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4章 ガルディア帝国 闘技会編

サーシャ、学園に行く

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主人公視点に戻ります

○○○

ビルブレムの街中にいる邪族の討伐、今日はこれで終わっておきましょう。
あ、シュリがやって来た。

「そっちも終わった?」
「ああ、結構進入していたんだな。これだと、まだまだいるな。」

「まあ、いるでしょうね。見つけ次第、即討伐ね。」
「いいのか?重要な情報を持っているかもしれないぞ。」

「そんな情報必要ない。大方、闘技会本戦が最も盛り上がっている最中に、王の胸を貫く算段でも立てているんじゃないかな?そして、王が死んだのを見届けた後、上空から時空の切れ目が発生し大量の邪族が押し寄せてくるパターンでしょうね。」

基本邪族は、ただ人を襲い魂を邪王に持って行くだけではない。その時に生じる悲愴感・混乱・恐怖・憎悪といった怨念の力が重要になってくる。よって、この闘技会を最も混乱に陥れる状況を作るはずだ。それに、邪神の記憶の中にある戦法や黒幕が関与しているとなると、今話した戦法を使ってくる可能性が高い。

「おいおい、決めつけるのは良くないぞ。」

「決めつけているわけじゃないわ。邪神の戦法や黒幕連中の事を考えると、多分こうしてくるだろうと思っているだけよ。黒幕連中の何人かは、おそらく元日本からの召喚者、そいつらが考えそうな戦法を考えると、そうなるのよ。まあ、当然、他にも仕掛けてくる可能性は十分にあるけどね。」

「邪神の記憶と黒幕から算段される戦法ということか。」

「そういうこと。とりあえず、闘技会で王に仕掛けてきた場合、あの方法をとるわよ。」
「ああ、あれか。父さん、びっくりするだろうな。まあ、俺達の意図に気付くだろう。」

私達の方でも、着々と準備を進めている。準備といっても、殆ど実行するのはシュリなんだけどね。今回もスフィアートと同じで、影で動く。私の戦いは、黒幕連中が現れてからが本番だ。ここまで多くの修行を行い、スキルや魔法を練習してきた。基礎能力値も1億超えたせいでどの程度かわからないけど、多分2億前後じゃないかと思う。黒幕連中が、どこまで強いのかが問題ね。

「サーシャ、クラスメイトとは連絡をとらないのか?」
「やろうと思えば出来るけど、どうして?」

突然、何を言っているのだろうか?

「せめて、勇者や聖女に教えてはどうかと思ってな。向こうもサーシャを元の人間に戻すための方法を探してくれているんだろう?」

「ええ、今もエルフの国で探しているんじゃないかな?勇者と聖女は、私が邪神になったことを知らない。今言ってしまうと、クラスメイト達は問題ないと思う。でも、周辺の連中が揉め事を起こすと思う。例えばテルミア王国の貴族連中ね。スフィアートでも私が邪神であることを知っているのは、極僅かよ。だから、直接は言わないわ。」

「うん、どういうことだ?」

「スフィアートの戦争の時に知り合った冒険者達がいるの。その人達は信頼出来るから、私が邪神であることを知っているわ。もしかしたら、その人達にも邪神の加護がついているかもしれないわね。その中にSクラス冒険者のバーンさんとリフィアさんがいるわ。現在、その2人が勇者達を護衛してくれているはず、私のことも間接的に教えているかもね。」

「そういうことか、抜け目ないな。」

まあ、桜木君や美香達のことも気になるけど、今は闘技会ね。今日の調査は、これで終了。夕食も食べたから、お風呂に入ってゆっくり休もう。


○○○


シュリと一緒に専用部屋に入ると、中は妙な雰囲気だった。あ、これは誰かが何かやったわね。

「なんか妙な空気だな。誰か何かやったのか?」

シュリがいち早く状況を察知した。すると、フィン、イリス、リッカの3人が《ビクッ》となった。この3人がリッチかジンにお叱りを受けていたのかな?

「ジン、説明してくれる。」
「はい、実は----」

なるほど、フィンは貴族と決闘、イリスは学園生に魔力纏いを教え、リッカは召喚部門の試合途中に乱入したと。

「それで、ジンが軽く3人を叱ったというわけね。大丈夫、お仕置きはしないから。」

それを聞くと、3人ともホッとしていた。

「フィン、お互い名前を言っていないからいいけど、これからは挑発するような言い方には注意しなさい。」

「はい。」

「イリスは、まあいいでしょう。気の毒なのは、魔力纏いを教えた学園生ね。しばらくの間、学園生全員から質問攻めにあうでしょうね。」

「え~~!そこまでですか。」

「当たり前でしょう。スフィアートなら問題なかったけど、まだ広まっていないガルディア帝国は別よ。あのスキルは、ひ弱な魔法使いにとって必須スキルになるわ。ましてや学園生は能力値も発展途上だから、是か日でも欲しがると思う。まあ、取得方法は簡単だから大丈夫と思うけど、私が明日見に行ってみるわ。イリスも来なさい。」

「はい、わかりました。」

フィンもイリスも少し気落ちしているか。まあ、いい薬になったかな。

「リッカは試合中乱入するのは良くないけど、状況を考えたら仕方ないわね。人助け、偉いわよリッカ!」

「やった、褒められた!」

「でも観客席にいる時は、食事のことは考えないようにね。例え魔力が出ていなくても、邪族は本能で上位を察知しやすいのよ。というか、あなたも元邪族だからわかるでしょ!注意するように。」

「はい、すいません。」

スフィアートで、私が仕出かしたことを思い出すわ。私自身ヘマやっているから、あまり大きく叱れないわね。

「さあ、みんな食事は終わったみたいね。フルーツでも食べましょうか?」

この一言で、場の空気が穏やかになった。

果物を食べながら、フィンが話しかけてきた。

「師匠達は何をやっていたんですか?」

「私とシュリは、皇帝が泊まっている部屋に忍び込んで、皇帝に内緒で『ディストーションフィールド』をかけてきたわ。その後、私は潜んでいる邪族の討伐、シュリは再度部屋に忍び込んで、皇帝と話をしてから潜んでいる邪族の討伐をやったわね。」

「あのお姉様、皇帝の部屋に忍び込んだ時点で重罪なんですけど。」

「皇帝を救う為だもの。そのくらい、許容範囲でしょ?」

「「あはは」」

フィンとイリスは、苦笑いを浮かべた。

「サーシャ様、明日は儂、ジン、フィン、リッカが潜んでいる邪族を討伐しましょう。サーシャ様、イリス、シュリは学園を楽しんで来てはいかがですか?」

おお、リッチ良い提案ね。

「そうね、明日も予選だから大丈夫でしょう。4人とも、邪族討伐任せたわよ。」

「「「「はい!」」」」


○○○


闘技会2日目、今日はリッチのお言葉通り、学園で遊ばせてもらおう。

「シュリ、イリス、学園に行きましょう!」

専用部屋を出て通りを歩いていると、昨日の出来事をみんな話し合っていた。

【おい、聞いたか!シルバー闘技場の予選で、オーガナイトが主の制止を振り切り暴れようとしたところを小さな女の子が一撃で昏倒させたんだってよ。しかも、オーガナイトはその一撃で武舞台にめり込ませて頭だけ出ていたらしい。】

【マジかよ!俺が聞いたのは、学園のことだ。小さな女の子が近距離用の魔導具で10000を出したらしい。しかも、その子曰く、『魔力纏い』ていうスキルを覚えて鍛えれば、やり方次第で10000が出るらしいぞ。実際、学園の生徒に教えて、そいつは4000を出したらしい!】

【それは嘘だろ。小さな女の子が10000はないだろう?】


うーん、予想以上に騒ぎになっている。特に、『魔力纏い』の件をみんな話し合っている。これは学園長に会って、正式に教えた方が良さそうね。イリスを見ると、ハムスターのようにオタオタしていた。これはこれで可愛いわね。

「なんでこんなことに、ここまで騒ぎが大きくなるなんて、お姉様~。」

「学園長に会って、正式に『魔力纏い』を教えましょう。その方が手っ取り早いわ。今頃、イリスが教えた学生は、質問攻めになっているわね。質問から解消してあげましょう。」

「すいません、お姉様、お願いします。」

「『魔力纏い』、これからの邪族との戦いで、必ず必要となるスキルだ。俺は、むしろイリスに感謝しているよ。これだけの騒ぎが起こらなかったら、教えるのは闘技会が終わって落ち着いた頃だったろう。イリスの行いは、戦死者の数を大幅に軽減してくれる素晴らしい行為なんだ。落ち込むことはないさ。」

「うう、シュリさん、ありがとうございます。そう言ってもらえると救われます。」

うーん、シュリはこういう言葉で女性を落としていきそうな気がする。実際イケメンだし、すれ違う女性みんなシュリを見ている。誰がシュリを射止めるのだろうか?

学園に到着すると、想像以上に賑やかだった。

「フィンと対決して、失禁した貴族の今後が気になるところね。その辺の人に聞いてみましょう。」

「そんな奴のことなんて、どうでも良いですね。」

厳しいわね。本当にどうでもいいんだけどね。

昨日の模擬戦のことを学生に尋ねてみると、負けた貴族は保健室に直行して、回復魔法ですぐ意識を取り戻したそうだ。そいつは事の顛末を聞いた後、激昂し急いで家に連絡したらしく、今頃フィンを探しているんじゃないかと言っていた。模擬戦に負けて失禁したのも、全て自分の責任なのにアホね。

「今頃、家の連中を引き連れて、フィンを探しているわね。」
「おい、サーシャ放っておいていいのか?」

「別にいいわ。どうせ、フィン達にボコボコにされて返り討ちにあうでしょう。最後には全員失禁して、その辺に放り出されてるか貴族の家の玄関に吊るされているかでしょうね。未来永劫、そいつらは失禁貴族として、名を連ねていくでしょう。」

「うわ、それ最悪ですね。リッチさん達ならやりかねないですね。」
「フィンと会ったばかりに運のないやつだ。遭遇しないことを祈っておこう。」

多分、遭遇するでしょうね。小説とかの場合、あの手の輩は遭遇してボコボコにされて恥を掻くパターンが多い。夜、フィンに聞いてみよう。どうか期待通りでありますように。

「お姉様、絶対そうなって欲しいと期待していませんか?」

「そうなったら面白いだろうな~とは思っているわね。」


さて、貴族の状況がわかったところで、近距離魔導具のところに行ってみましょう。
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