の力と力の勝負を行う者が多い。だが、決して油断するな!特に勇者と聖女がいるお前達の場合は、たとえ上位であっても、確実に殺すために卑怯な連携を取ってくる可能性が高い。注意しておけ!」

「「「「「はい!」」」」」」

「それともう1つ、どうも邪族達は、『魔力纏い』と同じスキル『邪力纏い』を完全に把握していない。Sクラスともなると、全員が持っているがAクラス以下になると、持っている者と持っていない者がいる。用心しておけよ」

これには驚いたね。確かにシャドウは、魔力纏いを知らなかった。今回の大森林で3日目に遭遇した邪族達も持っていなかった。今後は気を付けないといけない。


さて、無事に森を抜けれたことだし、次の目指すべき場所は王都か。

「俺達の今の移動速度で走って1時間程のところに、城塞都市マルティークがある。今日から2日間、そこに滞在するぞ。あと街にいる間は、訓練はなしだ」

「え~、2日間も滞在するんですか?しかも訓練もないんですか!」
「師匠、どういうことですか!」

美香や真也が驚くのもわかる。なんか、調子が狂うな。

「全員6日間、バーンの訓練を続けているわ。私の魔法があるから、身体への負荷は最小限に抑えれているけど、精神面はそうはいかない。ずっと森の中を移動し続けているから、そろそろ休息をとらないとね」

あ、そうか、これが当たり前のような感覚になっていた。街に到着したら、あの地獄の訓練から一時的に解放されるのか。普通だと「よっしゃー」と喜ぶところだが、なんか妙な気分だな。


本当に1 時間程で街に到着した。ふと思ったんだが、移動速度自体が非常に速い。馬車だと、どの程度の時間がかかるのだろうか?

「リフィアさん、ふと思ったんですけど、馬車で移動した場合、ここまでどのくらいかかるんですか?」

「そうね、多分2時間くらいじゃないかな?」

げ!それって馬車のスピードの2倍近い速さで移動したということか!知らない間に、地球の人間の限界を超えていたのか。

「城塞都市だけあって、凄い魔法城壁ですね」

夕実の言う通り、魔法城壁というやつか。王国の授業で習ったけど、国の邪族に対する防衛方法はそれぞれ異なる。シルフィーユ王国は、魔国で魔法が開発されて以来、ずっと新規の魔法や魔導具の開発に力を注いでいる。いつか復活するかもしれない邪王に対抗するためだそうだ。この魔法城壁は最高傑作とも呼ばれていて、発動するとドーム型のバリアを形成するらしい。物理や魔法攻撃を防いでくれるそうだ。どの程度の耐久力があるのか気になるところだ。


「ふふ、ここは大森林から近いわ。時折、邪族が攻めてくる場合もあるの。シルフィーユ王国の防壁の要ね。当然、王都にもあるわよ。さあ、街の中に入りましょう」

街の中に入ると、長閑な畑があちこちにあった。城壁の向こうは、大都市と思っていたよ。なんか凄く落ち着く。

「春人、凄いね。なんか日本の田舎を思い出すよ」
「ああ、てっきり大都市があると思ってた」

「真也君、何してるんですか?」

「いや、どんな作物を栽培しているのかと思ってな。西瓜に似たような物もあれば、メロンみたいな物もあるな」

「お~い、お前ら何してる?置いていくぞ!」

いけね、周りばかり見ていて、バーンさんとリフィアさんから離されてた。

しばらく進むと、また城壁が見えてきた。門を抜けると、今度は本当に大都市のような賑やかな場所に出た。

「ふふ、みんなマルティークにようこそ。宿を確保した後は、出発するまで好きなだけ休憩しなさい」

おーー、これは探索しがいがあるぞ!


○○○


宿屋を確保した後、俺達5人は街を散策している。ここにきて、美香と夕実の食欲のスイッチが久しぶりに入ったな。ここまでの旅路で、あらかじめ買っておいた揚げ物が底をついたからな。今日はゆったり休憩して、明日は美香と一緒に邪心薬と人に戻せる薬について、色々と調べてみるか。清水は、今、何やっているんだろうな?待ってろよ、必ず元の人間に戻してやるからな!

「夕実~、揚げ物あるかな~?」
「是非あって欲しい、なければ作るまで!レシピ貰ってるからね」

お前ら、どれだけ揚げ物に執着しているんだ!太るぞ!

《ギラ》

げ、思っただけで、殺気飛ばされた!心を読めるのかよ!

「春人、俺も真也も同じことを思っていた。ただ春人だけ、顔に出ていたぞ」
「え、マジで!」
「大マジだ、気をつけろよ。女は、そういうことには敏感らしいからな」

別の事を考えよう。

その後、市場に野菜の天ぷらがあった。当然、美香と夕実は目を輝かせて食べていた。俺達も食べたけど、あっさりしていて美味かった。色々と聞いたら、エルフ達は野菜を主食としているようで、肉は軽い一品と考えているようだ。ここに来るまで、肉がメインだったからありがたいな。それにしても、ここの野菜は甘くて美味い。日本の高級料亭とかで食べる野菜と似ている。なんか、こうやって食べていると、心が穏やかになるな。これまでが殺伐としていたからな~。あ、そうだ、バーンさんとリフィアさんに清水のことを伝えておこう。あの人達なら信頼出来るし、何か良い情報を持っているかもしれない。なんで、こんな重要なことを見落としていたんだ?それだけ精神的な疲れがあった-----ということか。なるほど、訓練も良いけど、時にはこういう休息も必要という事がわかったよ。


食べ物を充分堪能した後、俺達は宿に戻った。真也も義輝も疲れていたのか、すぐ眠りに落ちた。


今がチャンスだな。バーンさんの部屋に行ってみよう。
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