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2章 テルミア王国 スフィアート編

マウロ司祭との会談

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翌日の朝9時、私達は大聖堂にある礼拝堂へやって来た。マウロ司祭は祭壇でお祈りをしており、周囲には信者の人達もいた。

「時間通りじゃ。君達、ここにいる女性達は私の来客だ。しばらく私の部屋で仕事の話をするから、誰にも近付けないようにしてくれ。いいな」

信者達は静かに頷き、自分達の持ち場に戻った。司祭の部屋には入った時点で、『サイレント』をかけておいた。イリスは今迄我慢していたのか、部屋に入るとすぐにマウロ司祭に抱きつき、泣き始めた。

「マウロ爺、怖かったよ~~。いきなり、大森林に転移するし、邪族に追われるし大変だったんだよ~」

抱きつかれたマウロ司祭は、見事に困惑していた。この子は誰だ?という表情になっていた。

「『サイレント』を唱えたので、アイリスの名前を出しても大丈夫ですよ」

「そうか、助かるわい。----それでサーシャ、まさかとは思うが、この子がアイリス様か?姿・形・気配も完全に別人じゃないか?」

「アイリス、ネックレスを外しなさい。そのままじゃ誰かわかってもらえないわよ。」
「あ、えへへ、お姉様、忘れてました」

「へ?お姉様?」
「アイリスを助けた時から、そう呼ばれていて」

ネックレスを外すと、元の姿、アイリスに戻った。

「ア、ア、アイリス様、う、うう、ご無事で良かった」

2人して抱き合い、喜びを分かち合った。こういう時は、黙って見ておくのがいいわね。フィンも、わかってるみたいね。

しばらくすると、2人とも落ち着き、マウロ司祭が話し始めた。

「サーシャ、フィン王女とアイリス様を助けて頂きありがとう」

「フィンについての情報は、もう全世界に出回っているんですか?」

「ああ、つい最近になって、レーデンブルクからも伝令が届いたよ。現在、フィン王女は、護衛である冒険者と共にレーデンブルクに向かっているという事もわかった。その護衛がサーシャとはな」

「レーデンブルクとこの国の王には、フィンの行方不明事件の詳細や現在の状況を伝えてあります。そろそろ、邪族も気が付いてフィンを探しているかもしれませんね。まあ、見つかっても、全員討伐しますけどね」

「簡単に言うのー。じゃが、不思議とサーシャが言うと説得力があるな」

さて、そろそろ今後の事を話していかないとね。

「それで、今後の事についてですが、洗脳されている残り5人の人物の特定をマウロ司祭にお願いしたいんです」

「なに、儂がか?見極め方がわからんぞ」

それについては簡単だ。アイリスとマウロ司祭に、フィンの時と同じ様に魔力の纏い方を教えた。2人とも、魔力循環と魔力操作のレベルが高いから1時間程で修得出来た。ただ、フィンを見ると、意気消沈していた。

「フィン、どうしたの?」

「うう師匠、私は『魔力纏い』を覚えて、レベル3になるまで丸1日かかりました。なのに、お二人は1時間でレベル3になってます。私、才能ないんでしょうか?」

あ、そうだったわね。一応、フォローしてあげましょう。

「アイリスもマウロ司祭も魔法使いで、魔法循環と魔法操作のスキルレベルも高い。すぐに覚えて当たり前よ。フィンの場合、魔法循環と魔法操作がレベル1の状態から魔力纏いレベル3になるまで、4日程しか経ってないわ。貴方は、充分に才能あるわよ」

「そうじゃよ。フィン王女、落ち込むことはない。それにしても、『魔力纏い』というスキルは凄いの。使っていると力が向上しているのがわかる。今迄、このスキルに気が付いた者はおらんぞ。サーシャ、世間に発表せんのか?」

「私からはしません。世間に大々的に発表すると、邪族に注目され、すぐに利用されますから。ただ、少しずつは広めていくつもりです。今でも、マウロ司祭に教えているじゃないですか。この国に召喚された異世界の勇者達なら使えるはずです」

「そうか少しずつか。確かに、その方が良いかもしれん。この『魔力纏い』を目に集中して行えば、洗脳されているものがわかるのか」

「はい、目印として、頭の上に邪力の線が付いています。教えて頂ければ、私が切断します」

ついでに、線を通して聖魔法も打ち込みます。あれ、マウロ司祭、何か考え込んでる。

「うーむ、邪力がこの街の中に侵入出来るはずがない。どうして?」

ここであの事を言ってしまうと、アイリスに伝わるけど、いずれ知るはずだし言いますか。

「マウロ司祭、邪族の目的は3つあります。1つ目はアイリスの抹殺、2つ目は街全体を覆っている聖魔法を行使している大型魔導具の破壊、3つ目はスフィアートの陥落です」

「お姉様、聖魔法の魔導具とは何の事ですか?」

「サーシャ、どうしてそれを知っている!司祭以上のものしか知らないトップシークレットじゃぞ」

「街全体の気配を探ればわかります。巧妙に隠してはいますが、聖魔法『クリーチャーリーブ』が施されているのは、すぐわかりました」

「な、なんじゃとー!徹底的に極秘にしていたのに、あっさり見破られるとは。ああ、もう仕方がないわい」

マウロ司祭は観念し、アイリスに聖魔法大型魔導具の事を伝えた。元々、アイリスが成人になったら伝える予定だったみたいね。

「マウロ爺、その魔導具を守らないと、破壊されたら邪族が押し寄せて来る」

「わかっておるよ。魔導具に関しては、まず大丈夫じゃ。仮に居場所を特定されても、聖魔法『ホーリーフィールド』が常時展開されておる。これを解けるのは教皇様だけじゃ。まず破れんだろう。じゃが、万が一も考えられる。急いで残り5人を特定せんといかんな」

『ホーリーフィールド』は、『クリーチャーリーブ』の上位版だ。さすがに、この魔法を大型魔導具には組み込めなかったのね。でも、設置場所に展開されているなら安心か。

「マウロ司祭、その大型魔導具なんですが、なんらかの不具合が発生していると思います。その証拠に、6人が洗脳されていたんですから。恐らく、邪族はそれにいち早く気づいて、今回仕掛けてきているんです」

「----不具合か。日常点検は常にしておったが、魔導具じゃからな。今回の件が片付いたら、早急に修理しないといかんな」

修理か。今やると『ホーリーフィールド』が解除されるから、邪族が間違いなく狙って来る。

「お姉様、教皇様に伝えてはどうでしょうか?あの方は強いです。邪族なんかに洗脳なんかされてませんよ」

教皇様か。伝えるとなると、アイリスの生存まで全部話さないといけない。当然、私の存在も明るみに出る。現状、邪族に狙われている明確な証拠がない。決定的な証拠があれば、多分大丈夫だろう。

でも、今の状態でその選択をすると、周りの貴族達が私をアイリス誘拐犯に仕立て上げて牢屋に入れられ、数日後、みんなが安心しきったところで、邪族が押し寄せて来る未来が見えるよ。多分、権力争いに利用されるわ。スキルに未来視なんてないんだけど、ライトノベルの読みすぎかな?

「それは却下ね。教皇様に伝えると、自動的に周りの貴族達に知られる可能性が高い。今のままだと明確な証拠もないし、多分権力争いに利用されるわ。せめて、マウロ司祭以外にも、強力な味方がいてくれたら良いんだけどね」

「権力争い?なんですか、それ?」

アイリスには、まだわからないか。

「否定したいところじゃが、全くもってそうなる可能性が高い。教皇様も75歳、後継者が誰になるか騒がれているからの。わかった、儂1人で探ってみよう。幸い、邪族が動き出すのは、夜、儂等が寝ている時だけじゃからな。それなら、儂1人でも大丈夫じゃ。しかし、サーシャはどうする?」

「近い内に邪族が攻めて来るのは間違いないので、フィンとアイリスを特訓します。幸い、2つの遺跡はDクラスとCクラス、丁度いい特訓場所です。フィンとアイリスは、今後も邪族に狙われますから、自分自身が強くなってもらわないと」

「一理ある。アイリス様のユニークスキルは、今後の戦いでも重要になってくるじゃろう。わかった、サーシャに任せる。2人を頼むぞ」

「はい、任せて下さい。マウロ司祭、冒険者ギルドのギルド長に邪族襲来の事をそれとなく伝えて下さい。襲来した時に冒険者がいないのは、不味いのでお願いしします」

「わかった、伝えておこう」

「それじゃあ、私達は、アイリスの武器防具を揃えて、遺跡に行くわよ」

「はい、お姉様、遺跡に行くのは初めてです。楽しみです」
「師匠、私はもっともっと強くなってみせます」

今後の方針も決まり、私達は礼拝堂を後にした。

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